174 神との再戦 02


「ひゃっはー!」


 鬼火の巨馬を生産し、方天画戟を抱え、【獣鬼兵】で編成した騎馬隊を率いて出撃。

 気分は攻める籠城。蒼〇航路の徐州戦の呂布。

 あ、でもあれは最後に負けてるから縁起が悪いか?

 まぁいいか。

 急造砦から飛び出し、モンスターどもを薙ぎ払う。

 方天画戟は村雨改の火と水の精霊力を物質化させて形態変化させている。

 振り回すたびに炎波と水刃が撒かれて間合いの外にも破壊が及ぶ。

 ゴブリンの隊列を薙ぎ払い、巨人の胸を刺し貫く。

 ケンタウロスの騎槍隊を貫通しリッチの魔法戦隊を蹂躙する。

 無限に続くかのような戦列を斑に焼き払う。


「その全てを、手に入れてやるよ」


【葬列の参陣】


 死霊魔法のノリもいい。

 倒した奴は次々と仲間入り。

 数の差は相変わらず覆っていないけれど俺の軍団は順調に増加の一途をたどっている。


「このまま勝てるか?」


 まさかそんなことはないだろうと危機意識を残しながらも、調子に乗っちゃう俺のダメな部分がそんな言葉を吐かせる。

 そして実際、そんなことはなかった。


 そいつらは宙から湧いた。

 召喚されたのか、そういう移動方法なのか。

 ここで作られたのか、それともラインの眷族なのか。


「ちっ、天使か」


 嫌な予感だ。

 空中の戦場から離れた場所に現れた天使の群れは、翼を持っているくせにそれを少しも動かさず、ゆっくりと降下しながらすました顔で手を合わせた。


【聖賛領域】


 天使の群れから眩いばかりの光が降り注ぐ。


「やっぱりそれか!」


 俺の乗っている鬼火馬が消えた。

 付き従っていた【獣鬼兵】も、【葬列の参陣】で増やした連中も。

 急造砦で奮戦していた【無尽歩兵】も【越屍武者】も。

 半分は違う【魔甲戦車】は機能不全で沈黙し、【大食い紳士】と【大食い婦人】も【叫び唱える首塚】も……

 俺の死霊軍団が消え失せる。

 ターンアンデッドだ。

 いわゆる不死属性のモンスターを消滅させる聖なる光の魔法。

 一部のRPGではお約束の魔法。

 もちろん俺が体験した異世界にも存在した。

 だがあちらでは魔力のぶつかり合いとなって強いものが生き残るという力関係だったので結局最後まで俺の死霊軍団が聖属性の魔法の脅威に晒されることはなかった。

 そういう意味では、あちらでラスボスを演じたライン……エンザラインもまたアウェーで苦労していたということになる。

 で、いまは立場が逆転。

 ここはラインのホームで、俺にとってアウェー。

 属性として極端な位置にある死霊軍団を消す方法を実行しない理由もない。


「どうだ? 数の暴力に晒される気持ちは?」


 どこかからラインの哄笑が聞こえる。


「意趣返しかよ!」


 嫌いじゃないけどな。

 俺がやる側なら。


【鋼鉄巨人】や【鋼鉄兵士】、【魔銃騎士団】なんかは影響を受けていない。

 そいつらに態勢の立て直しを命じつつ、まだ出していない連中を投入する。

 ターンアンデッドが最大の弱点だってことがわかっていたんだから、対策をしてないはずもない。


「来い」


【錬金軍団】


 まっ、【鋼鉄巨人】と似ていて芸がないが。

 俺のアイテムボックスから次々とそいつらが吐き出される。

 まず姿を見せたのは巨人の兵【ゴーレムウォリアー】と巨獣の兵【ゴーレムビースト】

 それに続くのは騎士の模造【アルケミアナイト】

 小さな射撃兵【ピクシア】

 魔砲の重戦車【ヘビーキャタピライズ】

 動く城壁にして全てを粉砕する【ホイールモンスター】


 こっちは無限に増えて再生自由とはいかないからもったいぶっていたんだが、こうなっては仕方ない。


「大盤振る舞いだ。やってやるぜ!」

「そうはいかんよ」


【全て無に帰せよ】


 その瞬間、俺の【錬金軍団】が瞬く間に消えた。

 跡形もなく、チリ一つ残さず。

 残っていた【魔銃騎士団】なんかもまとめて消えてしまった。


「ここは私の世界だと知っているはずだ。そこで普通の戦闘力が使えると思ったかね?」

「ちっ」


 声はすれども姿はなく。


「それとも、そこまでできないとでも思ったかね?」

「うるせぇ」

「君は確かに神殺しだが、それは神を殺せるというだけだ。神の力に抗う術を用意するのは、また別の話だぞ」

「うるせぇって!」


 ああ、まったくピンチだ。


「そしてだからこそ、人がそれを持つというのは無意味で皮肉的で、そして悪趣味なジョークなのだ」


 俺の軍団が消えた空隙を埋めるようにモンスターが迫って来る。


「ああくそっ!」


 こうなったらやるしかないのか。

【昇仙】して超火力で焼き払ったところで勝利まで続くことはないだろう。


「ああ、まったく!」


 もう少し準備したかったんだがな、仕方ない。

 アイテムボックスからいつものドリンクを出す。

 赤いドリンク。

 一度の服用はリポDの蓋一杯分。


「あん?」


 少量が収められたドリンクを出す。

 出したはずなのに、それは赤ではなく金色だった。

 こんなの、俺は知らない。

 だが……。

 いつものものをと思ったのにこれが出てきた。

 なら、これはそうなのだ。

 そうなのだと、思うしかない。

 迷っている暇はない。

 一気に飲み干し、瓶を放り捨てる。


 さあ、やるぞ。


【昇神】




------------------------------------------

しばらく不定期更新となります。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る