平和な日常
ーーユニーク・スキル 【偽装】ーー
棒切れを聖剣に見せたり、一つを幾千に見せかけられるような、とんでもないスキルではない。
相手の感覚に干渉し、対象に対する評価や脅威、価値を誤認させることができるスキル。
自身を弱く、愚かに誤認させて油断させたり、フェイントや罠の脅威を増減させて嵌め易くしたりするのが、主な使い方だそうだ。
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人に転生して五年が過ぎ、生前の記憶を頼りにオスカー・ヴォルフを調べた結果、分かったことだ。
五歳の俺が、一貴族のスキルを知ることが出来た理由は、何の因果か、死んだ森から近い村で転生したからだ。
つまり、俺はオスカーの領地の村民の息子として生まれ変わっていた。
公明正大だったオスカーは、【偽装】という不正が出来そうなスキルを積極的に開示していたのだ。
最初、オスカーを見誤った理由や俺が死んだ原因が、これで推察することが出来る。
(多分、鎧の下に毒でも仕込んでいたのだろう。
ユニーク・スキルとはいえ、そこまで強力なスキルではない【偽装】で、同じ種族の中でも上位個体の俺を打倒したのは尊敬に値する。
怨み言を言う輩も居るだろうが、オスカーも死んだようだし、弱肉強食が信条の俺は怨むよりも二度目の生に感謝しかなかった。
「シルバー? レオナーちゃんが来たわよー。薪割りは止めてー、相手してあげてー」
「母さん。薪割りは終わったから、すぐに行くよー!」
両親に名付けられた名前は、くすんだ灰色の髪が銀色に見えたようで、シルバと名付けられた。
母さんは、間延びした喋り方だから、まんま
「あらー。もう終わったのー? シルバーは、自慢の息子だねー」
「シルバ凄い! 凄い!! 自慢! 自慢!!」
お隣さんの同年代のレオナが、山菜入れの篭を抱え、明るい茶色の髪を揺らしながら笑顔で兎のように跳ねている。
集落とはいえ、小さな村なので同年代は幼馴染のレオナだけで、子供は五歳上のレオと生まれたばかりのペドロ夫妻のロンを含めても四人だけだ。
「篭を持ってるってことは、今日は山菜採りを頼まれたんだね? レオナ」
「うん! レオナ! 頼まれたの」
「シルバー? 分かってると思うけどー。森の奥までは行かないでねー」
ヴォルフ領は雪深い領地なので、長い冬に備えて子供でも何かしらの仕事を任されることは多い。
当然、無理なことや危険なことが、任されるのは無い。
「分かってるよ、母さん。危険な気配がしたら、すぐに逃げるから」
「うん! 逃げる! 行ってきまーす!」
さっきまで、薪を割るのに使っていた小振りの鉈を腰に携えて、レオナと二人で森の中に向かっていった。
レオナと二人で、今までの手伝いで得たスキル・採取1・を使って、篭の中に食べられる山菜や木の実を片っ端から詰め込んでいく。
五歳で1とはいえ、食べられるか分かる採取1を習得出来たのは異例に近い速さなのだが、これは俺のユニーク・スキルが関係している。
ーーユニーク・スキル 【狼の魂】ーー
相応の魔力を消費することで、生前の
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簡単に言えば、身体強化の魔法の強化補足版だ。
魔法は適正が無ければ基本的に使えないが、火や水を出すのは無理でも、走ることや持つことが出来ないのは特別なケースで無ければ出来る。
魔法の適正とは、
魔力を込めれば込めただけ、速く走れるし筋力も上がるが、嗅覚や味覚に関しては、人に感じられない匂いや味を感じるまでのイメージが出来ないので、そういった強化は出来ない。
俺は生前の狼の感覚を再現することで、食べる食べられないを匂いや味で判断し、的確に採取したおかげで経験値を稼げた。
そのおかげで三歳から手伝い、俺は一年で、俺と一緒に採取していたレオナは二年で習得出来た。
ちなみに、レオナの兄であるレオは五年掛かって、八歳の時なので、密かに嫉妬されている。
(獣の匂いがしてきたな。そろそろ帰るかな)
生前だったら、獲物を探すのに使った能力だが、今は危険回避に使わせてもらっている。
「レオナ。そろそろ帰るよー。準備してー」
「えー!? もうちょっとー! もうちょっとー!!」
レオナは採取1を習得して、仕事を一つ任せられたのが嬉しいらしく、もっともっとと駄々を捏ねるが、危険に晒すのは出来ない。
「駄目だよ、レオナ。僕の母さんと約束したろ? 聞き分けが悪いと、お手伝いさせてもらえなくなるぞ」
「うー! ……わかったー。帰るー」
こうして、何事もなく帰れるので、俺たちは村の一員として、仕事をこなして過ごしている。
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