ARアクションカードゲーム制作中!
「RPG、異世界転生系と通ってきた今こそ、その時。お前に、我が現文研が制作しているゲームを見せてやろう」
姫野が異世界系にハマってから数日後、満を持して、俺達は彼女に自分達の活動を見せることにした。
「あ、そういえばあんた達ってゲーム作ってたんだったわね! すっかり忘れてたわ!」
「おい、忘れるな当部の主な活動内容」
が、それを告げると、ことさら不意を突かれた様子の姫野。何しに来たんだウチに。まぁ、恋愛か。
「ちなみに、他の活動として、小説投稿サイトへの投稿もしていたのだが、お前がウチのパソコンを使い投稿を始めてしまったため、二重アカウント。規約違反となりまるっと削除されてしまった」
「え!? そうなの!? ごめんなさい知らなかったから!」
「いや、それはまあいい。どうせ大して評価されてなかったから」
俺達カワイソス。が、惜しむほどの内容ではなかったため、すぐに切り替えて、ゲームの披露に移る。
そして、俺達は人気がなく、かつある程度の広さがある校舎裏へと移動すると、そこで姫野にいくつかのデバイスを手渡した。
俺達が作ったゲームの名は、アストシグ。Action Survival Trading Card Game、それぞれの頭文字をとってASTCG、それをアストシグと読むことにして付けた中二な仮タイトルである。
その名が示唆する通り、いわゆるTCG、カードゲームにサバゲーの要素のプラスしたようなゲームだ。
従来のTCGは基本的にテーブルの上で戦うものだったが、ASTCGはプレイヤーが動く。動きまくる。アクションしまくる。
動いてエアガンで撃ち合うサバゲーのごとく、カードから飛び出す召喚獣や魔法を用い、バトルフィールドを駆け巡って戦う。
このように新感覚のTCGとなっている、という説明を姫野にしてみたのだが、まあ口でいくら説明するよりも、一回実際にやってみた方が早い。
「これはプロト版だから数枚のカードしか使えないんだけど、とりあえずやってみよう」
「おっけ」
そうして、俺と姫野の対戦が始まる。
俺と姫野は互いに透明なゴーグルを付け、間合いを取って対峙する。手に持ったタブレットにSTARTの文字が表示され、それが消えると、バトル開始。
それと同時に、俺はタブレットの画面に表示された数枚のカードの内、ゴブリンのカードをタッチして、目の前に召喚する。といっても、何も現実に魔物を召喚したわけではない。
今、俺達が付けているゴーグルはタブレットと連動した電子ゴーグルとなっており、これを通して見ると視界の中に魔物や魔法が映って見えるのだ。ARである。
ゲーム開始時にプレイヤーのアクションゲージは、1目盛り分用意されている。カードを繰り出すのに用いるリソースだ。時間経過で溜まっていく。
開始と同時に俺はそれを消費して、ゴブリンを召喚した。
それを見るや、姫野もゴブリンを召喚し、俺のゴブリンを抑えにかかる。校舎裏のアスファルトの上を緑の肌の戦士達が疾駆し、激突する。片方の剣撃を、片方が盾を構えて受け流す。
そんな両魔物のせめぎ合いが眼前で繰り広げられる中、俺と姫野は、互いに相手の動静を窺うばかりで、アクションを起こさなかった。じっと待っていたのだ。ゲージが溜まるその時を。
そして、ついに機は訪れた。アクションゲージが4ゲージを満たしたその瞬間、姫野が先に動いた。タブレットを操作し4ゲージを用いて繰り出したカードは、クラウドオブウルフ。
五匹もの狼が姫野の前に現れるや、ゴブリン達の脇をすり抜け、一直線にこちらに襲い掛かってくる。五匹の波状攻撃を受けたら、一気にピンチに陥る。
しかし、そのタイミングで俺も一枚のカードを切った。タブレットに映る一枚のカードをタッチした一拍後、俺の周囲は激しい爆発に包まれた。
にわかに発生した凄まじい爆発に呑み込まれた五匹の狼は、いずれも一瞬にして消滅してしまう。
狼達を引き付けたところで俺が切ったカードは、エクスプロージョン。自分の周囲にいる者にダメージを与える魔法だ。
