恋の生まれるゴミ捨て場

烏川 ハル

第一話 五島広美

   

 その日、五島広美は掃除当番だった。

 もちろん、彼女一人ではない。何人かのクラスメートが一緒だったのだが、

「五島さん、ごめん! 私、塾があるの! サボったりしたら、お小遣いカットされちゃうから……」

「私はバレー部の練習が……。大会が近くて、先輩たち、ピリピリしてて……」

 などと理由をつけて、一人抜け、二人抜け……。結局、彼女だけになってしまった。

 文句ひとつ口にせず、作り笑顔を浮かべていた広美。だが高校の教室は、一人で掃除するには広すぎる。

 全てが綺麗になったのは、夕焼け空も終わりに向かい、そろそろ暗くなるという時間帯だった。もう一時間も二時間も前に、他のクラスは掃除を終わらせているだろう。

 最後の仕上げとして、ゴミ箱を抱えた広美は、ゴミ捨て場へと歩き始める。

 額には汗が滲んでいたが、

「ふう……」

 校舎の外には涼しい風が吹いており、なんとも心地よかった。

 風に軽くあおられて、長い黒髪がサーっとなびく。

 地味で大人しい広美が唯一、密かに誇りに思っている美しい黒髪。ただし、その魅力をアピールする恋人どころか、女子トークを繰り広げる友人すら、彼女にはいないのだけれど。


「これで終わり!」

 ゴミ捨て場での作業を終えて、自分自身に向かって宣言した時。

 誰もいないはずのその場所で、後ろから彼女に声をかける者があった。

「ずっと前から好きでした! 僕と付き合ってください!」

 驚いて振り返る広美。

 すると目にしたのは、顔を真っ赤にしたクラスメートだった。

   

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