第5話 斧使いと勇者
「きのこに飲み込まれたら最後、ループしちゃうんだって!」
斧使いが嬉しそうに言う。
「なんだループって」
怪訝そうな顔をする勇者。
「同じ時間軸を何周もするんだよ」
「飲み込まれた奴がか?」
「世界の方が回るって説もあるみたい」
「どっちでもいいが、そんなものに飲み込まれたくはないな」
「ふふ」
斧使いの足下には、きのこが生えていた。
◆
「うーん、ここをこうして……」
「どうした、斧使い」
「わっ勇者くん、急に現れるのやめてよ」
「さっきからいたが」
「やだなあ」
「嫌とか言われる筋合いはない」
「そういうとこだよ」
「どういうところだ」
「はー、いいよもう。で、何の用?」
「きのこばかり眺めてどうしたのかと思ったんだ」
「違うよこれは……食べられる種類と食べられない種類をメモしておこうと思って」
「お前、そういうの詳しかっただろう? 今改めてメモする必要はあるのか?」
「えっ」
「何か悩みでもあるのか?」
「いやないよ」
「……」
「ないったら」
「明日の飯はきのこ鍋にでもするか?」
「えーやだー」
「食べたいわけではないのか……じゃあ何だ」
「詮索しないでよー。僕にだって権利があるでしょ」
「何の権利だ」
「考え事する権利! いちいち君に教えてなんかいられないし……だって恥ずかしいじゃない!」
「変なところで繊細だな、お前は」
「変なところで繊細なんじゃなくて全体的に繊細なんです僕はー」
「へえ……」
「信じてませんみたいな顔しないでよお」
◆
「……」
「どうした斧使い」
「わっ……勇者くんか、びっくりさせないでよ」
「びっくりさせたつもりはないが」
「君いつも急に現れるからびっくりするんだよ。なんか気配とかそういうのないの?」
「気配がないから有利に戦えるんだろう」
「そうだけどさあ……もっと僕みたいにドーンと存在感っていうかさ、戦場に咲く花みたいな」
「なんだそれは。確かに斧使いは花のようなところがあるが」
「えっあるの?」
「儚いところがそれらしい、だから心配になる」
「なっ……なにそれ? 僕そんなヤワじゃないんですけど!」
「そうか?」
「そうだよ!」
「それなら良いが」
「そう、良いんだよ」
◆
「……斧使い?」
◆
君に気付かれないようにするのは骨だったよ。
毎ループ勘が良すぎるんだもんね、君にとっては一週目にすぎないくせにどうして気付くのかなあ?
ひょっとすると君に気付かれることも含めてのループなのかもしれないね。
ループするのは「斧使い」つまり僕だけで良い、君の前からいなくなるのも僕だけで良い、君はただ、世界の決まりに従って魔王を倒して世界を救えばいい、それだけ。どの巡でもそうなった、と思う。僕はいなくなったから確認はできないけど君ならそうした、そうしてたと思う。
今回もそうだよ。君は僕を見送って、旅を続けて、魔王を倒す。そうでしょ。そうだと言ってよ。そうじゃなきゃ僕が一人でこれを抱え続けた意味がなくなる。もし僕がいなくなったせいで君が旅をやめてしまっていたらなんて思うと耐えられない、だから、旅を続けて。
頼むよ。
「わかった」
ありがとう、そう言ってくれるのもやっぱり君だからこそだね。
だから僕も狂わずに続けることができる。
いつ抜けられるのかなんてくだらないことを考えずに、僕がいなくなっても君は大丈夫って確信したまま続けられる。
虚無に取り込まれてしまった僕を許して。許さなくてもいい、旅を続けて。
君のことを思っているから、ずっと。
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