寝るホテル

ある日の会社帰り、不思議なお店と出会った。


ホテル?


それにしては小さい気がする。


精神力も体力も削られていたので、泊まれる場所ならどこでもよかった。


「いらっしゃいませ。


お客様は当店のご利用は初めてでしょうか?」


「ここは・・・・・・。」


「初めてでございますか?承知いたしました。


ここでは、夜はぐっすり、朝はすっきり


質の高い睡眠をするための施設でございます。」


「睡眠のための施設・・・?」


「はい。日本人は世界に比べて睡眠不足ということがわかっています。


ここでは、睡眠に集中できるようなサービスを提供しています。


最近ですと、富裕層の方がご利用になられますね。」


「富裕層・・・。いや、いいよ。僕お金ないし、他の安いところをあたるよ。」


「すみません。これでは誤解を与えてしまいますよね。価格としてはお手頃ではあります。


オプションによって高額な物もありますが

基本料金は安く設定させていただいております。」


「でも寝るのは家でもできるし、安いホテルもあるし、ネカフェもで寝れるから大丈夫だよ。」


(そこが差なんですよねぇ)ボソボソ・・・


「え?なんだって?」


「いえ、何でもないです。


睡眠不足を|侮(あなど)ってはいけません。


睡眠不足により、生産効率、集中力、決断力が下がり、あなたの印象も悪くなることがわかっています。」


「え?印象も悪くなるの?」


「そうなんです。これらを解消するために、当店では様々な工夫がされております。


快眠を促す食事、温かいシャワー、リラックスできるアロマの香り、ゆったりとした音楽、そして包み込まれるようなベッド・・・


これでもう明日の仕事も捗ることでしょう!」


プルルルル・・・


「おっと、これは失礼。少々お待ちください。


えーと・・・部屋の清掃員の方からですね。」


ガチャ


(いつもお掃除ありがとうございます。


こちらフロントです。


え?ベッドがびしょびしょ?臭いも酷い?


あー・・・、そちらはお客様に弁償していただきましょう。


よく勘違いされる方がいて困るんですよ。


うちはそういうホテルじゃないって。


備品を汚した場合は弁償していただくと

お客様にも同意いただいたはずなんですけど、はい。


はい。


はーい。


お疲れ様でーす。失礼しまーす。)


ガチャ


「えー・・・というわけで、なかなか寝付けない方、なかなかお家に帰られない方は是非ご利用ください。」


「本当に大丈夫なの?」


「食欲と性欲を満たす施設はあっても、睡眠欲を満たす施設はそうそうないので。」


「うーん・・・。」


ふと壁の時計を見ると、既に深夜0時を回っていた。


仕方なくここに泊まった。


すると翌日、疲れが嘘のように吹き飛んだ。


それからというものの、お金に余裕があればこのお店に通った。


僕は今、みんなに頼られる上司になっている。


あのとき、他のお店を探していたら・・・


もしかするとあの会社で一生社畜として過ごしていたかもしれない。

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