134 マスターのお仕事


 たまにはマスターっぽいこともしよう。


「というわけで、チキチキC国からせしめたお金でなにしようかか~いぎ」

「わー」


 俺のノリに答えてくれたのはエロ爺だけである。

 経営顧問である。

 出資者だからね、仕方ない。

 他は経営とか人事担当の杜川っち。

 実働部隊トップの亮平。

 開発部門担当の藤堂さんだ。

 そいつら三人は冷めた目をしている。

 ノリの悪い連中である。


「とりあえず、まずは現状の確認と行きましょうか」

「そうしよう」

「おう」


 杜川っちの提案に他の二人が頷く。

 っちとか言っているが杜川っちがエロ爺に次いでの年長者だ。四十五歳。異世界に跳ぶ前から会社経営をしている腕利きの社長さんなのでそのまま『王国』の運営も任せた。

 俺はめんどくさいことはしたくない派の人間なのである。

 三番手が藤堂さん。自分がもう二十代ではないことに静かにショックを受けている三十歳。リアルに鍛冶師でもあるこの人は、魔剣刀匠としてあっちでも剣を打っていた。

 んで、我らが剣聖の佐神亮平。大学卒業したての二十二歳。

 そして現役JKの封月織羽様である。


「まずはダンジョン攻略関係だね。こっちは国内での大きな仕事はあらかた片付いた。いくつかの大型クランが出来上がったから、そちらに仕事を奪われていることもあるけど、まっ、こんな忙しい日々をこれからもずっとっていうのは人材の健康管理面での問題から無理だったわけだしこの縄張りの構築は僕たちにとってもありがたいことだね」

「次は私だね。クラン専用のアプリが完成したおかげでメンバーのスケジュール管理が非常に楽になった。瑞原君のインスタントダンジョン通知もやりやすくなっているはずだよ。その他の各種事業も順調……とはまぁ言い難いがいまは投資の時期だ。成長を待つしかないね。後は我がクランの物資回収手段が外部で目を付けられているね。あの技術は奪われる可能性があるものなのかな?」

「ないだろ? ……と断言したいがね。マスター。どうなんだい?」


 藤堂さんが口を挟み、俺に投げてくる。

 開発部門担当者だから、やはり気になるんだろうな。


「されたら面白いけど、大丈夫じゃないかな?」

「なるほど。それなら転移運送事業の件はこのまま進めても大丈夫だね?」

「もちろん。よろしく」

「では、いまのところは以上だ」

「次はオレだな。開発部門としてはメンバーの装備をメンテナンスする人材がやや不足だな。新規開発もいいが、現状を維持する人材の確保もお願いしたい。後はあれだ。お嬢の直轄になってるルーサー嬢をこっちに回して欲しいな。来てくれるなら開発部門の長の座ぐらいは喜んで譲ってやる」

「クラフト系の職業持ちはもともと少なかったからね。うちは早めに人材確保に走っていたけど、これだけはなんともしがたい。募集は続けているんだよね? 杜川さん?」

「もちろんだ」

「後、開発部門の長は藤堂さんがいらないだけだよね?」

「んなこたぁない。剣のことなら負ける気はないが、ルーサー嬢の方が俺よりはるかに開発部門の長ってイメージにあった能力を持ってるだろ? どうよお嬢」

「Lの件は却下。あれは俺の玩具を作るのが専門」

「玩具って……。いや、お嬢の玩具が普通じゃないのはわかってるが」

「それに、Lは『王国』のクランメンバーじゃない。あくまで俺に雇われてるんであって、ギャラも俺のポケットマネーから出てる。Lを招こうと思ったら別に招かないといけないぞ?」

「むう……どうよ杜川さん」

「マスター。ルーサー女史を招こうと思ったらどれくらいいる?」

「さあ? お高いんじゃね?」

「雇えるかどうかはさておき、ルーサーさんにこっちの仕事を頼むと織羽ちゃんの楽しみを奪っちゃうんじゃないかい?」

「あー」

「むむ」

「うん? 俺が頼んでることをちゃんとしてくれるんならLがなにしてようと知らんよ?」

「でも、紹介はしないと?」

「まぁね」

「はいはい。これはだめだね。次に行こう」


 亮平がそう決めつける。

 嘘じゃないぞ。

 紹介はしないが、交渉するのは自由だ。

 ただ、俺の予想だといまはめっちゃ忙しいと思うけどな。


「さて、では次は……マスターが話したがっている例の報酬の使い方、だけど」


 亮平が苦笑気味な顔で言葉を濁す。


「杜川さん、使い道あります?」

「そりゃ、あるさ」


 話を振られた杜川っちもなんだか苦笑気味だ。

 なぜだ?


「本部周辺の土地を買っている最中だが、購入とその後の運用資金に追加してくれるならこれ以上心強いものはない」

「うわ、この辺りを実質的領土にするつもりですか?」

「そこまでダイレクトな話ではないがね。こんな混迷の世の中ではこの『王国』というクランの本部がある地域は安全性を担保されたも同然ということになる。不動産関連はすでに動いているよ。彼らに美味しい思いをさせるぐらいなら、うちで抑えられるだけ抑えておくべきだろう?」

「そりゃそうでしょうね」

「では、開発部門は?」

「ん~うちはそこまでは。おかげさんで資材には困っていないし、金よりも人材だな」

「なるほど。僕ら実働部隊もね。予算だけあってもね。いまでも十分だし、バックアップは充実してる。こまごまとした不満はあるけれど、それの解消はいままでの儲けで十分に改善できるだろうからね」

「つまり、お金要るのは不動産だけか。よしやるか」

「まぁ、お待ちなさい。マスター」


 やる気になっていると杜川っちに止められた。


「そもそも、そのお金はマスター個人の収入なのだよ?」

「は?」

「契約書にそう書かれているだろう? クランの名前は書いていない」

「え? え? いやいや待て待て」


 え~じゃあ、それだと、俺って個人の儲けのためにクランの仕事を放り出してC国まで行ったことになるやん?


「それって最低やん?」

「最低だねぇ」

「社長個人の金を会社に投入していると銀行からの信用なんかが失われるからね。いまは余裕もあるわけだし、この話はなしだね」

「ノー」


 JK失敗する。

 いや、別にこれはJKだからとかじゃないな。

 なんちゅうオチだよ、まったく。


「まぁまぁ、儂がうまく回しといてあげるからの」


 エロ爺の慰めは全くうれしくない。


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