4歳「勝手に【鑑定】団!!」

 4歳になった。

 まぁ数え年で4歳だから、実質3歳だけど。


 ちなみに半年ほど前に弟が生まれた。待望の長男だ。

 名前はディータ。某戦術的最終世界の英雄王の1文字足らずだが、闇落ちせず立派に育ってほしいものである。



    ◇  ◆  ◇  ◆



 季節は初夏、時間は朝食時。

 むさくるしいあんちゃんたちに囲まれながら、我が家も食事を摂る。


 目の前には貧相な食卓が広がっている。


 言い訳程度の肉が入った薄味スープ。とにかく塩っけが少なくて白湯のよう。

 ジャガイモだけはゴロゴロ入ってる。どうやら100年前の転生勇者様は、ジャガイモ警察に屈することなくジャガイモチートに成功したようだ。今は魔王国に支配されている大陸は南北にも広いらしいから、南米に類する気候の土地から流れてきたのだろう。


 そして、小さな小さな黒パン。こいつがまためっぽう硬いんだけど、幸い私の皿だけはパンを粉々に砕いてスープの中に入れてくれている。

 実質3歳児があんな固いパンかじったら歯が折れるわ!


 で、従士長家の食卓がなぜこんなにも粗末なのかというと、それはわざとだ。この食堂は軍人さんたちも利用していて、周りの目があるわけで。私たちだけ豪華なものを食べてたら、無用な不満を抱かれかねない。

 常在戦場が我が家の家訓。戦場でメシに差を出すと士気が下がりかねないってことらしい。食の恨みとは、かくも恐ろしい。


 それにしてもひもじいなぁ……まぁ間違いなく、不作なんだろうねぇ。これは早々に内政チートのお時間かもしれない。


 ――ゆうしゃはチートまほう【りんさいしきのうぎょう】をとなえた!!


 ところで最近のマイブームといえば、無属性魔法の【鑑定】だ。これも教本に載っていた。

 皿を眺めながら【鑑定】魔法を使う。無詠唱なんてもう慣れたもの。

 すると、皿の上に私にしか見えない吹き出しが現れる。



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 『朝食』

 薄い塩味の肉と野菜のスープ。

 砕かれた黒パンが入っている。

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 さらに『野菜』を意識して【鑑定】。



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 『調理された馬鈴薯』

 皮を剥かれ、4つ切りにされ、加熱調理された馬鈴薯。毒はない。

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 ここからさらに馬鈴薯――ジャガイモのことだね――を鑑定すると、この個体の詳細情報――産地とか、いつ収穫されたとか、どのような土で、どのような過程で育ったかとか――を表示するか、もしくは『馬鈴薯とは何か?』という辞典的なお話のどちらを表示するかの選択肢が現れる。


 辞典の方を選んだ場合、『馬鈴薯はナス科ナス属の多年草の植物で……』から始まり、ずらずらと詳細説明が続くことになる。さらにここで『ナス科』を意識すると、『ナス科とは何か』とか『ナス科に該当する植物一覧』とかにつながる。


 そう! 【鑑定】ちゃんはとっても頼れるウィ○ペディア兼グー○ル兼産地偽装防止装置ちゃんなのだ!

 どちらの機能も、めちゃくちゃ便利すぎる。こんなんチートやん! チーターやん!

