17(401歳)「引越し業者ごっこ」

「というわけで、誠に勝手なお願いではあるのですが、中央通りに面した場所に引っ越してくださいませんでしょうか……?」


 再び焼き物屋さんに訪れ、店長さん――店員さんのお父さん――を呼び出してもらい、地上げ交渉開始。

 店の奥からは奥さんと、十歳くらいの男の子も出てきた。4人家族だそうだ。


 ご丁寧にも奥さんがお茶を出してくれたので、こちらも焼き菓子を差し出した。


「広さはここの約2倍! 中央広場から徒歩5分で人通りはここの数十倍! 日当たり良好! 水道からも近いです! ここと交換して頂ければ、土地代は一切不要! 引っ越し費用もこちらで持ちます! ついでに、私が偶然見つけた、物凄く綺麗な白色が出せる磁器の作り方を教えちゃいます!」


「ほぅ……綺麗な白色?」


 ほおおっ! 店長さん、土地やお金のことより先に、綺麗な白い磁器ボーンチャイナの方に食いついた! 職人だねぇ。


「その、白い磁器を見せて頂くことは?」


「素人作品なので、造形は無視してくださいね――【アイテムボックス】!」


 魔の森時代に暇に飽かして作った『なんちゃってボーンチャイナ』のカップを店長さんに差し出す。ちなみに混ぜてる骨はベヒーモスのもの。ボーンチャイナが牛の骨を混ぜたのにあやかっている。


「お、おおぉ……なんという白さ! 透き通っているようだ!」


「先ほど、こちらでこの猫足つき黒猫ティーカップを購入させて頂いたんですけど」


 言いながらティーカップを取り出し、


「この黒猫、とっても可愛いんですけど……背景がもっと白い方が、映えると思いませんか?」


「思う! 思いますとも! 乗ったぁ! その話、喜んで受けさせてもらいます!」


 私と店長さんは、熱い握手を交わした。



    ◇  ◆  ◇  ◆



 ってことで、まずは引越し先にあるこの焼け焦げた宿屋? メシ屋? の撤去を行おう。


「お嬢さん、本当にこの廃屋を一瞬で撤去できるんですか?」


 店長さんの不安そうな声。同行している奥さんと娘さんも不安そうだ。まぁそりゃそうだろう。自分んの移築作業のデモンストレーションみたいなもんだからね。


「ご心配なく! あ、でもその前に……」


 私は【飛翔】でふわりと舞い上がり、


「ご注目くださーい!!」


 行き交う人たちの視線が一斉にこちらに向く!

 思わずコミュ障な心根が悲鳴を上げそうになるけど、精神耐性スキルと鍛えに鍛えたステータス、そして何百年の経験のおかげか、なんとか泣かずに済んだ。


「……ま、街のみなさん! 私は『王国の守護者』の娘、アリス・フォン・ロンダキルアです!

 今からこの燃え朽ちた家屋が一瞬で消えますが、それは私の魔法によるものですので、恐れる必要はありません!

