第20~20
始まりの印象はとても明るい職場。今思えば、私に突出した特技等無く、一般になじんで目立たぬ人であれば、こんなに働きやすい場所は無かったのだと思う。体操を主にレクとしてやっているが、その体操のカリキュラムは決められており、その通りの筋肉を使い、その通りにすれば特に目立つ事も無い。ある意味やれやれ。。と思っていた矢先、カラオケの時間になり、ある利用者様からデュエットの相手をしてほしいと言われた。
先にも書いた通り、職員が歌っても問題ないようだとは認識していたが、果して私が歌っても良いものか?
特に私が気にしているのは利用者様の反応ではなく、職員の反応の方であり、
最初は利用者さまからのお願いをスルーした。しかし、その方は何度もデュエットを要求してくることになった。途中で私は社員職員に「歌ってくれと言われているのですが。。」と言うと、「利用者様からのお願いなら聞いてください。」と言われた。。
それでも躊躇し、この日私はこの社員職員に3度聞きに行っている。
「歌えないんですか?それなら無理する必要はないけれど。。」この時、私は「歌えないんです。」と言っておけばヨカッタと今頃になってつくづく思う。
しかし、この時の私は「歌えない訳では無いのですが。。。」とお茶を濁してしまった。「だったら是非歌ってください。利用者さまが喜びます。」と言われ、
私はしゃがんでお席の陰に隠れるようにしてオーソドックスな特に歌の技量を要求されるような曲でもない簡単な誰でも歌えるようなデュエット曲を選らび、それで良いか?と利用者様に聞き、一緒に歌った。
「銀座の恋の物語」だったと記憶している。
この日、利用者様が私の歌を上手いと言い、色っぽいと言い、もう一曲今度は「カナダからの手紙」を歌いたいと言われ、お付き合いし、利用者さまも一通り歌い終わり、最後に一人で歌ってほしい。何か色っぽい歌を。。とリクエストされた。。
再び、職員に相談。
「一人で歌ってもいいのですか?」と。。
私が気になっていたのは職員の反応の方だった。。
少しでも怪訝な雰囲気を感じれば歌わないつもりだった。しかし、反応はその逆で何故か友好的な雰囲気で、「すごいじゃないですか!あんなにうまいんだったらどんどん歌っちゃってください。」と言われた。
この日、私はソロで「ウイスキーがお好きでしょ」を最後に歌った。
その翌日、前日の私の歌を聴いていた利用者さまが「あんた歌上手いね。。一番得意な曲を何か聞かせてくれ。」と言われ、「曼珠沙華」辺りを。それを聞いていた別の利用者様が別の日に、美空ひばりをやってくれ。江利チエミをやってくれ。。 歐陽菲菲を。。。又色っぽい歌をと言われれば、」辺見マリや高橋真利子ジュディオング辺りも歌った。結局、鼠算式に私の歌を聴いて「歌って。。」という利用者様が増えて行った。高齢者でもある利用者様が好むように英語の歌だけは封印して演歌を選ぶようにもしていた。職員の反応は、上手いですね。。だけではなく、中には職員が私にリクエストするくらいだった。。私は一度も歌った事のない「涙そうそう」をブッツケで歌った。ある日、カラオケも終わりになり、誰も歌わなかったタイミングで「何か締めてくれ!」と言われ、「そっとお休み」をうたった時は、本社から来ていた社員さんが。「こういう終わり方もいいな~」と聞こえるように話していた事も印象的だった。それを聞いていた社員職員が別の日に「紫ぐれさん最後は歌で締めてください。」と言う程だった。ドライバーさんが夕方の仕事にやって来て、私の歌を聴いて「癒される。。」等を言っていた。
なので、私は自分の好みで選曲をした事は一度も無かった。常に利用者様が欲しているような曲を歌うようにした。
そして歌だけではない。
カラオケで盆踊りの曲が流れれば、踊った。。
そのお道化る姿を観せているのだという意識を持って。。
要は笑って笑顔で居ていただくために。決して笑われているのではない。笑わせさせていただいているのだ。。と言う意識を忘れないようにしていた。
スローな演歌では昔、得意だった日本調の踊りも一部やって見せて笑いと取った事もある。
そんな時、当時の施設長が私に耳打ちした。
「明日、大人数で見学に来るんです。ガンガンやっちゃってください。」と。。
その見学の日の翌日。「紫ぐれさんのおかげで好印象でした。ありがとう。」とまで施設長に言われた。
ある日、昔、ある楽器が得意だったのに出来なくなった認知症の利用者さまの為に私の歌で蘇ることはないか?とのことでいつかセッション出来るようにって
その方の側で私は歌うように指示され、そんな時、その方が英語の歌を聴きたいとおしゃったのでその時だけ英語の歌を歌った。「スムースオペレーター」
結局その方の楽器力は復活できなかったのだけれど。
そのセッション目標の前に不穏な空気がやってくることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます