113(2,998歳)「土地と店と従業員を手に入れる」
「はい、こちらがこの旅最後の目的地、王都です」
アジェンテさんの【瞬間移動】で連れて来てもらったのは、王都の『【瞬間移動】用ポート』。
ポート、といっても床に魔法陣が描かれている以外は何もない小部屋だ。
魔王国は【瞬間移動】持ちが多いため、野放しにしていると誰かや何かが存在する空間に別の誰かが【瞬間移動】で現れるという『接触事故』が発生しかねない。だからどんな小さな村にも最低ひとつはこういう部屋があって、人々は必ず『ポート』の中に【瞬間移動】するように義務付けられている。
そして何が素晴らしいのがこの『ポート』、先客が中にいる間は他者が【瞬間移動】しようとすると相手側に通知しつつ【瞬間移動】を阻害する機能が付いている。通知機能は市販の
城塞都市でビジューさんが好き勝手【瞬間移動】してたのは、彼がその魔力量故に何でもかんでも許されてたからに過ぎない。
いいね! この仕組み、王国にも取り入れるとしよう。
『ポート』から出ると、そこは大都会だった!
現代地球の先進国か! って感じの、鉄筋コンクリートとガラス窓をふんだんに使った、それでいてセンスにあふれた街並み。
そしてそんな情緒を吹き飛ばす、そこかしこに掲げられた広告の看板。
だけど良かった……電光掲示板は見当たらない。まぁ城塞都市でもそうだったけどさ。
これなら、パソコンによる業務改善無双は可能なようだね。
「ついでに王都も案内しましょうか?」
「あざっす! これ追加報酬」
「うっひょぉ~!」
巨大ブリリアントカット・ダイヤモンドを受け取り、小躍りのアジェンテさん。
大通りで宙に浮くタクシーを捕まえ、アジェンテさんのなじみに喫茶店に行く。
ちなみに魔王国の大都市では、【飛翔】による好き勝手な移動は緊急時以外は許されていない。理由は簡単で、『危ないから』。
そりゃ朝『遅刻しちゃう~』なんて言いながら食パン加えて全力【飛翔】しながら四つ角へ突入したりしたら、相手とぶつかって『いったぁ~い!』じゃ済まんわな。死人が出る。
なるほどねぇ……魔法前提社会って、必ずしも便利なだけじゃあないんだね。
王国の方も、この辺整備していかなきゃな……。
で、喫茶店で軽食を摂りながら、アジェンテさんから王都の地図兼観光スポット集をもらう。こういうのがさらりと出てくるあたり、【瞬間移動】と旅行専門の冒険者――という名のツアー案内人――なんだなぁと感心する。
「ご所望の商人ギルドは、中央広場に面したここにあります。他のギルドや教会も広場沿い。まぁどの都も同じですよね。では一緒に行ってみましょうか」
「はい!」
店を出て、『歩行者用通路』に指定されたところを緩やかな【飛翔】で進む。推奨速度は時速10~15キロメートル、上限速度は時速20キロメートル。まぁママチャリくらいの速度だね。推奨高度は2~5メートル。これは、普通に歩いている人を轢かないための措置なのだそうだ。
ちなみに私たちは全員スカート姿なので、適当なサイズの【アースウォール】を足元に【テレキネシス】で固定している。
このレベルまで器用なことができない人は、素直に歩くか魔導車や公共交通機関を使えってことらしい。
まぁ周りを観察していると、下着のことなんてまったく気にせず上限ギリギリの速度で【飛翔】しているキャリアウーマン風な猛者とかもいたけど。納期か何かでも差し迫っているのだろう、きっと。
んなことを考えていると、ほどなくして中央広場に着いた。
「アジェンテさん、お世話になりました!」
「こちらこそ、超割の良い仕事を、ありがとうございました!」
◇ ◆ ◇ ◆
「というわけで、王都の一等地に店舗兼オフィスを構えたいのです。あと商人ギルド登録」
「はい、こちらのギルド登録申請書にお名前とご年齢を――えっ、ア・リ・ソ・ン・様!? しょ、少々お待ちください!!」
商人ギルドの受付嬢さんが部屋の奥へ消えていき、ほどなくして戻ってきて、
「こ、こちらへどうぞ!!」
ギルドマスターの部屋へ通された。
◇ ◆ ◇ ◆
「これはこれはアリソン様! フロンティエーレ辺境伯様からお話は伺っております!」
「フロンティエーレ辺境伯様?」
なんかフロンティア精神旺盛そうな名前だけど……誰ぇ?