 また、私のこの力はみなさんを始めとする王国国民を魔物や魔王国から守るためにあります! どうかご安心ください!」


 こっずかしい演説になっちゃったけど、建物1つを一瞬で消し去るほどの魔法を使う私に対し、警戒されたり怖がられても困る。

 パパンには悪いけど、『王国の守護者の娘がやることだから大丈夫! 信じて!』って感じに名前を借りさせてもらった。


「おっ、アリスちゃんじゃねぇか! またなんか、新しい魔法を見せてくれるのか?」


「あぁ! いつも宙に浮いてるあの子が英雄様の娘さんだったのね!」


「壁と肥料の女神様! ありがたやありがたや……」


 眼下では、軍人さんっぽい人や街の奥さんっぽい人、あと農村から作物を売りに来たらしい農民さんっぽい人なんかがいろいろ言ってる。

 っていうか農民さん、ナチュラルに拝まないで……。


「それでは――【探査】! で建物の構造を把握して、【建築】スキルを意識しつつ――基礎ごと【アイテムボックス】!」


 廃屋が一瞬にして消える。


「「「「「「「お~~~~~~~~~~っ!!」」」」」」」


 観客は、やんややんやの大騒ぎ。

 そんな中で唯一、店長さんだけが不安そうな顔をしていて、


「お嬢様、決して疑ってるわけじゃあないんですが、消えた家、もう一度同じところに出せますか?」


 まぁ、これから自分の家も同じ魔法をかけられるわけで、不安になるのはよく分かる。


「はい、大丈夫ですよ! ――【アイテムボックス】!」


 先ほどと寸分たがわず、廃屋が姿を現す。


「「「「「「「お~~~~~~~~~~っ!!」」」」」」」



    ◇  ◆  ◇  ◆



「ではお嬢様、母屋正面の端をここに合わせて、この角度でお願いします。あと倉庫ですが――」


「ふむふむ。

 ところで基礎の部分はどうします? 私のオススメは、穴掘って砂利を敷いてその上に防水用シートを張って、その上に生コンっていう乾くとめちゃくちゃ丈夫な液状の建築材を流し込んで乾かす感じです」


「建築のことはよく分かりませんが、なんだかお詳しそうですな?」


「えへへ、一応【建築】スキルLV6を持っております」


「6ぅ!? そんなに幼いのに素晴らしいですな! 私が【陶芸】スキルLV6を取得したのは、つい最近のことだというのに!」


 おお! 店長さん、達人レベルの陶芸家だった!


 私の【建築】スキルは数百年に及ぶ魔の森生活でつちかったもの。

 それを思えば、店長さんの才能は素晴らしいの一言だ。【陶芸】のサ○ダネ食ってそう。


「では、お嬢様のオススメでお願い致します」


「はい! ではさっそく、【アイテムボックス】の中身を【探査】――ええと母屋のサイズがこうだから、基礎を築く範囲は……よし把握。では不要な土を【アイテムボックス】! 植物の根っこが土中にないか【探査】――根切りは不要、ヨシ! 【テレキネシス】で掘削面をしっかりし固めて固しめて~、【アースボル】で砂利を作って~敷き詰めて~もっかいし固めて~。

 はいここでとっておき! 魔の森のラテックス・トゥレントから作ったゴムで加工した特製防水シート! こいつを敷いて、その上にお手製生コンを【アイテムボックス】! で敷き詰めて、【探査】して気泡を【アイテムボックス】で除去! からのぉ【ドライ】!

