徳川家光と愛する男達
克全
第1話:坂部五右衛門
徳川家光は男色家だった。
武士として君臣の契りを結ぶために、衆道として小姓と契るのではなく、女性を忌み嫌い、男性だけを愛し執着していた。
記録から読み解けられる最初の相手は、坂部五右衛門であった。
坂部五右衛門はという小姓だった。
「余は風呂に入るぞ」
徳川家光は愛しい坂部五右衛門と愛を育むため、身体を清めようとした。
全ては愛する坂部五右衛門とのためだった。
精通が始まってから、世継ぎを残せと女を勧められていたが、家光は女が大嫌いであった。
母親のように将軍を尻にしくような女と、性行為をするなど絶対に嫌だった。
だから初体験の相手も中奥の美しい小姓が相手だった。
「うふふふふ、駄目よ、こんな所で」
「いいじゃないか、ここでなければ誰かに見つかってしまう。
竹千代さまに見つかってはただでは済まないぞ」
「うううう、激しくしないで、そっとして、そっとよ。
あああ、そうですね、竹千代さまは嫉妬深いですからね」
家光の目の前で、愛しい坂部五右衛門が他の小姓を組み敷いて激しく責めていた。
四つん這いになった小姓を後ろから愛していた。
昨日あれほど愛し合った坂部五右衛門が、自分以外の男を抱いている。
嫉妬の怒りが心の奥底から湧き上がり、感情の抑えが利かなくなっていた。
許せない、絶対に許せない、自分以外の男を抱くことは絶対に許さない!
「おのれ、五右衛門、覚えたか!」
家光は嫉妬に狂って刀を抜いて五右衛門を斬り捨てた。
幼い頃から、売春を生業にする少年俳優の演じる若衆歌舞伎に憧れ、美しく化粧をし、しなをつくって歌舞伎踊りの真似事をしていた家光だが、同時に将軍に相応しいように厳しく武芸を仕込まれていた。
だから同輩の尻にのしかかっている五右衛門を斬るなど容易い事だった。
坂部五右衛門は、将軍家世子に対する不敬で無礼討ちとされた。
将軍家としても、小姓との痴情のもつれから殺したとは公表できなかった。
将軍は主君であり、建前上犯す事はあっても犯されることは許されなかった。
三百諸侯と旗本八万騎を従える将軍が、夜には小姓に従えられているなど、絶対にあってはならない事だった。
実際には、年齢や相手によってタチとネコは入れ替わるものだし、挿しつ挿されつもよくある事なのだが、将軍家の世子がネコと認める事はできなかった。
だから、坂部五右衛門がタチになろうとして、家光に無礼討ちになったのだと、皆に思わせなければならなかった。
坂部五右衛門に愛されていた小姓は、役目を解かれたが家光(当時竹千代)に殺される事はなかったが、親兄弟が許すわけもなく、密かに殺され病死と届けられた。
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