第70話 魔王様介入!?

丁度二人の説明が終わった辺りでフェンネルが突然居住まいを正して、


「はっ!……………承知いたしました。オハナ様、魔王アレイスター様よりお話があるそうです」


どうやら魔王様から通信があったみたい、それにしてもこのタイミングの良さ…………本当は何処からか覗いてたんじゃないでしょうね?


フェンネルが掌を掲げると、そこに一瞬で水晶玉が現れる。

それをオハナに差し出すと、その水晶玉の中にはまぁ目鼻立ちの整った人が此方を見ていた。


「お初にお目にかかります。オハナです」


ダンジョンマスターしてるとはいえ、オハナはただの魔物だもの。

立場的にはこっちが”下”になるんだろうから、こちら側から名乗りを上げた。


「うむ。我がこの世の魔族を統べる王――――――アレイスターだ。もっとも………………その威も今や名前だけなのやもしれぬが、な?」


あぁ、えーっと〖七牙〗だっけ?

魔王さんの言うこと聴かずにその座から引き摺り降ろそうとしてるのって?


皮肉気に笑うそんな様子さえも、整った顔立ちでやれば絵になっちゃうんだなぁ。

無意識だろうけど、プリムさん、ホタルちゃん、ワヲさん、フェンネルの四人がほぼ同時にうっとりとした感じの溜息漏らしてましたもの。


「ところで今日はどういったご用件です?」


失礼な物言いなのは承知してる、だけどこういう一方的に気を遣うだけの相手との会話なんて出来るだけ早く終わらせるに越したことない。


「先日、我の送った使者が其方に無礼を働いたようだな――――――すまなかった」


水晶玉越しではあるけれど、アレイスターは確かに頭を下げていた。


「アレイスター様!?頭をお上げください!!」

「全ての責任は我々に在ります!!ですからどうか!!」


魔王様が頭を下げる――――――その衝撃は直属の部下であるフェンネルとアシュワンには大きかったみたい、すぐに水晶玉に向けて悲鳴の様に叫んでいた。


「御二人さんよ?それはその人が一体誰のために頭を下げてるのか、解って言ってんのかい?」

「そうねぇ。それに今この場所で、頭を上げてと言えるのはオハナちゃんだけよ?」


そんな二人に声をかけたのはコテツさんとワヲさんだった。

二人の様に叫んだわけでもないのに、その言葉はしっかりと響いた。


魔王アレイスターからの謝罪、それを受け取るかどうか決められるのはオハナだけ。


コテツさんとワヲさんにそう窘められて何も言えずに途端に大人しくなった二人、出来上がった静寂を破ったのは未だ水晶玉の向こうで頭を下げているアレイスターだった。


「……………本来であれば使者として遣わされておきながらの失態、こちらでも厳しく処分し、そちらにも示しを付けねばならない所なのだが……………どうか今回の事を水に流してはもらえないだろうか?」


そう言ってより一層深く頭を下げる魔王様。


「都合の良い事を言っているのは重々承知している。だがしかし、どうしても二人を此処で失うわけにはいかぬのだ………………頼む」


「………………一つ伺っても宜しいでしょうか?」

「構わない」


オハナからの質問に答える為、魔王様は頭を上げて向かい合う。


「何故、『煮るなり焼くなり好きにして良い』なんて看板を――――――?」


オハナが引っ掛かってるのはそこだ。

最終的に頭を下げるつもりだったのなら、どうして最初に二人を送りつけたのか?


魔王様は柔和に微笑むと、


「其方であれば、あのように放置しておけば話も聞かずに処分するような事はしないと思っていた。そしてその状況下でそこの二人が今度はきっちりと説明が出来るのかどうかを確認する狙いもあった、同じ愚を犯すようであればそのまま見捨てるつもりで、な?」


あ、やっぱ覗くなり盗み聞きなりしてたんだ?

どっちに転んでも良いようにはしてたってことね?


「結果完璧とは言い難いが説明は出来ていた。まだまだ改善の余地はあるが、未来が無ければそれにも期待できない、だからこそこうして二人の助命を乞う為に姿を現したのだ。そちらに迷惑をかけるだけかけて、詫びの言葉一つというのは不服かもしれないが――――――…………」


本当に、都合の良い事を言ってくれちゃうなぁ……………。

そして狡い。

皆の視線が一手に集まって来ていて、此処でオハナが許さないなんて言おうものならば今度はオハナが大人げないと顰蹙を買う流れに変わって来ているのを感じる。


まぁ『断ればわかってるよな?』のマオハラが、オハナの勘違いだったのは内心ホッとしてる。

話にも出てこないって事は、魔王様は別にオハナ眷属を狙ってるわけじゃなさそう。


「わかりました。魔王様の謝罪を受け入れます」

「感謝する」







こうして、オハナ眷属をめぐるちょっとした騒動は終わり――――――っていう風にしたい。

オハナ的にはこのまま終わっても全然構わないと思ってるんだけど……………ね?


そーっと視線をに向ける。


1号は剣状の腕をさっきから研いでいる。

2号はいつでも二人を攻撃できるように身構えている。

3号はオハナがまだ拘束してるから大人しいものだけど、放せば何するかわからない。

4号は微動だにせず、二人から照準を外さないし。

5号は何故か準備運動をしてる。

6号と7号はまだ動けないから安心できるとしても……………他の子たちを止められるかな?

止めなきゃいけないよね?………………サンガとあとは……………カナきちにも宥めるの手伝ってもらおう。



「すみません。ずっと疑問だったんすけど、オハナさんに褒美を渡すの遅くないっすか?オハナさんが砦を陥落させたのってもう一か月以上前の話っすよ?」


カナきちが、手を挙げて水晶玉の向こうに居る魔王様に質問を飛ばしていた。


「それは――――――」

「それは私から説明します。本来であればもっと早くに御渡しする予定で、使者もアシュワンではなく別の者だったのですが、奪われてしまったのです」


フェンネルが悔しさを顔に滲ませる。

隣に居るアシュワンも、魔王様も、その時の事を思い出しているのか似たような顔をしていた。


「本来であればもう少し上等なものを御渡しできるはずでした。しかしレアなものを用意すれば必ず奴らの耳にも入ってしまい、結果は同じでした。秘密裏に用意出来て尚且つ怪しまれずに運び出すにはあの程度の物しか……………申し訳ありません」


………………なんですと?

アシュワンったら、今もっとレアな物を用意していたって言った?


「そうですか。奴らって事は、相手の見当はついてるんですね?」


口調は穏やかだけど、プリムさんが半ギレしてる!?


「それが我に歯向かう〖七牙〗、確たる証拠は何も無い。だが、ここ最近の奴らの羽振りの良さから考えれば間違いないだろう」


魔王様のその一言でフェンネルとアシュワンに向けられていた眷属たちの怒りが、まだ会った事もない〖七牙〗の人たちへとシフトしたのは言うまでもないよね。

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