「アリソン様、アリソン様!」
とここでサロメさんからの助言。
「先ほどまで我々が滞在していた城塞都市と、その周辺を治めておられる領主様ですよ! 元・ご主人様とやり合っていた」
「あぁ!」
あの領主様か!
「フロンティエーレ辺境伯様からは、アリソン様が望まれるものは最優先で用意させるようにとの依頼を受けております」
「ははぁ~」
諸々の手続きも半日でやってくれたし、ありがたいやら申し訳ないやら。
「えーとじゃあ、一等地を頂くことってできますか?」
「一等地というと、もちろんこの中央広場に面したところになります。一番広い面積を有するのはここ、商人ギルドですね。アリソン様がこの土地を望まれて、私との魔法決闘に勝ったならば、我々をここから立ち退かせることができますが、王都で少なからず騒動になりますので、できればご遠慮頂ければと」
ギルドですら立ち退かせられるのかよ! すげぇな魔力至上主義!
「あはは……さすがに各ギルドや教会を動かそうとは思いませんよ」
「そう言って頂けますと大変助かります。それ以外となると、大きい順にここの魔道具ギルド直営店、ここの宝石商、そしてここの仕立て屋――」
取り出した王都の地図を指差しながら教えてくれるギルマスさん。
魔道具ギルドにケンカ売るのも嫌だし、まずは宝石商に行ってみようか。
◇ ◆ ◇ ◆
「たーのもーう!」
「い、いらっしゃいませ……?」
私の変なあいさつに、首を傾げながらも応対する店員さん。
「店長さん――というか、この土地の所有者の方、いらっしゃいますか?」
「お名前を頂いても?」
「あ、失礼致しました。わたくし、アリソンと申します」
「アリソン――アリソン!? 女性の4人組!? あわわわ……」
店員さん、真っ青になって売り場の奥へと転がり込んでいった。
あー……たった2、3日のことだったけど、宝石商からすれば悪夢のような存在だろうからねぇ、私たち。きっと、魔王国中の宝石商から恐れられているのだろう。
ほどなくして、宝石商さんが転がるようにして出てきた。
「あ、あ、あ、あなたが『あの』アリソンさん、ですか?」
「恐らく『その』アリソンですね」
「何か、証明となるものをお見せ頂いても……?」
「「「「【ダイヤモンド・ボール】! ブリリアントカット・バイ・【アイテムボックス】!」」」」
私、デボラさん、サロメさん、クロエちゃんで4人同時に極大ダイヤモンドを生成。
「こちら、お近づきの印に」
私が宝石商さんにダイヤを渡し、
「そしてこちら、友好の証に」
デボラさんが近くの店員さんへダイヤを渡し、
「そしてこちら、ここの土地代として」
サロメさんとクロエちゃんが、これまた近くの店員さんへダイヤを渡した。
「私、【時空魔法】は聖級――ほぼ神級でして。このくらいの建物ならば、綺麗さっぱりお引っ越しさせることが可能ですよ」
ちなみに魔王国には井戸も蛇口も上水道も下水道すらもない。
なぜなら、それらは全て魔法で対処するからだ。ゴミや糞尿を引き取ってくれる業者と施設はあるらしいけど。
なので引っ越しは、王国の家と同じくらい簡単だ。まぁ鉄筋コンクリートがある国だから、基礎の方は王国よりしっかりしてるみたいだけどね。
「それでご納得頂けないのなら、魔法決闘と洒落込みましょう」
「はぁ~~~~……ひとつ、条件があります」
深い深いため息の後、宝石商さんが言った。
「私と家族とここの従業員全員を、現行以上の待遇で雇い入れてください」
「ほぅ? ご自身での商売はおやめになるので?」
「当然でしょう? あなたが街で商売を始めると決めた時点で、その街と周辺の街の宝石商は全員、首をくくるか転職するしかなくなります」
「そうなる……? そうなるか。そりゃそうか。では、従業員の皆様のお給金額と、宝石商さんとご家族が年間で自由にできるお金の額を教えてください」
「わたくし、ピエールと申します」
「アッハイ、ピエールさん。よろしくお願い致します」
なんかスライムにまたがってそう。
「こちらこそ、よろしくお願い致しますアリソンさん。それで、従業員のお給金ですが――」
こうして私は王都の一等地に面した新たな城と、13名の従業員を手に入れたのだった。
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追記回数:26,042回 通算年数:2,998年 レベル:5,100
次回、TVゲーム大流行でアリソンの魔王国娯楽侵略開始!!
アリス「くっくっくっ……計画通り」
クロエ「店長! 売れ過ぎてもう在庫がありません!」
お客様「『ピコピコ』を売ってくれぇえええ!!」
ディータ「計画が、何ですって?」
アリス「うぶぶぶぶ……」
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