恋の生まれるゴミ捨て場
烏川 ハル
第一話 五島広美
その日、五島広美は掃除当番だった。
もちろん、彼女一人ではない。何人かのクラスメートが一緒だったのだが、
「五島さん、ごめん! 私、塾があるの! サボったりしたら、お小遣いカットされちゃうから……」
「私はバレー部の練習が……。大会が近くて、先輩たち、ピリピリしてて……」
などと理由をつけて、一人抜け、二人抜け……。結局、彼女だけになってしまった。
文句ひとつ口にせず、作り笑顔を浮かべていた広美。だが高校の教室は、一人で掃除するには広すぎる。
全てが綺麗になったのは、夕焼け空も終わりに向かい、そろそろ暗くなるという時間帯だった。もう一時間も二時間も前に、他のクラスは掃除を終わらせているだろう。
最後の仕上げとして、ゴミ箱を抱えた広美は、ゴミ捨て場へと歩き始める。
額には汗が滲んでいたが、
「ふう……」
校舎の外には涼しい風が吹いており、なんとも心地よかった。
風に軽くあおられて、長い黒髪がサーっとなびく。
地味で大人しい広美が唯一、密かに誇りに思っている美しい黒髪。ただし、その魅力をアピールする恋人どころか、女子トークを繰り広げる友人すら、彼女にはいないのだけれど。
「これで終わり!」
ゴミ捨て場での作業を終えて、自分自身に向かって宣言した時。
誰もいないはずのその場所で、後ろから彼女に声をかける者があった。
「ずっと前から好きでした! 僕と付き合ってください!」
驚いて振り返る広美。
すると目にしたのは、顔を真っ赤にしたクラスメートだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます