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 付いてきたのは霧とL、エロ爺と鷹島とアーロンだ。

 オークションの受付は船の中央に近い位置にあった。パーティ会場に近い場所でもある。オークションはあそこで行われるそうだ。


「オークションは偶数日に行われておりますが、出品物がなければ行わない日もございます」


 受付の奥には保護ケースに守られた商品が陳列されている。


「あちらに並んでいるのは近々オークションに出品される物です。乗船客の皆さまであればどなたでもご覧になることができます」

「ふうん」

「見に行くかの?」

「いや、先に出品の手続きを済ませたい」

「ありがとうございます。それでは、出品なさりたい物をお見せください」

「とりあえず、これから」


 と、赤の籠手を出してみる。

 係りの男はわざとらしく片眼鏡を使って覗き込んでいるが、【鑑定】は自身のスキルであることはバレバレだ。

 少し待たされた。無駄に【鑑定】に時間をかけるものだ。

 結果は、片方の口角をわずかに上げたのでわかる。

 小ばかにしている。


「お客様、申し訳ありません。こちらの防具はこの船のオークションにはふさわしくないものかと」

「そうかい?」

「はい。セット防具ですので、せめても全てを揃えていただかなくては。そうでないのであれば冒険者ギルド主催のネットオークションに出されるのが無難かと」

「なるほど。わかった」


 悪いな霧、ちょっとしたジャブ気分で出したらすごい勢いで馬鹿にされてしまった。

 澄ました顔を維持しようとしているがその内心がだだ洩れだ。


『小娘めが、世界を知れ。ここはクラウン・オブ・マレッサだぞ』


 みたいな感じに違いない。

 さて、それならもう一度、ジャブをしてみようか。

 こっちに戻ってからのダンジョンで手に入れた物品は赤の籠手とたいして変わらない能力だからさすがにそいつらを出すのは調子に乗らせるだけだ。

 となると、向こうの世界で使っていた物品がいいかな?


「ん~じゃ、これならどうだ?」


 と、俺は一振りの剣を出す。

 小剣。ショートソードとかいわれるサイズ感の剣だ。

 装飾はあまり派手な方じゃない。


「こちらですか?」


 と、小ばかな雰囲気なまま片眼鏡に手を添える。なんなんだ? そういう仕草をしないと【鑑定】が使えないのか?

 しかも無駄に時間かかるし。


「なっ、こ、これは!?」


 なんか驚愕してる。


「ミスリル純度八十パーセント以上!」

「ん? そんなに珍しいか?」


 珍しいのか?

 ミスリルの純度なんか気にしたことがないな。


「難しいよう」


 と、いままで黙っていたLが言った。


「普通にミスリル……魔銀を錬成しようとすると、だいたい純度五十パーセントぐらいになっちゃうよね」

「ふうん」


 五十パーセント?

 俺がアイテムボックス内で錬成する手抜きミスリルでも七十パーセント代だが?


「ミスリルの魔力伝導率は純度で変わるからね。魔法戦士系の人らにとっては垂涎に近い商品じゃないかな」

「へぇ」

「こんないい剣、本当に出していいの?」

「もちろん。だってこれ、俺が剣の使い方を覚える用にもらった物だし」


「「「はぁっ⁉」」」


 それにこの程度のスペック。いまの魔神王の肋骨で作ったレイピアの方が余裕で勝っている。

 魔力伝導率にこだわるならミスリルよりもいいのが開発されてる。混合魔銀ミスリルアマルガムだ。レイピアの柄にはそれを使っている。


「とはいえ、おたくのその反応だと商品として通用しそうだな?」

「は……はい」

「うわぁ、剣としてはいらないけど素材としては欲しいなぁ」


 後ろでLが悶えている。

 まっ、いまは放っておこう。ほんとにいるなら作ってやれるし。


「で、では……こちらを出品させていただきますが、以上でしょうか?」

「いやいや、まだあるよ?」


 今回来たのは向こうでもらった報酬の金銀財宝を換金するためだ。

 このままさっきの小剣をずらりと並べてもいいけどそれだと芸がない。

 さあ、もっと驚け。

 はい、ドン。


「ぬあっ!」

「はぁっ!?」


 片眼鏡とLが仰け反る。

 霧は小さくため息を吐き、アーロンは声は抑えたが目を剥いて固まっている。


「ほう、前のより大きいのう」


 エロ爺と鷹島だけが落ち着いている。


「お、お、お嬢様? これって?」

「うん。異世界宝石だよ」


 きょどるLで冗談めかして答えてやる。

 琥珀っぽい蜂蜜色の宝石の原石だ。

 その重さ百キロ超。


「あっ! ま、まさかちょっと前に冒険者ギルドのネットオークションに出品された異世界宝石って!」

「そうそう」

「お嬢様~一生付いていくから、それギブミ~」

「残念~資金がいるのデス」

「ノー~~~~」


 そんなアホなやり取りをしている間にちょっとだけ正気を取り戻した片眼鏡が【鑑定】を済ませた。


「たしかに、異世界宝石です」

「出品は?」

「もちろん、可能です。むしろメインイベントにもなり得る品かと」

「そりゃよかった。なら頼む」

「はい。あの……オークションへの出品は最低でも三日後。その間はこの奥でお客様方にお披露目されることとなりますが。いつになさいますか?」

「どうがいいんだ?」


 と、エロ爺に聞く。


「ふむ。大金が動くからの。この場にいない金持ちどもを呼び寄せたいなら一月ぐらいは間を持たせてもええんじゃないかの?」

「一月もここで待ってる趣味はないぞ?」

「ネットオークションとは違って、参加権はこの船の乗客にしかないからの。乗客に金持ちがおるなら三日後でもいいが」

「とはいえ一月も待つのもな」

「なら、六日後あたりでどうじゃ? 下船の前日。最後のイベントということで」

「そんなもんかな。じゃあそれで」

「ほ、本当によろしいのですか?」

「とりあえず即金が欲しいし」


 ふふふ、これが最後の……しかも最大だと思われても困る。

 とはいえいきなりどかんと全部出しても値崩れするだけだろうし。ミスリルの純度でここまで騒ぐんだから、なにかに加工して売るっていうのもありだよな。


「ああ、もったいない」

「いいから、出品されてるの見に行こうぜ」


 運ばれていく異世界宝石を未練たっぷりに見送るLを引っ張って俺たちは奥にあるオークションの出品物を見に行った。



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