【鑑定】さえあれば、フィールドワークでその土地のことが全て分かるといっても過言ではない。


 するぞぉ~内政チートするぞぉ~。


 ただこのチート能力、燃費がめちゃくちゃ悪い。

 最初の『朝食』段階では消費MPは1とか2程度。まぁドラ○エのイ○パスもそんくらいだったはず。

 でも深く調べていくにつれて、消費MPが10とか100とかになり、辞典レベルともなれば1,000、作物の成長履歴を追おうと思ったら10,000とか必要になる。


 私はこの1年間、1億という実質無限のMPにものを言わせて鑑定し続けた。

 最初のうちはぐんぐんレベルが上がったものだけれど、一流レベルである5になった時から上がりにくくなり、最近ようやく8になった。

 8でこれだけすごいのだ。神級である9とか10になったら、この世の理全てを知れそう。円環の理に導かれそう……。


 そんなわけだから、【鑑定】LV8持ちというのは、たぶん希少なのだろうと考えている。


「アリス、魔法の練習は楽しいか?」


 ふと、パパンが話しかけてきた。


「――はい! 毎日が楽しいです!」


 私は笑顔で答える。

 生まれ直してこの方、私はひたすら魔法の研鑽に努めた。おかげで教本に載っている魔法は一部を除いてすべて無詠唱で使える。

 上級魔法を修めたことで、魔法系スキルはこんな感じになった。



***************

【魔法系スキル】

  魔力感知LV8

  魔力操作LV6

  土魔法LV6

  水魔法LV6

  火魔法LV6

  風魔法LV6

  光魔法LV6

  闇魔法LV6

  時空魔法LV10

  鑑定LV8

***************



 ちなみにMPと魔力はまったくと言っていいほど上がらなかった。【ふっかつのじゅもん・ロード】による赤ちゃん期MP養殖恐るべし。


 で、未履修の魔法というのが、商売等の取引で契約書をしたためて商業神に誓うことで契約内容を確実に履行させる光魔法【取引契約】と、人間を隷属させる光魔法【隷属契約】、そして魔物を使役する闇魔法【従魔テイム】の3つ。


【取引契約】はそのうち、使う機会が訪れるだろう……女神様も仰ってたけど、オセロで娯楽チートとかしたいし。


【隷属契約】は奴隷を従わせる魔法だそうで、奴隷相手にしか効果がないとのこと。ゲームチックな世界だから、ステータスに【○○の奴隷】とかがついて、それで判定したりするのかな?

 使う機会はなさそうな魔法だな。


【テイム】は魔物と戦って従えない限りは使う機会がない。早くひとりで魔の森に入って使いたい。


「そうかそうか! もう少し大きくなったら運動も始めような。アフレガルド王国を魔物たちから守るのが我が家の使命なのだ。女といえども弓くらいは扱えなきゃならん!」


 事実、ママンは弓が上手い。砦の矢場で、ママンが的のど真ん中に当てるところを見たことがある。


「はい! がんばりたいと思います」


 ……ふと、思った。

 そういえば、今まで人間を【鑑定】したことはなかったな、と。

 よし、パパンを鑑定してみよう。



************************************************

【名前】 ジークフリート・フォン・ロンダキルア

【年齢】 25歳

【職業】 戦士 アフレガルド王国ロンダキルア辺境伯領・従士長

     アフレガルド王国騎士爵

【称号】 武神の申し子 王国の守護者 竜殺し 山猿騎士

【契約】 (鑑定不能)


【LV】 94

【HP】 9,927/9,927

【MP】 8,221/8,251


【力】   1,273

【魔法力】 813

【体力】  905

【精神力】 713

【素早さ】 972


【戦闘系スキル】

  片手剣術LV9 槍術LV4 盾術LV7 体術LV7

  闘気LV9 威圧LV8 隠密LV5 馬術LV4


【魔法系スキル】

  魔力感知LV9 魔力操作LV9

  土魔法LV2 水魔法LV1 光魔法LV3 時空魔法LV2

  鑑定LV3


【耐性系スキル】

  威圧耐性LV6 苦痛耐性LV4 精神耐性LV2

  睡眠耐性LV4 空腹耐性LV3

 

【生活系スキル】

  アフレガルド王国語LV5 算術LV3 礼儀作法LV4

  舞踏LV4 野外生活LV3 野外料理LV1 食い溜めLV1

  

【軍事系スキル】

  指揮LV3 鼓舞LV7 突撃LV7

************************************************



「――ぬおっ!?」


 パパンが飛び上がる。


「ななな、なんだ……? 今、【鑑定】された……? この家には鑑定持ちなんていなかったはず――ん?」


 私とパパンの目がぱっちりと合った。



    ◇  ◆  ◇  ◆



 この世界にもプライバシーという概念があって、例え親兄弟であっても、ステータスを見せろと強要するのはマナー違反。ましてや強制的にステータスをのぞき見する【鑑定】は、それはもう非常に非礼な行為なのだと。


