76(1,417歳)「領民パワーレベリング!! ~レベル編~」
「先日、新しくロンダキルア辺境伯に叙され、領主となりましたアリス・フォン・ロンダキルアです」
おなじみ城塞都市の中央広場にて。
ステージに立っているのは私、パパン、ノティアさん、リスちゃん。目立って身バレしたくないホーリィさんは、今日はお休み。
目の前には公示で日時を伝えられ、集めらえた領民さんと軍人さんたち。
城壁外のスラム――という名の、私が作った豆腐ハウスが立ち並んで井戸も完備されている、そこそこ住み心地の良い地域――や色町なんかからも招集した。
「まず、私の父でもある王国の守護者ジークフリート・フォン・ロンダキルア騎士爵には、引き続きこの地を守護して頂きますのでご安心ください」
群衆からは、嬉しそうな、ほっとしたようなどよめき。
やっぱ人望あるんだねぇパパン!
「私のような小娘が人族の最前線を守る領主では、不安に思う方々もいるでしょう」
『そんなことありませんよ!』とか『アリス様も強いじゃないですか!』みたいな声もあるものの、いずれも軍人さんや従士さん。
実際に私が戦うところを見たことがないほとんどの街の人は、そういう声に対して『そうなの?』とか『いや魔法がお上手なのは見たことありますけど、腕っぷしの方はとても……』とか『あ、でもアリス様も【竜殺し】なんだろ? とてもそうは見えないけど』みたいなことを言っている。
「ですので手っ取り早く、王国に6人しかいないSランク冒険者のひとりであり、
まずはステージの周りを【物理防護結界】と【魔法防護結界】。
――ではお三方、かかって来なさい!」
そこから始まる、パパンとリスちゃんの【闘気】全開で容赦のない攻撃と、ノティアさんのアロー系魔法の連射!
私は剣士2人の剣――ここにある剣が3本ともエクスカリバーというシュールさよ――を捌きつつ、ノティアさんの魔法をレジストしていく。
【物理防護結界】が張られているのをいいことに、私・パパン・リスちゃんは結界の壁・天井を縦横無尽に駆け回りながらの立体起動。
5分程度暴れ回ったあと、すきを突いてリスちゃんの剣を跳ね飛ばし、【土魔法】でリスちゃんの全身を拘束する。あれだ、元辺境伯にやったのと同じやつ。
続いてノティアさんにも同じ処置。こちらは【アイテムボックス】から取り出した布を丸めたもので口も塞ぐ。
最後にパパンと剣を交わし、キリの良いところでパパンの首筋へ剣を当て、
「――参った!!」
パパンの宣言で、パフォーマンス終了。
同時にノティアさんとリスちゃんの拘束を【アイテムボックス】へ。
「「「「「ぅぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」」」」」
群衆、大興奮。
特に軍人さんたちからの尊敬の眼差しったらないね!
ま、実のところは私たち4人とも安全重視で適当に踊ってただけなんだけど、実力のほどは信じてもらえただろう。
「――静粛に願います」
さすが、軍人さんたちはピタリと口を閉じる。それを見て、非戦闘員の人たちも早々に静まってくれた。
「とまぁこんな具合です。魔物が来ようが魔族が来ようが魔王が来ようが、私が先頭に立って倒して見せましょう。ですので皆さんは何も心配することなく、日々の任務や訓練、生活に励んでください」
さて、ここからが本題。
「本日の昼過ぎ、城塞都市に住む全員に【鑑定】をかけさせて頂きます。一時的に不快感を感じるかと思いますが、これは皆さんの健康状態を把握し、必要に応じて治癒を行うための措置です」
まぁ嘘なんだけど。
「以上! 解散!」
三々五々散っていく皆さんを見送る。
そう、【鑑定】の本当の目的は、【鑑定】対象の履歴を調べる機能を使って強姦魔のような犯罪者を炙り出すためだ。
とはいえ、比較的生真面目で気性の大人しい日本人ですら、信号無視やポイ捨てを一生の中でただの一度もしない人なんていないわけで、線引きは緩めにするつもり。なにせ品行方正なだけでは生きていけない過酷な世界だ。
そうだなぁ……お遣いのお釣りをちょろまかしたり、忘年会の幹事がクレカで支払ってポイントゲット、くらいはセーフとしよう。
商人がお客相手にお釣りを誤魔化したり、わざと粗悪品を掴ませたりするのは……うーん……グレーってか元日本人の感覚では完全にアウトなんだけど、こっちでアウトにすると商人さんが軒並み首をくくっちゃいそうだからセーフとする。
強盗はアウト。もう、完っ全にアウト!
