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さて二日目。
濃密なイベント塗れの初日に比べると淡白に何もない日だった。
朝一番に目を覚まして【瞑想】で海の魔力をたっぷりと吸い取る。
(主様、よろしいか?)
ちょっと思い立って村雨改を側において【瞑想】していたのだが終わったところで話しかけて来た。
(どうした?)
霧はまだ寝ている。夜の体力は無尽蔵な霧さんだが一度寝ると起きるのに手間取る。低血圧なのだろう。別に学校があるわけでもないので朝食に呼ばれるまで寝かせておいてやるつもりだ。
彼女が寝ているので俺も精神波で応じる。
(主様はかなり特殊な質と量の魔力を持っておられるようだが、もしや神族に連なる方なのだろうか?)
(ううん~残念、ハズレ)
(そうなのか?)
(まぁ神の依頼を受けて色々したこともあるけどな)
どうも村雨改は自分が世界を行ったり来たりしている自覚はないようだ。記憶がないようなのでそのせいか?
異世界帰還者とかの話もいずれするとしよう。
(ですが主様にはなにか我と通じるところがある。主様はご自分で気付かないまま神族に昇華されておられるのではないだろうか?)
(それはあるかもなぁ)
仙法の【昇神】もできるし、女神には死んだら神に列したいとか言われて帰還後すぐにネックハンギングさせられそうになった。
そんなんだから神獣水龍である村雨改に同族っぽく感じられたのかもしれない。
(まっ、もし本当に神族っぽいなにかになってたとしても俺のやることは変わらないわけだし)
俺は神になったぞ~~~~ふはははははーーーー!! みたいなことをしたいわけでもないし。
……いや、これから何が起こるかわからないわけだし、俺が悪役になるような状況だって考えられるんだから、もしかしたらその時にはこのセリフを使うかもしれない。
世界の敵か……そうなったらそうなったで面白いな。
(主様、なにか不穏なことをお考えではないか?)
(ただの妄想だよ)
(そうか……)
(なんだ? お前は人の世に干渉するタイプの神獣か?)
(いや、そうではなかったとは思うが……よくわからない)
(まっ、新しい神生を楽しめ。覚えていない昔のことに縛られる必要なんてないさ)
(そうかもしれないな)
ちなみに、村雨改の声は性別不明の声変わり前の子供みたいな声だ。
そんな声なのに老成したような喋り方なもんだからちょっと面白い。
(まぁ、お前も英気を養え)
そう言って、俺は再び【瞑想】に沈んだ。
海の魔力は豊潤だが底が深く冷たい。
流れ込んでくる魔力に感覚を逆流させて海全体を感知する。泳ぎ過ぎていく無数の魚群を眺め、光の届かない深海から覗き見てくる生命たちと目を合わせ、凍り付きそうな底に向かっていたはずなのに、唐突な熱に驚く。
海底火山だ。
星の中枢からの圧縮された魔力の流れを捕らえたことで入り込んでくる質と量が段違いに増した。
(こ、これは心核の魔力!)
村雨改も驚いている。
(なんという強烈な魔力! 主様、飲まれてしまいます!)
いやいや、これぐらいはなんということはないよ。
流れを作り、流れに乗る。逆らうのではなく、流れの表面で沈まずに同じ場所をグルグルと回る笹船のような気分を維持し続ける。
さすが海だ。
高い場所で空を割って宇宙の魔力流に乗るのも乙だが、星の魔力流は生命の血流に似ていて興味深い。面白い。そして魔力の密度が圧倒的に濃い。
量は宇宙の方が圧倒的だけどな。
人が酸素を取り込んで血液の循環を維持するように、星は宇宙の魔力流から魔力を取り込むことで地球全体の魔力流の浄化を行っている。
ただ、酸素は呼吸によって二酸化炭素となるが、魔力は星の循環に入ることでその濃度を増すのみだ。
星がどのように魔力を消費しているのか、その詳細は判明していない。生命、あるいはすべての物質の根源因子が魔力であるという説もあるし、魔力からの物質化も可能ではあるが、それらはいまだ仮説の域を出てはいない。
人はそれを魔法として使用する。
魔法によって消費された魔力は低濃度の魔力滓となって消えていく。実際には消えているのではなく魔力流に呑み込まれている。
これは誰かの戦闘中に【瞑想】をしているとよくわかる。
たとえば、船内でやり合っている誰かさんたちを覗き見たりするとか……。
†††††
豪華客船クラウン・オブ・マレッサにはカジノ施設もある。そこまで広くもないが、ここでの目玉は賭け試合だ。
異世界帰還者同士の戦い。闘技場の破壊行為以外の全てが許された戦いは通常の試合にはない過激さが存在する。
もちろん、人によっては魔法が介在する戦いはアニメ的過ぎて好きではないという意見もある。非現実的だと。だが、この船の存在を知る者にとっては魔法の存在もまたリアルだ。
いまは試合の時間ではない。
最低限の照明だけが灯されたリングは円蓋状の金網に囲われている。リングの内外を魔法が行き交わないようにするための結界装置だ。
中で戦っているのは二人の男だ。
ボクシングスタイルのパンツとシューズ。グローブはバンテージグローブというものを装着している。
肉を打つ音は重いが、どちらも表情を揺るがすことはない。
本気ではない。ただの練習なのだろう。それでもお互いの打撃で肌は赤くなり、血がにじんでいる部分もある。
だが、それらはすぐに元に戻る。魔法による回復が行われているからだ。
拳打のみの応酬だが、ボクシングとは動きが違う。あえて蹴りを使っていない様子だ。高等技術の応酬は肉体強化の成果もあるのだろう。
だが、磨かれた技術を魔法で再現されたものでないことは明らかだった。
†††††
(なかなか良いものが見れた)
手練れらしき二人の戦士の戦いを魔力の動きだけで観察し、俺は満足して【瞑想】を終えた。
スマホが着信音を鳴らすエロ爺から朝食の誘いだった。
二日目は特に大きな出来事もなく終了した。
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