 ……なるほど、今まで私が魔法でやりたい放題やってもステータスの開示を求められなかったのは、そういうことだったのか。


 パパンの諭すようなお説教のあと、


「しかしまぁ、最初に鑑定した相手が父さんでよかった。……これが他家の者なら、問題になるところだ」


「……ごめんなさい」


「アリス、【鑑定】のレベルを聞いてもいいか?」


「8です」


「8っ!?!? ……なるほど、道理で不快感を感じるわけだ」


 パパンに教えてもらったところによると、LV1~3くらいの鑑定持ちはそこら中にいるらしい。

 でもそのレベルでは、例えば私がパパンを鑑定しても、せいぜい『私の父親』とか『父・ジークフリート』くらいしか情報は引き出せないそうだ。そのレベルの人は『鑑定持ち』とは呼ばれない。

 そして、そのくらいであれば鑑定されても気づかないか、ちょっと違和感を感じる程度なのだそう。


 MP回復ポーションを湯水のごとく使える大商人でも、LV6はなかなかいないそうだ。まぁLV6といえば達人クラスなのだから当然かもしれないけれど。


「ステータス、スキルも、父さんが隠蔽設定しているものまでかなり見えただろう」


 もうバッチリみてしまった。

 パパン、脳筋だけどメチャクチャ強い。

 だってLV8以上は宮本○蔵レベルだよ? それをいくつも持っていた。


 称号なんて剣聖とか守護者とか、竜も殺せるくらい強いんだね、パパン……。


 レベルだって90越え。女神様からは、ベテランの兵士や冒険者でレベル50、レベル100は英雄とか達人、と聞いている。称号から言っても、パパンはまさしく英雄で達人なわけだ。

 ただし先代勇者は500だったとのこと。……バケモノか。


 あとパパン、思ってた通りここの領主の次男さんで、でも世襲できない騎士爵ながらお貴族さんだった。剣聖とか、国の守護者とか、竜殺しとかいう物騒な称号の裏に、いろいろ功績が隠されてそう。

 それにしてもなぜ、貴族なのに従士をしているのだろう? ……あ、そうか。パパンが強いから――というか多分、パパンより強い人がいないから、ここで王国の守護者やってるんだろうな……。


 自衛や国防にかかわるので、軍人は戦闘系や魔法系のスキルを隠蔽設定にするものなのだとパパンから教えられた。

 女神様からはいろいろ教えて頂いたけれど、こういう風習レベルのことまでは教えられなかったからなぁ……。


「それにしても【鑑定】レベル8とはな! まぁお前は、1歳にして4属性の魔法ボールでお手玉するような子だったからなぁ……こりゃ、将来は勇者じゃなくて賢者だな」


「あの……お父様、お願いがあります」


「ん、なんだ?」


「外に行ってみたいのです」


「庭や訓練場にならいつも出てるだろう?」


「家の外に行きたいのです。女の身ですが私もこの家の人間。この土地のことを勉強したいのです。

 食べ物とか、あまり上手く育ってないのでしょう? 【鑑定】を使えば、もっと上手く育てる方法が分かるかもしれません」


「……………………」


 あれ、パパンがフリーズしてる。


「? ……おとうさ」


「むおおおおおおおっ! まだ4歳なのに、なんと聡明で立派なんだ! さすが俺とマリアの娘!」


 駆け寄るパパンに高い高いされてしまった。



    ◇  ◆  ◇  ◆



 さっそく連れて行ってくれることになった。ママンも一緒だ。フットワーク軽いな!