スリや窃盗はアウトにしたいけど、畑の作物を盗まなきゃ生きてられない浮浪者とか、この街でこそ私がいろいろやったからいないものの、他の街にゃフツーにいるしなぁ……面倒だけど、情状酌量の余地があるかどうか、都度確認とする。
未洗礼――10歳未満は情状酌量多めで。
酒場の喧嘩や、タイマンの決闘はセーフ。
イジメは……まぁ職場でのシゴキはセーフにして、リンチはアウトにしよう。
殺人は、殺した相手が犯罪者ならセーフ、それ以外はアウト。
そうなると今度は『犯罪者の定義は?』って話になるんだけど、これも都度確認だな……。
◇ ◆ ◇ ◆
「【魔法防護結界】!」
城塞都市上空で――見物客がいたらまずいのでズボン姿だよ。私にも恥じらいはあるっていうかフェッテン様に叱られる――、城壁外のなんちゃってスラムも含めてすっぽりと覆う極大結界を張る。
「【リラクゼーション】【リラクゼーション】【リラクゼーション】、頭に【パーフェクト・ヒール】を【
事前に皆さんへ【フルエリア・リラクゼーション】!
そして【フルエリア・鑑定】!」
途端、意味不明なほどの情報の洪水が襲ってきて、白目を剥きそうになり、
――【思考加速】1000倍!
あー……だいぶマシになった。言いつつ口からはゆっくりとゲロが漏れてるんだけど。
この街の人々の人生とも言うべき情報が次々と頭の中に流れ込んでくる。
千秒ほど――実時間の1秒ほどで洪水は止まったので、【フルエリア・鑑定】を解き、不快な思いをした皆さんのために【フルエリア・リラクゼーション】をかけておいた。
◇ ◆ ◇ ◆
【
この人はセーフ、この人はアウト、この人はセーフ、この人は……ギリセーフ?
この人は――…
◇ ◆ ◇ ◆
――ヨシ!(ひさしぶりの
続いて『会場』へ呼ぶ人たち宛に、『何日の何時に中央広場に来てね。身軽な服装で』という手紙を書き、『私は王国とロンダキルア辺境伯に反逆せず、この力を悪事に使いません。まぁまぁそれなりに品行方正に生きます。もし悪事を働かざるを得ない事態に陥った時は、速やかにアリス・フォン・ロンダキルアに相談します』という神級光魔法【契約】書を人数分作る。
MPがゴリゴリ減っていく……。
城塞都市のみんながみんな字が読めるのかって? 読めるんだなぁそれが。
実はこの都市、幼児を除けば識字率100%!
スラムの人ですら字が読める。というか魔法教本を持っていて、ちょっとした生活魔法や戦闘魔法なら使え、それで冒険者として自活している。
スラムに住んでいるのは城壁内がもういっぱいいっぱいだから仕方なく、というだけのこと。
ホントは城壁広げたかったんだけど、それはさすがに、領主でもないのに勝手にやるにはことが大きすぎた。
でも今は領主だからね! 建築ギルマスさんに都市設計お願いしてるし、城壁の広さ・場所が決まったらガンガン広げるよ!
◇ ◆ ◇ ◆
城塞都市中を【瞬間移動】しまくって、手紙を配った。
「いったい、何をなさるんですか?」
不安そうな顔で聞いてくる領民さんには、笑顔でこう答えた。
「もちろん、レベリングです!」
レベリングこそハクスラの醍醐味。最強の領民軍団を作り上げるのだ!
◇ ◆ ◇ ◆
「はーい並んでくださーい!」
翌日、朝ごはんが終わった時間帯の朝6時。
集まった領民数百人――もちろん彼らは第1弾。領民の9割5分はセーフ判定ということでパワーレベリングするよ。あと屈強な軍人さんたちは後回しだ――に列を作らせる。
ちなみに、この場に5歳児未満はいない。まぁさすがにまだ分別がつかないだろうし、孤児は孤児院に入れてるから大丈夫。
で、先頭にいた男性に説明する。後続に知らせる意味でも大声で。
「まずは治癒魔法をかけますね! 【ヒール】! 続いてこの紙にサインしてください! あ、確認ですが、これにサインして以降、あなたは悪事を働けなくなります! まぁ酒場でベロンベロンになってケンカするくらいならセーフ! でも殺人とか強姦とか強盗はアウトで、やろうとすると頭痛や吐き気を伴い、それでも実行しちゃうと死にます! なのでもし誰かに脅されたりして悪事を働かざるを得ない事態に陥った場合は、必ず私にご相談ください! 私の名にかけて、あなたの命をあらゆる困難から守ると誓いましょう! 覚悟はいいですか!?」
「は、はい」
男性がサインし、男性の体がぱぁっと輝く。
「【リラクゼーション】! はい、この剣持って、【アイテムボックス】! この
よくできました! はい、この桶持ってー」
「ぅぉおおえぇぇぇええええええええええええええええ!!」
「【鑑定】! レベル100ですね! 【リラクゼーション】! 【ホットウォーターシャワー】からの【ドライ】! はい、この水で口をゆすいでください。これ着替え。差し上げます。あとこれ塩と砂糖と馬鈴薯とオーク肉の詰め合わせ。お疲れ様でした!
