第139話 馬車の旅あるある

のどかな村の中を一台の馬車が通っていく、華美な装飾や家紋などが無くても、馬車のきしむ音やガタツキが無いだけで乗っているのがそれなりの身分の人間なのだと田舎に住む者たちでさえ知っている。

馬車の窓に見えた令嬢とふと目が合った村の少年、にっこりと微笑む愛らしい令嬢に頬が熱くなるのがわかる。

一瞬だけしか目が合ってないというのに、その微笑みは脳裏に焼き付いてしまったかのように頭から離れない。

少年はその場に呆然と立ち尽くし、此方を見て微笑んでくれた令嬢の乗った馬車が見えなくなるまでそうしていたのだった。




そんな淡く甘酸っぱい気持ちで少年に見送られていた馬車の車内では………。


「………やり過ごせたかな?何か目が合ったから笑っといたけど」

「ヤバイっス!!あのガキンチョずっとこっちを見てきてるっス!?」

「まさかバレちまったか?」

「いえ、偽装はちゃんと成功しているはずです。オハナたちは今NPC扱いとなっているはずですよ?」

「じゃあどうして見てきてるんスか?」

「………オハナちゃんも罪作りねぇ」


――――――なんて、ちょっと失礼な会話がされているとは思わないだろう。











ハイどうも~。

現在進行形で目的地へ向かっている馬車の中のオハナです。


クロードが用意してくれた馬車は大きなものが一台、当たり前みたいにオハナの隣の席に座ろうとするクロードを眷属たちが拉致して簀巻きにして馬車の後ろに括りつけられていた。

猿轡さるぐつわまでされて何言ってるか全然分からないけど、必死で何かを訴えてるのはわかる。けどオハナはあんまりクロードには関わりたくないのでスルー。

何も見なかったことにして馬車に乗り込むと、サーチェとカーマインも嫌なそうな顔しながらもクロードを無言で御者席に縛り付けて「こんな奴のせいで失敗したくない」という事で、クロードを挟むようにして同じく御者席に座るのだった。



因みに眷属たちは馬車には乗っていない。

オハナたちが移動してる間はNPC扱い、けど眷属たちは偽装の効果対象外らしくて強制(物理)的に大人しくしていてもらいました。


だって失敗したくないんだもの。


オハナとカナきちはそのままの見た目で扱いだけNPCなんだけど、ワヲさんは人型になった状態がデフォルト設定になりNPC扱い、コテツさんは受肉して何故か若いイケメンお兄さんになっていた。


「若い頃の爺さまにそっくり、私まで若い頃に戻ったようだわ」

「よせやい。婆さまだって若い頃の姿じゃねぇか」


うっとりと目を細めるワヲさん、照れてるけど満更でもなさそうなコテツさん。

あぁハイハイ相変わらず仲良しさんだね。何この美男美女カップル?滅びれば良いのにと思うだけに留めておいたのは内緒だよ?



最初オハナたちがクロードと合流したのが人間側が抑える領域の一番端、魔物側の領域と接してる(という設定で行き来は出来ない)場所だった。

そこから幾つかの村や町を経由して目的地まで向かうらしい、その間戦闘行為は禁止されてないけど攻撃して良いのは同行者であるクロード、サーチェとカーマインもそうだけどこの三人を殺すのは絶対にダメ。それ以外は攻撃した時点で一発アウト。あと盗賊の類も出るらしいんだけど、そいつらは何人撃退しても御咎めなしらしい。


まったく、命の軽い世界だわ。(※特に意味なく言ってみたかっただけ)


「それにしても馬車って思ってたより揺れないのね?よく聞くじゃない?道が舗装されているわけじゃないからとても座って居られないって、腰痛持ちの私と爺さまにはありがたいわぁ」

「確かに、腰が痛くなればとてもじゃないが戦闘なんざ無理だからなぁ」


ワヲさんの言葉にしみじみと頷くコテツさん。


「それは多分オハナさんがこの馬車に乗ってるからっスよ」


「え?オハナは特に何もしてませんが?」

「またまたぁ」

「いえいえ本当に」

「あら、本当に何もしてないの?」

「えぇ。嘘だったら至近距離からホタルちゃんのビーム浴びても良いです」

「針千本よりえげつねぇな」

「おかしいっスねぇ………この世界で起こる大抵の変な事はオハナさん絡みのはずですけど?」


いや、知らんがな。

何でもオハナのせいにしないでくれる?


「オハナ様を揺れる馬車などに乗せてご不快にさせるわけにはいかない、僕の魔力が続く限り進む道を土魔法で均してみせる!!」


「………クロードのおかげだったみたいね」


馬車に乗る皆でクロードにお礼を言っておいた。

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