狼達は、攻撃力が高い反面、一体一体のライフが低いという欠点も持っている。俺はそこを突いたのだ。
「あっ!」
それに慌てたのは姫野。なにせ、クラウドオブウルフの召喚に用いたゲージは4、俺がエクスプロージョンに用いたゲージは2。この2ゲージの差が大きいことは、初心者の姫野も理解していた。
「もらった!」
ここを勝機と見るや、俺はすかさず2ゲージを用い魔法剣のカードをタッチし、剣の柄状のデバイスを取り出して駆け出した。電子ゴーグル越しには、剣の柄から光の剣身が伸びて見えていた。
「きゃああああ!」
「遅い!」
ゲージがゼロで打つ手なく、悲鳴を上げながら背を向け逃げ出す姫野を捉え、俺は魔法剣を振るい、ライフを削っていく。プレイヤー自らが接近戦を挑むことになる魔法剣の使用。リスクも大きいがそれを利点とできるかは、腕次第である。
「くそー! 食らえ!」
しかし、姫野もその攻撃を必死に回避し持ち堪えると、回復した2ゲージを用い、最後のカードを切った。
姫野は上手く逃げ距離を取ると、タブレットの画面をタッチしハンドガン状のデバイスを取り出した。そしてその引き金を引き、銃口から黄金色に輝く光弾を放った。
銃弾は勢い良く俺のもとに迫ってくる。が、それを見るや俺は横にステップし、その光弾を紙一重のところで回避する。
マジックバレットの速度設定は、時速125キロ。なんの工夫もなく正面から放たれたものであれば、かわせない速度ではない。
魔法を用いたからといって、必ず相手に命中するわけではない。かわすこともできるのだ。これがASTCGと普通のTCGとの違いの一つである。
さらに、魔法剣は一度使えばディスペルされない限りプレイ中に消えることはないが、マジックバレットは飛び道具であり威力も大きいものの、一枚のカードで一発しか装填されない。
「あ――! 負けた――っ!」
また残りゲージ0。打つ手なしの姫野は敗北を悟り、とどめの一撃を受け入れた。
「どうだった? 俺達が作ったゲームは」
対戦後、姫野にプレイした感想を聞いてみると――
「めちゃくちゃ興奮した! 面白かった! なんだ、面白いじゃんあんた達のゲーム!」
諸手を上げ飛び跳ねハイテンションで興奮を伝えてくれる姫野。これは嬉しかった。
そして、それに気をよくした俺は、つい饒舌に熱く語り始める。
「俺達はこのゲームを、RPG感覚で街の中を冒険したり戦闘を楽しんだりもできるゲームにしたいんだ。電子ゴーグルを通じて、街の中にモンスターの映像が出現するようにして、それを倒すとそのモンスターのカードが手に入るようにしてさ。それなら、どこに強いモンスターがいるか探し甲斐も倒し甲斐もあるだろ。見慣れた街が、たちまち冒険の舞台と化すんだ。面白そうだろ」
「おお、凄い!」
「そのシステムが実現すれば、過疎化した地方の地域に人を呼んだりすることもできるかもしれないとかさ、考えるわけよ。そこだけのレアモンスターを配置したりなんかしてさ。自然豊かな天然の冒険の舞台。ワクワクしないか?」
その演説に、目を輝かせてうんうんと頷き、同意を示してくれる姫野。こうなると、俺の熱弁も止まらない。
「ファンタジー系ゲーム、異世界転生小説と来たら、次は実際に自分自身の体で魔物と戦ってみたいって、みんな思うはずだ。このシステムなら、それを擬似的に体験できる。俺達はそんなゲームを作りたいんだ」
俺の話に、姫野は目を見張り、手を打って首肯してくれた。そして、全てを聞き終えると、彼女は俺達に向かって親指を立てて、一言。
「夢があっていいね」
それを聞いた俺達三人は、思わず互いに顔を見合わせてニヤけ合う。初めての女子部員に認めてもらえた。そのことが、俺達にとっては望外の喜びだったのである。
「ただのキモオタじゃないね、あんた達」
そして、姫野はそんな言葉で今日の活動披露を締めくくった。一見、暴言のようにも思えるその言葉が、俺達みたいなヤツらには、最大の賛辞のように耳に響いた。
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