はーい次の方――」
そんな感じで、私が善人判定した5歳以上の人たちを強制パワーレベリングしていくことしばし。
「……あ、あのっ、領主様」
順番が回ってきた男性とその妻子が、不安いっぱいの表情で声をかけてきた。
「良いのでしょうか、わたくしのような者まで……?」
「ああ、あなたは上級ポーション泥棒の元床屋さん」
びくっとする男性とその妻子。
「……は、はい。顔ぶれを見れば、ここに呼ばれた者の基準は分かります」
この男性は元々領都に店を構えていた零細床屋さん。娘さんが重い病を患っていて、いよいよお迎えか? って時に急に病状が改善した。
ほどなくして、領都の薬屋で【鑑定】持ちの店主が棚卸をしたところ、上級ポーションの1つが粗悪品にすり替えられていたことが発覚。
数日前にこの男性が薬屋に入ったものの何も買わなかったことと、娘さんの快復が結びつけられ、本人も白状した。
死にゆく娘のために、自分の収入では手の届かない上級ポーションを盗むしかなかったのだと。
当然、店は客がぱったりと来なくなり、借金を負った。
こうなると自ら借金奴隷になるか、軽犯罪者程度なら冒険者登録させてくれる冒険者ギルドにすがるしかない。
冒険者にはなったものの、領都にはおられず、最も危険なこの城塞都市で魔物を狩り、なんとかかんとか生きているってのが現状。
ただ、昨日の【鑑定】結果を洗ったところ、犯罪歴はその1件だけで、今現在も極めて真面目にがんばってるんだよね。
それに今も、言わなきゃバレないかもしれないのに、自ら申し出てるし。
ってことでギリギリセーフ判定にした。
「これからも真面目にがんばってくださいよ? あ、一応は差をつけないと示しがつかないので、あなた方一家のレベルは95までとします」
家の結びつきが極めて強いこの世界。重犯罪者は一族郎党皆殺しなんて当たり前。
元日本人の感覚では『妻子はいいんじゃない?』って思ってはいるものの、私はこの国の、この領の領主。ケジメは必要だ。
「あ、あ、あぁ……ありがとうございます、ありがとうございます!!」
滂沱の涙を流す男性と妻子。
まぁ、こんなのは一例だ。
似たような悔い改め系エピソードを量産しつつ、今日の仕事を終えた。
ちなみに、お着替えセットに私の『
あと私謹製の蜂蜜酒とトニさん謹製のテンサイ蒸留酒が大人気らしく、砂糖の代わりに酒を欲しがる人が多数いたが却下した。
いくら【契約】で品行方正を心がけるように縛っていても、レベル100の酒乱の軍団はやばいって!
◇ ◆ ◇ ◆
そんな感じで1週間。
2日目以降はパパン、ママン、ノティアさん、リスちゃん、バルトルトさん、3バカトリオにもそれぞれ行列を任せ、5歳以上の善人判定者約8,000人をレベル100にした!
あ、ホーリィさんは大人しくしてたよ。
続いて城塞都市周辺の村、宿場町、川辺の街とその周辺の街や村、領都でも同じことを繰り返す。
ちなみに、私が釣った婦女暴行未遂犯たちはレベリング会場に現れなかった。そりゃそうだ、牢屋の中にいるのだから……。
人間の、それも女性や子供の値段が大層低いこの世界。少女の暴行『未遂』程度では、犯罪奴隷に落とすことすらできず、さりとてタダ飯を食わせる余裕もないので、数週間くらい牢屋で頭を冷やしてもらって放逐、程度の扱いになる。
裁判権は領主である私が持つので、私が強権を発動することもできるけど、できるだけ王都や他領と足並みを揃えたいんだよね。
――だけど裁きは下す。それも、特大のやつを。
それが、『レベリング会場に呼ばない』ってことだ。
ふふふ強姦魔どもめ、か弱い婦女子を強姦しようとして、半殺しにされるがよい……レベル100の『か弱い婦女子』の反撃によって!!
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追記回数:19,993回 通算年数:1,417年 レベル:2,200
Q:強姦魔撲滅のための、アリスの斜め上な解決策とは?
A:かよわい婦女子全員をレベル100にする。
次回、「領民パワーレベリング!! ~魔法編~」
アリス「来たれ領民全員が自分で塩を精製できる時代! ずっと俺のターン!」
塩商人ザルツ「もうやめて領主様! とっくに塩ギルドのライフはゼロよ!」
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