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 さて、オークションだ。

 オークションがある日はパーティ会場がそれ用に切り替わる。いつもならバンドの演奏があったり誰かがショーをしたりと色々な催し物があるのだが、今夜はそういうものはなくわずかに緊張感が漂ってさえいた。

 オークションもショーの一つとして考えることもできるだろうが、それは傍観者だけなのかもしれない。売り手はなるべく高値で売れるように。買い手は狙いの物が手に入るようにとそれぞれが緊張感を宿らせている。

 それはどれだけ表情を取り繕っていても隠せやしない。

 テーブルを三つほど占拠して全員で食事を摂りつつ、オークションが始まるのを待っているとホーリーが近づいてきた。


「こんばんは、ミスター・封月」

「おお、ミスター・ギルバーランド。今夜は参加かな?」

「いえいえ。ただ食事をしに来ただけですよ?」

「そうかの? 相談事があるなら聞かんでもないぞ」

「それは心強い」

「あんたに恩を売れるなら安い物じゃろ」


 爺さんと世間話を始めたホーリーの背後には秘書然とした美人と、海に投げたはずのブーメランパンツの男がいた。いまは場に合わせたスーツ姿だ。

 俺と目が合って苦い笑みを浮かべている。

 あれを恨みに思わないとは意外にすっきりした男かもしれない。

 はは~ん。もしかしたらホーリーの命令でナンパしに来たんだったりしてな。

 だが、JK相手にブーメランを見せつけるような男であることを忘れてはならない。


「では、ミスター・封月。良い夜を」

「ああ、ミスター・ギルバーランド。そちらもな」


 テーブルに置かれていた今宵の出品目録を眺めていると二人の会話が終わってホーリーたちがテーブルに向かっていく。

 去り際に俺に向かってホーリーが視線を送って来た。バッチコーンとウィンクだ。


「……あいつ絶対、自分が色男だと思ってるよな」

「カッコいいのは事実だけどね」

「……ククク、儂の孫に色目を使うとは良い度胸じゃないかの。ギルバーランド」

「はい、爺さん、落ち着け」


 運ばれてくるのはフランス料理のコースだ。

 上品で少ない料理に物足りなさを感じているとオークションが始まった。


「お客様方、お待たせいたしました。それではオークションを始めましょう」


 舞台に現れた司会者の言葉を皆が拍手で歓迎する。


「今宵も最上級の品が揃っております。それでは最初の品を紹介いたしましょう」

「なぁ、爺さん、どうやってオークションに参加すればいいんだ?」

「欲しい商品が出たらこの札を上げればいい」


 と、目録と一緒に置かれていた番号が書かれた札を示す。クイズ番組とかでピコンと立ち上がりそうな番号札だ。

 数字は七。


「それを上げているだけで買う意思を表明できる。後は札を上げておるのが一人になるまで司会者が勝手に値を上げていく。一気に勝負をしたければこちらから値を提示してもいい」

「なるほど。映画とかで見たことがあるのと一緒だな」

「うむうむ」


 なんてことを言っている間に一つ目の商品が落札された。

 早い。

 なんだったっけか? ああ、能力補助が付与された指輪だったか。あれ、プレートには書かれてなかったが罠みたいなデバフが潜んでいたぞ。

 もしかしたら、ああいうのを呪いの指輪っていうのかもな。

 ドヤ顔で周りの拍手を受け止めているのはフランス人っぽい男だ。ご愁傷様。

 さて、俺の刀は三番手だ。

 次、二番目に出てきたのは水晶っぽい球。大きさはスーパーボールの大玉くらいだ。魔力回復を補助してくれる魔道具という説明で俺の【鑑定】でも同じ内容だった。だがいらね。【瞑想】を常時使用できるようになったらあれの回復補助なんて雀の涙程度だぞ。

 そんなものが五千万円で売れた。マジかと言いたい。最初の指輪は三千万円だ。

 あっ、実際のやりとりはドルで行われている。日本円表示は俺のテキトー換算だ。


「さて、では三番目の品。こちらは異世界では珍しい刀に類似した剣です。付与された属性は水属性です。では、一千万円からスタート」


 俺は札を上げた。


「え? あれがいるの?」

「ああ」


 Lが驚いた顔をしている。


「本気? 付与程度もたいしたことないし、珍しいのは形ぐらいじゃない?」

「まっ、そうかもね」


 周りからの反応もLと同じぐらいのようだ。俺以外には三人が札を上げていたが、司会が値段を二千万にしたところで下がった。ちょっと興味があった、ぐらいのものなのだろうか。


「では、七番のお客様が二千万円で落札に決定いたしました」


 お約束の木槌を打つ音で村雨改は俺の物に決まった。


「いえい」


 俺が喜んでいるのが誰も信じられないようだ。


「よかったのう」


 同じように喜んでいるのはエロ爺くらいか。

 いや、霧はなんか涼しい顔だ。「どうせ俺のやること」ぐらいに思っているのだろう。その通りだ。

 ウェイターが来て落札した商品をどうするか聞かれたのでこの場で受け取ることにする。支払いは乗船客の手続きをした時のギルドアプリに紐づけされている。アプリの電子マネーでの支払い限度額は一億円までなので、それ以上の場合は他の支払い方法となる。いつもニコニコ現金払いがそれだ。

 支払方法は買い手側が指定する場合もあるそうだが、今回は電子マネーで問題なかった。

 運ばれてきた刀を無事に受け取る。【鑑定】してみたがあの時と同じ村雨改だ。偽物にすり替えられるとかのイベントはなかったか。


「やったぜ」

「わっかんないなぁ」

「まっ、後のお楽しみで」


 武器を出したままというのも行儀が悪いのでアイテムボックスに片づけておく。

 その後は普通にオークションを楽しみつつ食事をした。

 もちろんあんなコース料理で足りるはずがないからおかわりをした。




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