 外に出るに差し当たり、辺境伯領の地図を見せてもらった。地図は立派な軍事機密。家族以外には絶対に漏らしてはならんぞ、と念を押された。


 地図によると、我らが辺境伯領はざっくりこんな感じだ。



                                  山脈…

                                山脈

   北                          山脈

  西 東                              森…

   南              山脈  山脈  山脈    壁 森森…

              山脈山脈  山脈  山脈  山   壁 森森…

            山脈             山 山  壁 森森…

        山脈山脈                 【村】壁 森森…

      山脈                        壁 森森…

    山脈  川                   【城塞】壁 森森…

  山脈    川                   【都市】壁 森森…

        川         【宿場町】         壁 森森…

       川 川                   【村】壁 森森…

      川   川【街】                  壁 森森…

      川    川                    壁 森森…

     川      川                   壁 森森…

     川       川                  壁 森森…

【領都】入り江      川               【村】壁  森…

海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海…


 魔物のいない海                     大海獣の巣窟




 城塞都市の近所に2つの農村があり、城塞都市の食事情を支えてくれていて、海沿いの村は海の巨大な魔物に怯えながらも塩の供給のためにがんばってくれている。


 城塞都市から宿場町まで馬車で約1日、宿場町から川沿いの街まで約1日、街から領都まで約1日、合計約3日。各街の間は街道が整っている。

 馬車の速度ってのは基本、徒歩と変わらない。そして人間が歩く速度は時速約4キロメートル。

 日が出てる時間帯でメシの時以外ずっと歩いてるとして10時間。辺境伯領都までざっくり120キロメートル。フルマラソン3回分の距離だ。


 辺境伯領都遠いな!

 道理で辺境伯様の姿を見たことがないわけだよ。


 ちなみにこの王国、暦と度量衡は日本準拠だ。1年は365日でうるう年もある。距離はメートル、重さはグラム、数の数え方は10進法。先代勇者が国興しのタイミングで大鉈を振るったのだとか。


 フィートやポンドや12進法等の悪しき伝統は先代勇者が許さなかった。

 素晴らしい!

 暦や時間は12進法じゃないかって? まぁ、それはそれ、これはこれ。


 で、そんなアフレガルド王国ロンダキルア領。広さの割に集落が少なすぎる気がするが、何しろこの地は山にせよ森にせよ海にせよ魔物が強すぎて、ほとんどの人族は魔物が弱いずっと西の方に住んでいるんだって。


 歴史的な話も教えてもらった。


 魔王を封印した100年前の勇者様は、まず最初、発言力と魔力にものを言わせて城塞都市を作り、並行して壁作りに励んだ。本当は海沿いにも大きな街を作りたかったが、大海獣たちが強すぎて断念。

 西へ西へと開拓を続け、海の魔物があまり姿を見せないところまで行って、ちょうど川もあったので、臨時首都を立てた。


 それが、地図にも載ってるロンダキルア辺境伯領都。


 開拓団はさらに西へ西へと海沿いに進んでいき、米の生産に適した大きな川と肥沃な大地を見つけ、そこを王都に定めた……こ、米で首都を決めるとは、元日本人の血がなせる業の深さよ……。


 勇者主導の開拓はひと段落し、勇者は勇者王として即位。そこから西への開拓は熱意溢れる若者たちに任せ、開拓に成功すれば爵位を与え、その地に封じたそうな。

 そして約100年たった現在、残念ながら海沿い・川沿い以外はまだまだ未開地ばかりなのだそう。あと人口も南側に集中している。


 ――閑話休題。


 今から行く村は、城塞都市北側の農村。小麦の生産が主で、他に野菜や、休耕地では山羊と馬を育ててるとのこと。食用の家畜は山羊だけらしい。


「豚さんや牛さんは育てていないのですか?」


 私の質問に、パパンとママンが変な顔をした。


「オークやミノタウロスを狩ればいいじゃないか。積極的に狩らないと、やつらは村を襲うしな」


 あー……そうだった、そういう世界観だったわ、ここ。

 2足歩行でも食肉扱いなのね……。お米買ってオーク丼とか試してみたいな。


 ってなわけで、真新しい鐙のついた馬にまたがり、いざ出撃!!

 ちなみに私は【飛翔】した。






*****************************************************

追記回数:4,649回  通算年数:4年  レベル:1


スマホから見てくださっている方へ。

文字の地図がぐちゃぐちゃになってしまい、申し訳ありません!m(_ _)m

地図はあくまでオマケで、なくても分かるように書いておりますので、どうぞ引き続きお読み頂けますと幸いです。

次回、主人公アリスが一夜城!

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