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学力に異世界の努力は適応していない。
むしろあっちで戦闘能力を磨いている間に俺の中の基礎教養はぼろぼろと零れ落ちていた。
すごくやばかった。
霧がみっちりと鍛えてくれなかったら本気でやばかった。
「……うちって市内でもわりとレベル低かったよな」
「……そうね」
最近肉体系鍛錬ばかりやっていたから頭脳系鍛錬が辛い。
テスト終了した時にはすっかり疲れ果てていた。
マンションに戻るなりソファに倒れて、まだ起きる気力がわかない。
「その割には、霧って頭いいよな」
終わったばかりだから点数ははっきりしていないが、テストの点はかなりいいところまで行けた気がする。
少なくとも、最初の肉体の頃の俺の学力ではテストであれだけの手ごたえを感じたことはなかった。
そんな俺が結果を残せたのは霧の教えのおかげで間違いない。
「高校卒業したらここを離れるつもりだから」
「ふうん」
「だから、どうせなら良い大学に入りたいの。誰もが納得するような大学。それならここを出ていく名分として恥ずかしくないでしょう?」
「なるほど」
その名分が誰に必要なものなのか……俺はあえて聞かなかった。
「大学かぁ……考えたことなかったな」
前の俺だと、実家を継ぐつもりだったから勉強もテキトーだったからな。余裕があったら料理の専門学校に行きたいって考えてたぐらいか。
「卒業したらどうするの?」
「さあて……大学行くもよし、ぶらぶらするもよし」
勤め人っていう選択肢が出ない辺り、俺のダメ人間ぶりが垣間見えてしまうやもしれぬ。
いや、起業するというのも手かな。
「霧に付いていってヒモっぽく生きるのもいいかな」
「ヒモって……」
「だめか?」
「だめじゃないけど。どうせ織羽のことだから自分でお金はなんとかするでしょ?」
「まぁそうかもな」
「でも、付いて来てくれるって言ってくれたのは嬉しい」
近づいてくる霧の唇を受け入れ、二人の打ち上げを楽しんだ。
だが勝てぬ。
†††††
うちの学校は期末テスト明けに土日を巻き込んでの連休がある。それを利用して近県の不人気ダンジョンを攻略してしまおうということになった。
今回はY県だ。
千鳳の都合もいいらしいので運転を頼み、夕方に出発する。
今回は管理人の方の鷹島に頼んで宿も取ってある。露天風呂付の部屋だ。千鳳の部屋も隣に取ってある。
「なんだかすいません」
「こっちの都合に合わせているんだから別にいいさ」
宿に到着してから部屋の豪華さに驚いた千鳳が礼を言いに来た。
最初は元ヤンな雰囲気でツンケンしていた彼女ともかなり馴染みつつある。単純に人見知りなだけだったのかもしれないな。
今日はもう宿でだらだらする予定なので、もう少し彼女のことを知るべく夕食は同じ部屋にするように宿に頼んだ。
テーブル一杯に並んだ料理にただただ満足する。
千鳳は成人しているので酒を勧めてみた。飲めないわけではないようだが俺たちが未成年なので遠慮しているようだ。
無理に勧めるのもアルハラかと部屋に戻ってから頼みなさいと言っておく。だってちょっと物足りなさそうな顔をしていたからな。飲みたいに違いない。
「そういえば、バイトをしてるんじゃなかったっけ?」
「あ、クビになりました」
あっけらかんと千鳳が言う。
「なにをしたんだ?」
「いえ、スーパーで品出しのバイトしてたんですけど、ボケ爺が同僚にセクハラしてたんで、ちょっと、ゴンと……」
そう言って拳を寸勁みたいな感じで動かした。
「背骨砕いたのか?」
「まさか、ちょっとぎっくり腰にしただけっすよ」
「ふうん」
「砕くなんて……できるわけないじゃないっすか」
「そうか?」
エロ爺のところにいる鷹島もそうだし、管理人をしている息子夫婦も、そして孫の千鳳にしても……一般人というには纏っている雰囲気が違う。
鷹島単体ならエロ爺が金を積んで元傭兵とか元軍人とかに執事をさせているとでも思えるのだが、親子三代で独自の空気を纏っている。
この個体は####によって情報がロックされています。
開示には####の許可がいります。申請しますかY/N。
千鳳を【鑑定】しようとするとこういう表示が出る。実は鷹島の人間は皆そうだ。
文脈からして####というのは個人だろう。
いや個神かもな。
どちらにしても普通ではないってことだろうな。
まっ、敵対するわけでもない相手まで根掘り葉掘り調べる気もない。
千鳳が部屋に戻ると宿の人がやって来て料理を片付け布団の準備を始める。
その間に宿の中をぶらぶらと散歩する。霧は大浴場の方にも行ってみるというので俺はお土産コーナーを見たり、地元の牛乳を使ったというアイスを食べたりする。部屋風呂の方にもう入っているのでもう風呂は良い。気が向いたら朝風呂に入ろうぐらいだな。
「そこの浴衣美人さん」
お土産コーナーにあった温泉饅頭みたいなのを買い、近くのテーブルで饅頭を摘まみながらコーヒーを飲んでいるとナンパされた。
「よかったら、僕とお話しませんか?」
そう言って大学生っぽい好青年が覗き込むようにして笑ってきた。
問答無用で【鑑定】を使った。
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