 ――完成です!」


「「「「な、ななな……」」」」


 一瞬で地面に穴が開き、その上にカッチカチの地面が出来上がった光景に、目を白黒させる陶芸一家のみなさん。


「むふー。どうです? 自信作ですよ。では基礎の上に母屋を【アイテムボックス】!」


 一瞬にして姿を現す母屋。


「「「おぉおおおおおおお!!」」」


「じゃ次は倉庫ですね」



    ◇  ◆  ◇  ◆



「というわけで、こちら、教会裏手の土地をこの教会に譲渡するための契約書です」


 三度みたび教会にて。

 私はテーブルを挟んでシスター長さんと向かい合っている。


「価格は無償ですが、転売したり孤児院拡張以外の用途に使うのは禁止とさせて頂いております。内容をご確認の上、サインしてください」


「おぉ……おぉぉぉ……女神様!」


「だから女神様じゃないですって!」


 涙を浮かべるシスター長さんからの視線が重たい。


 なんとかシスター長さんを宥なだめすかし、ようやっとサインしてもらうと、契約書がぱぁっと光った。

 商人ギルドで作ってもらった正式なやつだからね! ちゃんと【取引契約】魔法がかけられている。


「ではこちら、土地の権利書です。それで孤児院の増築について、ご相談したいことがございまして……」



    ◇  ◆  ◇  ◆



「はぁ? 孤児院の増設工事に浮浪者を使いたいだぁ?」


 中央広場、『建築ギルド』のギルマス部屋にて。

 真っ黒に日焼けしたガタイのいいおっちゃんこと建築ギルドマスターがドスの効いた声を出す。(数百)4歳児相手に凄まないでよ……。


「はい。たとえ一時的でも職を与え、街の治安を向上させたいのです」


「そりゃ殊勝な心がけだがよぅ……英雄様んとこの子供だかなんだか知らんが、嬢ちゃん、建築ナメてんのか?」


「な、舐めてないです! 舐めてないですよもちろん!」


 この程度の威圧に今更ビビる私ではないけど、機嫌を損ねるのもまずいので、慌てたように見せつつ謝罪する。


「腕力も気力も充実した若いもんが何年も修行して、ようやく一人前と認められるんだ。それをおめぇ、スラムをうろついてるだけのボンクラに任せろってのか」


「重要な部分はもちろん、ギルドに登録なさってる職人さんにお願いできればと思っています。ただ、荷運びとかの単純作業に使って頂ければと」


「うーん……」


「それに、対価も用意してます。

 まず、浮浪者たちの給金は私が支払います。建築ギルドは建築期間中、タダで小間使いを使い放題になるわけです。

 次に、浮浪者たちが何か迷惑をかけた場合は、その補償も私が支払います。もし怪我をしてしまった人がいたら、魔法で治癒しましょう。これでも【光魔法】レベル6持ちです」


「6っておめぇ、宮廷魔法使いか何かかよ! ウワサには聞いてたが、マジですげぇんだな嬢ちゃん」


「あははは……あと迷惑料として、建築費の1割を追加でお支払いしましょう。それで、ここからは『世間話』なのですが……【アースボール】で器と作って、【アイテムボックス】!」


 器の中に生コンを入れる。


「これ、私が発明した『コンクリート』っていう建築資材なんですけど」


 ……まぁ私の発明ってのは嘘なんだけど。


「今はご覧の通り流動的ですけど、乾燥するとものすごく硬くなるんです。普通は自然乾燥させますけど、今回は魔法で時短しちゃいましょう……【ドライ】!

 どうです? よければ触ってみてください」


「な、ななな……こ、こりゃすげぇ! すげぇよ嬢ちゃん! あんたテンサイだ!」


 ん? 私ゃ砂糖にもビート酒にもならんぞ?


「なんのなんの、本領発揮はここからです。【アースニードル】で棒を作ります。ホントは鉄じゃなきゃ意味がないので、今はこの岩の棒を鉄――『鉄筋』に見立ててください」


「ほぅ」


「【アースニードル】! この鉄筋を四方に4本並べ、その間にも何本ずつか。で、今度は横方向にも何本か。格子状になるように。で、【アースウォール】! 鉄筋の柱より一回り大きなカバーで鉄筋を囲い――【アイテムボックス】! その中にコンクリートを流し込めば……」


「……ごくり」


「【ドライ】! 『鉄筋コンクリート』の出来上がり! どうです、頑丈そうでしょう?」


 カバーを外し、ミニチュア鉄筋コンクリートモドキを建築ギルマスに手渡す。

 ギルマスさんは


「…………か、革命だ。建築業界に革命が起きるぞ!! せ、製法は!? この『こんくりーと』ってやつの製法を教えてくれ!!」


「タダで教えるわけないですよねぇ」


 紙チートの時と似たような展開。

 いやぁ、現代地球の知識チートでぶん殴るのは楽しいね!


「でも、私のお願いをいくつか聞いて頂ければ、お教えしましょう」


「……言ってみろ」


「1つ、建材の製造・販売に携わる方々へ事前に根回しして頂き、コンクリートの実用化によって職を失った人をコンクリート職人としてギルドに迎え入れること。

 2つ、浮浪者を今回の工事に参加させること。

 3つ、浮浪者ひとりひとりの働きぶりを観察しておいて頂き、工事完了の際にその内容を私へ報告して頂くこと。

 4つ、浮浪者の中に見込みがありそうな人がいれば、積極的に正ギルド員として雇用すること。

 5つ、雇用できる人を増やすためにも、できる範囲で結構ですので浮浪者に仕事のやり方を教えること。ただしコンクリート製造は除く。まだ機密性の高い情報ですからね。

 ――以上です」


「なんつーか変わった嬢ちゃんだなぁ。そのくらいの歳ならフツー、オモチャや菓子や駄賃なんかを欲しがりそうなもんだが……ま、ウワサ通りってことか。

 わかったよ、条件は全部受け入れよう」


「あ、あははは……ありがとうございます。で、コンクリートの製法ですが――」


 作戦第2段階、孤児院増設計画ももうひとがんばりだ。






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追記回数:4,649回  通算年数:401年  レベル:600


次回、(401 +)4歳児が大人たち相手に大暴れ!

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