98(2,974歳)「VS 隕石リベンジマッチ」

 というわけで、隕石が降ってくる日の夜となった。

 ホーリィさんと6,152名にはひとり1体ブルーバードを付け――今世の従魔ブルーバードも増えたもんだ――【瞬間移動】持ちメンバに各都・街・村・畑・設備・河川等々に配置。


 私はというと、王国中央の山脈の一角にチビを座らせ、その上にどんと腰を下ろし、座禅を組んでフェッテン様に背後から抱きしめてもらっている。

 ダブル吸いで精神的に最も安定した状態だ。王国全土を【魔法防護結界】からのぉ【フルエリア・聖域】は、それはもう物凄く消耗するので。


「極大【魔法防護結界】! 【フルエリア・聖域】!」


 このまま1分間耐える。1分経過後、


『ブルーバードちゃんたち!』


『『『『『『『ピロピロピロッ!』』』』』』』


【思考加速】100倍オン!


 ブルーバード経由でホーリィさんと6,152名に指示を出すと、6,153体のブルーバードの視界で、ちゃんと【極大神級物理防護結界】が発動されたことを確認。


 ほどなくして隕石が降ってき始めたが、量が全然少ない!

 ふっふっふ……恐らく魔の森の魔物や沿岸近くの海の生物くらいからしかMPを吸収できなかった所為せいだろう。

 我々の勝利だ!!



    ◇  ◆  ◇  ◆



 ……とは簡単にはいかなかった。

 いくらレベル200の聖女とはいえ幼女は幼女。目の前に迫る巨大隕石の恐怖に敵わず、【極大神級物理防護結界】が解けてひどい光景が広がりそうになったところでたまらず【ロード】。


 そういうメンバーには精鋭従士さんに【リラクゼーション】要員として一緒についてもらって何度も試行し数百回。

【極大神級物理防護結界】が崩壊する順番のチャートが完成し、チーム・アリスの面々が【瞬間移動】で飛び回って【リラクゼーション】をかける順番が確立したところで、完全勝利!


 火災が発生した山や森はブルーバードちゃんたちによる『アフレガルド王国対魔物警戒網』で検知し、チーム・アリスが消火して回った。


 夜通しかかりはしたものの、死者数ゼロで乗り切ったよ!



    ◇  ◆  ◇  ◆



「というわけで、みんな本当にお疲れ様!」


 明け方、各地の聖女たちを回収し、アリス学校のグラウンドで締めの挨拶。


「みんなのおかげで、王国滅亡の危機を免れることができました! みんなはまさしく聖女だよ!」


 目の下に隈をこさえながらも、聖女たちはきゃいきゃいと嬉しそう。


「じゃ、特別報酬のケーキ1年分を受け取ったら――」


「「「「「ケーキ1年分!?」」」」」


 目の色を変える聖女たち。

 鍛えに鍛えた【時空魔法】があるので、彼女たちは皆、ケーキ1年分くらいなら時間停止機能付き【アイテムボックス】に収納することができる。


「あ、うん。ケーキ1年分だよ! みんな、100列に並んでー。そこのお兄さんお姉さんたちから受け取ってね! じゃあ今日は解散! さすがに今日の授業は休んでいいからねー」


 この特別報酬のために、私は酒職人トニさんからテンサイ砂糖を根こそぎ奪い取った。恨み節は言われたけれど、国を守るためなんだから勘弁してほしい。



    ◇  ◆  ◇  ◆



「というわけで、無事死者ゼロで乗り切れましたので、事後吸いをキメさせて頂きますね」


 チーム・アリスと一緒に魔の森別荘の作戦指令室にて。


「よいよい、好きなだけ吸うがよい」


 陛下の許可を頂いたので――そこにフェッテン様の意志は関係ない――私はフェッテン様の背後に【瞬間移動】し、【浮遊】で高さを稼いでフェッテン様の後頭部に顔を突っ込む。


「スーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」


「アリス……私かチビを吸う時、本当に幸せそうな顔をするよな」


「えへへ……」


【闘気】LV10カンストのフェッテン様だ。直接見なくても、私のだらしなくにやけた顔はよく分かるのだろう。


「まったく……私とチビは、アリスが言うところの『せいしんあんていざい』なのか?」


「……え?」


 急に何当然のことを言い出すんですかフェッテン様?


「え?」


 意外そうな表情のフェッテン様。


「「え?」」



    ◇  ◆  ◇  ◆



 そこからの数日は、前回と同じく各都・街・村に凱旋し、人々の安心感醸成に努めた。

 そして、集まった人々にやっぱり塩を無料配布し、王国から塩の相場を『消滅』させた。


 そして夜にはフェッテン様とチビの同時吸いをキメさせてもらい、前回と同じ会話を繰り返した。




 王国に、しばしの平和が訪れた。



    ◇  ◆  ◇  ◆



 そんなこんなで1ヵ月、パパンはレベル500の軍人・従士集団をレベル600に引き上げるために【1日が10000年にテンサウザンドなる部屋・ルーム】と化した魔の森別荘とその周辺で練兵に明け暮れ、ノティアさん筆頭の魔法使い組は前回の襲来でそれなりにボコボコにされた砦と壁の補修。バルトルトさんは領都の行政に忙殺され、ディータは領全体の行政に大忙し。


 私はといえば、


「アリソン・クエストIV ~導かれし者たち~」


「いや仕事してくださいよ閣下」


 魔の森別荘の自室に籠っていると、ディータが【瞬間移動】で現れつつ小言を言ってきた。


「ちょ、おま、乙女の自室に入るときはノックしなさいよね!」


「姉弟なんだからいいじゃないですか」


「あ、そっか。……ん? いいのかそれ? むしろアウト寄りのアウトのような」


「だから僕はお姉様に家族愛憎は持っていても、懸想はしていないといつも言ってるでしょう」


「『憎』は要らないよ『憎』は!」


「ところで、勇者的にはこれからどうするんです?」


「うーん……私もまだ12歳だし、【ふっかつのじゅもん】もあるわけだから、わざわざこっちから打って出るよりは、相手の襲来を【アイテムボックス】に収納しつつ戦力を削っていく感じで考えてるんだけどねぇ。陛下もご賛同くださったし。

 ――って、あ! ディータ、今外時間何時!?」


「18時前です」


「やっべ、今日フェッテン様との夜デートだった!」


 3日間のフェッテン様とチビの同時吸いに味を占めてしまった私が、定期的にフェッテン様におねだりしてるんだよね。

 フェッテン様は喜びつつも、『忍耐力を試されているみたいで非常にしんどい』とも言っていた。あはは、がんばえー。


「いやお仕事――」


「それ、私の承認が必要な書類?」


「はい」


「オッケ! 秒で片づけるから置いて!」


「畏まりました」


 虚空からずぼっと貴族を取り出す私を見て、やれやれといった様子のやれやれ系主人公ディータ。

 ま、『秒』といっても外部時間の『秒』。ここは【1日が10000年にテンサウザンドなる部屋・ルーム】と化しているので、ちゃんとじっくり時間をかけて検証するよ。


 私は王国一の善政を敷く、至極真面目な領主様なのだから!






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追記回数:25,999回  通算年数:2,974年  レベル:5,100


次回、第2章最終回!

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