第5話:競争

「オスカル、私とダンスを踊るのよ」


 第三王女のグレースが横柄にオスカルにダンスを要求した。


「妹の分際で私のパートナーを取らないで!

 オスカルは私とダンスを踊るのよ!」


 妹に先を越された第一王女のマリアンヌが、キイキイ声で文句を言う。

 このような横柄な姉妹を正室に迎えるなど、オスカルとフェルディナンドは真っ平御免だったが、その為には色々と工作しなければいけなかった。


「「オスカルは私の者よ!」」


 オスカルがほんの少し誘いの流し目を送れば、第一王女と第三王女は自分達の立場も忘れてダンスを要求する。

 王女は、爵位の上で公爵令息にダンスを誘っても構わないのだが、女性としてははしたない事をしたことになる。

 しかも姉妹でダンスのパートナーを争うような醜態を見せたとなれば、男爵令嬢の失態は完全に忘却のかなたに送られる。


「マリアンヌ殿下、グレース殿下、喧嘩はおやめください。

 公平にお相手出来るように、フェルディナンドと交互に踊らさせていただきます。

 その代わりと言っては何ですが、今フェルディナンドが踊っている男爵令嬢を、マリアンヌ殿下とグレース殿下が匿ってやっていただけませんか?」


 マリアンヌとグレースは元々仲が悪く、つかみ合いの喧嘩を始めかけていたのだが、オスカルとフェルディナンドの二人と交互に踊れるとなれば、先を争って喧嘩をしている場合ではない。

 それに両殿下共に父親の乱行には辟易していた。

 自分達が中々結婚できないで、憐れみと奇異の眼で見られるのも父親のせいだ。

 毎夜のように犠牲になる貴族令嬢にも僅かに同情の気持ちもあった。


「仕方ありませんわね、弱い者を助けるのは地位ある者の責務ですからね」


 マリアンヌがグレースより先に男爵令嬢を助けて、オスカルに恩を売ろうとした。

 上手くオスカルに恩が売れれば、親友であるフェルディナンドの心も掴めるかもしれない。

 なんだかんだ言っても、マリアンヌは精腹王の娘で、とても多情なのだ。

 オスカルとフェルディナンドの二人を両手に花とできれば、社交界で頭一つ抜きんでる事ができる。


「そんな勝手はわたくしが許さないわ、あの娘を庇護するのはわたくしですわ。

 御姉様の実家の権力では、父王陛下を牽制するなんて不可能ですわ」


 グレースが負けん気を丸出しにして対抗してきた。

 グレースもマリアンヌと同様に精腹王の娘で、とても多情なのだ。

 いや、二人とも社交界で浮名を流している多淫な性格なのだ。

 オスカルとフェルディナンドを同時に侍らせ、いや前後上下から責めさせることを夢見ているのだ。

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