青葉シンジの憂鬱

鷹月のり子

第1話

 

 貧乏人、氷河期人、モサ男、低能力者、このスペックで人生を始めるとしたら、それはクソゲーだ。超のつく鬱ゲーだ。

 産まれた家庭は貧困だった。オヤジの顔なんて知らない。

 家が貧しくても自分で働けばいい?

 就職氷河期だった。

 金はない。

 しかも外見もカッコよく産まれなかった。

 女子に見向きもされない。

 そして低能だった。

 知能指数が低いんだ。

 仕事がトロい、使えない、よく言われたし、学校の成績も底辺だった。

 少しは努力した。けど、無駄だった。

 地で頭いいヤツがいるように、地で頭悪かった。

 どうよ? この諸条件。

 こんなステータスで他人と競い合うクソゲー、しかも他人たちは、金持ち家庭だったり、幸運だったり、美形だったり、努力しないでも地で頭いいんだぜ?

 やってられるか!

 リセットを要求する!

 リセット・ザ・ワールドだ!!

 

 

 気がついたときには病院にいた。

 病室の天井が見える、なんかのアニメを思い出す状況だけど、起きられない。

 全身が痛い。

 苦しい。

 なんで、オレ、生きてるんだ。

 

 

 看護婦さんが優しい。

 先生も。

 こんなに他人に優しくされたのは始めてだ。

 ああ、思い出した。オレは正義の鉄槌をくだしたんだった。

 オレの小説を盗んだクソどもに、罪をわからせてやるため。

 火をつけてやった。

 ガソリンを撒いて。

 でも、ビビった。

 ガソリンって、あんなに一気に燃えるんだ。

 ジャギさんが火を放ったときとぜんぜん違った。

 所詮マンガだからな。

 オレまで火傷した。

 あの火の勢いなら、あのクソ会社の社員も一人か二人は焼き殺せたかもな。

 それにしても看護婦さん、優しい。

 すげぇ優しくオレの身体を拭いてくれる。

 女の人に触られたことないところまで。

 ずっと寝たきりでオレがウンコ垂れても、ケツ拭いてくれる。

 母さん………どうしてるかな………

 まあ、いいや。

 どうせ、オレは無期懲役とかかな。

 でも、一人も死んでなかったら、ただの放火だから、意外とすぐ釈放かも。

 この国は甘いからな。

 貧乏人に厳しいのに、犯罪者に甘い。

 オレの小説を盗んだヤツらにはオレ自身が鉄槌をくだした。

 ああ、そうか、看護婦さんが、こんなに優しいのはオレの正義を知ってくれているからだ。

 ふふ、ありがとう、やったぜ、オレは。

 おっぱいくらい揉ませてくれよ。

 そんな優しくチンコ拭いてくれるなら、おまんこ触らせてくれ。

 いい匂い。

 白衣の下、おっぱいCカップあるかも。

 揉みたい。

 どうせ無期懲役だし、痴漢くらい。

 クソ……手も動かせねぇ。

 あ~……しまった、どうせ捕まる覚悟だったんだ、その前に電車で痴漢しておけばよかった。

 怒りで忘れてた。

 どうせなら強姦もしておけばよかった。

 女の子さらってバーニー着せて。

 やりまくって。

 殺すのは可哀想だからアパートに残して、それから正義の炎をつけにいけば、その女の子だって英雄にやってもらえたアゲマン気分だ。

 アパート、オレの部屋。

 もう警察も調べたろう。

 オレに正義があることを。

 けど、放火は重罪だしな。

 オレの部屋、あれは事故物件になるのか。

 なるなら、それはそれでいい。

 大家め、不労所得で儲けるからだ。

 それも正義の鉄槌だ、ざまあみろ。

 正義は勝つ。

 オレは勝った。

 オレは勝ったぞ。

 

 

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