【カクヨムコン9短編】家内安全、夫夫円満
麻木香豆
上
「ねえ、あの2人。男同士だよね、手を繋いでる」
「やだぁ、腰に手を回して」
周りからそういうふうに言われ、そういう目で見られるのは、とあるカップルの背が低い方の男性、
「また、李仁ったら」
「いいじゃん、見せつけてやりましょうよ」
ゲイである李仁は湊音以上に自身の仕草や言葉で判断されて嫌な思いしてるはずなのだが。
湊音は李仁と出会ってから自分がバイセクシャルとわかったものの、李仁ほど堂々としていられない。
「普通に生活してるんだから」
と、堂々と湊音の頭を撫でてキスをする。きゃーっと声が周りから聞こえるが、さらに増して濃くなるキス。湊音は突き放すと、李仁は首を傾げて笑う。
「いいじゃん、キスくらい」
「キスくらい……って、普通のカップルでさえも公共の場ではしないよ」
「あら、普通ってなぁに? 普通のカップルじゃないの、私たち」
湊音は高校教師。自分の学校の生徒に見られたら……。そういう建前もあって恥じらいもある。
湊音は恥ずかしさのあまり足早に歩き始めると李仁は後ろから追いついて腕を絡ませる。
彼らは夫夫(ふうふ)である。パートナー協定を結び二人は家族になった。そして今日も同じ家に帰る。
実は彼、過去に女性と結婚経験があるが離婚直前に妊娠と一人で育てることを告げられたのだ。なので湊音には遺伝子上では子供がいる。
そもそも彼は女性との結婚に対してモヤモヤしていたのだが、その理由がわからぬまま離婚。結婚も相手の女性がグイグイ引っ張っていくタイプだったため成り行きで、だった。
別に彼は女性が嫌いとかではなく、キスもしたしハグもしたしSEXもしていた。なんならほぼ毎晩といっても良い。
それなのに何か満たされない、何故なのかわからぬまま。仕事の関係でしばらく避妊はしていたが子供を欲しがった妻が湊音を酔わせ、避妊せず至った結果である。
バイセクシャルだと気づいたのは、離婚してすぐに友達に誘われた婚活パーティーでサクラとして参加していた李仁と出会って恋に落ちてから。
李仁と過ごすと何故か自然と素の自分でいられる、その居心地の良さに心も体も捧げてどっぷりハマってしまったのだ。
実は彼もバイセクシャルだが基本は男が好き。もちろん今は湊音だけ好きだが、結婚するまではフラフラといろんな男の人と交際していた。
彼がバイセクシャルと気づいたのは高校の頃。演劇部の男性教師と関係を持ったことから目覚めた。
過去に関しては元ゲイダンサー、元情報屋。家族とは絶縁という経歴の以外は不明。
現在は書店営業マンとバーテンダーの二足のわらじ。仕事中は男、らしい。
忙しいのだがうまくタスクをこなし、機転が効く天才。しかしプライベートでは少しかっこつけるとうまくいかない残念な人間でもある。
そんな二人だが、よく周りから言われることは、結婚したが子供はいらないのかと。
湊音は自分よりも李仁の遺伝子を残したいとは思っているようだ。
「私の遺伝子は残したくないわ。もし私の子供ができても私みたいのが出てきたらどうするの?」
「もしそうだとしても、その子のことを守ってあげるよ」
「そう簡単に言わないで!」
二人の間に沈黙が流れた。
「ミナくん、ごめんなさい」
「僕の方こそごめん」
二人はベッドの上で横たわる。
「子供はそう簡単に育てられるものじゃないよな。高校教師を長年やっても、子供の心が読めない」
「私も、部下の教育してるけどもう大人だっていうのに育てるの大変だったし。嫌になっちゃう」
「その時点でくたばってたら子育て無理だな」
と二人は笑う。そして湊音のおでこにキスをし、抱きしめる李仁。
「今は二人で過ごしたいわ」
「そうだな」
キスをたくさん交わす。湊音は李仁を押し倒した。
「あらぁ、珍しい。今日は湊音くん、上ですかぁ」
「うるさい」
と、照れている湊音は李仁の口をキスで塞いだ。
うやむやにしていたが、ようやく話し合えたことでより一層お互いの絆が深まったようである。
数日後。
李仁が倒れたと湊音は勤務中に連絡が来てタクシーで病院へ。
「槻山李仁は!」
「失礼ですが、ご家族の方で?」
受付の人は湊音をじっと見る。
「李仁の夫です」
と、咄嗟に言ったもののなんかしっくりこない。
病室に駆けつけるとベッドに横たわる李仁がいた。
「ミナ君……」
「李仁ぉおお」
泣き虫な湊音はボロボロに涙を流し、李仁に抱きついた。、
李仁は過労で倒れたと診断された。他に異常はなく、命に関わることでもないそうだ。
昼は書店本部、夜はバーテンダーとして働く。李仁は好きで働いているものの、かなりのハードワークである。
湊音の心配をよそに笑顔でいる李仁。
「そんな顔しないでって。まぁ、ちょっとあそこが元気ないけどぉ」
と笑わせようとしても湊音は笑わない。湊音の両目からボロボロと涙が流れ続ける。
「大丈夫、私たち家族だし。互いに何があってもなんとかなるんだから。貯金もしてるんだし」
「金とかそういう問題じゃない! 李仁そのものがっ、いなくなったら」
李仁は湊音の頬に手をやる。
「周りを頼って。貴方は甘え下手なんだから」
付き合い下手でもあり友達の少ない湊音だったが、李仁が自分の友達を湊音に会わせていたのも、そういう理由があった。
「仕事も調整しなきゃね。来年40だし無茶はしちゃだめね、お互い」
だがまだ泣き続ける湊音。
「甘えん坊、ミナ君。貴方を残して逝けないわ」
李仁も涙をこぼした。湊音の頭を撫でる。そしてキスをする。
実は病室の外には一人……しどろもどろして落ち着かない人物がいる。
「どうしようかなぁ……今日は帰るか?」
彼らの友人である、テーラーのシゲさんが見舞いに駆けつけに来たのだが、二人の世界にいつ入ればいいのかわからないまま。しかも今は……。
そこに看護師さんが検診に来たが、シゲさんが止めた。
「少し待っててもらえますかね」
「え、でも……」
「また呼びますから……」
「時間ですから」
「だからそのー……お取り込み中なんで!」
つい大きな声を出してしまったシゲさん。その声が病室まで聞こえて慌てて李仁と湊音は元どおりにする。二人は目があって笑う。
「李仁、元気じゃん」
「ミナ君のおかげ……」
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