第38話 初級魔法と連携攻撃

「おお、本当に《空歩》スキル取れたんだ。さすがベル」


「ふっふーん、どうよ! ついでに、《初級魔法スキル》だって解放されたよ! これで私もいっぱしの魔術師だね!」


「いや、それ普通なら5レベルくらいで解放されるものだから」


「えぇ!?」


 無事に修行僧さんから受けられるスキル習得クエストを達成した私は、エレインと合流してその結果を報告していた。

 崖を飛び下りながら、遠距離攻撃で抑えつつ飛び掛かったという話をした時は、「死に戻り前提とかなんてリスキーな……絶対誰も真似しないわ」なんて呆れられちゃったけど。

 うんまあ、私の場合はレベルが上がった直後で、いくら死に戻っても大して経験値が減らない状態だったのもあるからね。


「でもまあ、属性魔法を使えるようになったのは大きいよ。モンスターによって弱点属性が設定されてるから、それを突いて攻撃すれば、ベルのINTでも多少はダメージになるだろうし。……多分」


「なるほど、弱点属性かぁ。ちなみに、エアコンドルは何が弱点なの?」


「あれは炎だったかな? ああそれと、弱点属性を突くのもそうだけど、特定の属性を使い込めば、その分上位の魔法スキルが解放されていくから……迷った時はこれ、くらいの魔法を一つか二つ、決めておくといいよ」


「そういえば、ティアも動画ではほとんど炎属性使ってたね」


 エルダートレントの討伐動画を見て以来、自分でも調べてティアの動画は全部チェックしたんだけど、そこで使っているのは大抵が炎属性だった。“爆炎の魔術師”なんて呼ばれ方もしてたし。

 なぜそうなるのかと言えば、一つは弱点属性と一口に言っても、どれくらいダメージに補正が乗るかはモンスターによって違うからなんだとか。1.1倍補正とかその程度なら、単純に上位スキルをぶっ放した方が強いと。

 もう一つは、スキルなら必ず設定されているCT。初期スキルならともかく、それ以降はCTがどうしても長くなっていくから、弱点属性ばかりで徹底的に攻め立てるっていうのが難しいんだって。


「まあ、属性ごとに特徴があったりするから、それを見て決めるといいよ。とりあえず、早速手に入ったスキルを試しに行く?」


「もちろん、行く!」


 最近は死に戻り連発で、レベルが全然上げられなかったからね! 雫との約束のためにも、これからガンガン戦って上げていかなきゃ!


 と、そこでふと、エレインがきょろきょろと辺りを見渡す。


「そういえば、ココアは今日いないの?」


「ああ、何か体調が悪いから、ログイン出来ないんだって」


「ふーん? まあ、偶にはそんな日もあるか」


 なぜか意味深に笑うエレインを見て首を傾げつつ、私達は山岳エリアへと向かう。

 相変わらず、空を悠々と飛ぶエアコンドル達を見て、私はまず手始めに、新しく習得した魔法スキルの試し撃ちを行うことにした。


「《ファイアボール》!」


 まずは炎属性、属性魔法の中では最も威力が高いそれは、単純に火の玉を飛ばす魔法だ。

 火の玉の速度は、《投擲》と同じか少し遅いくらいかな? あまり遠距離で使うには向いてないっぽい。

 あ、命中したら爆発した。あれ、周りにも影響あるのかな?

 ……近くを飛んでたエアコンドルが反応したし、あるみたいだ。


「それじゃあ、私はちょっと魔法スキルのお試しに集中するから、エレイン、悪いけど襲って来た奴の相手して貰える?」


「いいよ。というか、うん。何気に初めて魔術師と盗賊らしい連携だねこれ」


 言われてみれば確かに。


「まあ、細かいことは気にしない気にしない! というわけで、頼んだよ!」


 エレインにモンスターの相手を押し付けつつ、高速で飛翔するエアコンドル相手に《アイスボルト》を放つ。

 《ファイアボール》よりはそこそこ弾速が速いかな? 氷の礫が一直線に飛び、エアコンドルを打ち据える。

 ダメージはお察しだけど、まあ弱点じゃないしね。私のステータスじゃ仕方ない。


「《ロックバレット》!」


 続けて、土属性。石の礫が飛んでいく魔法だ。

 ……水属性の《アイスボルト》と挙動が変わらないし、威力も同程度。そして何より、地味。

 上位スキル次第だけど、これ微妙じゃない? 動画映えしないでしょ。


「《ツインスライサー》!! ベル、試すのはいいけど、呼び過ぎても処理しきれないからね! 私、基本は回避盾で、アタッカーじゃないんだからさ!!」


「あ、うん、気を付けるよー」


 二体のエアコンドルを相手に大立ち回りを続けるエレインに、私はそう言って軽く手を挙げた。

 うん、一応私が開幕一発入れてるのに、そのアタッカーじゃないはずのエレインがあっさりとヘイトを奪い取れてるあたり、私の魔法スキルの弱さが光るね。とほほ。


 まあいいや、次々っと。


「《エアカッター》!」


 風の刃が杖の先端に集まり、高速で飛翔。エレインに攻撃されて怯んでいたエアコンドルにぶち当たる。

 おお、中々に速いね。威力控えめだけど、遠くの敵を呼ぶのが目的なら、投擲や《マナシュート》より便利そう。メインスキル第一候補かな?


「えーと、後はもう一つだったね……《マナブラスト》!」


 新しく習得した最後の魔法スキル、無属性の《マナブラスト》。

 他と違って、どんな魔法なのか名前だけじゃ分かりにくくて、さてどうなるかと見守っていると、白く輝く小さな玉が、《ファイアボール》よりもゆっくりとした速度で撃ち出された。


「うーん、微妙?」


 こんな速度だと、空を飛ぶ飛行型モンスターには上手く当てられそうにない。

 そう思っていたら、今回は遅すぎたせいで、一度離れていたエアコンドルがたまたまタイミングよく射線上に戻って来た。

 おっ、当たりそう。


「キュオオ!?」


 すると、予想以上に大きな爆発が起き、派手な光を撒き散らしてエアコンドルが大きく弾き飛ばされた。

 おおっ、見た目の割にダメージは少ないけど、これは予想外。思ったより使えそうかも。


「まあ、それはそれとして、魔法の実験が終わったら最後はこれだよね……とりゃあ!!」


 魔法スキルそれぞれの使い勝手を確認した私は、ちょうど失速して手頃な高さへと落ちて来たエアコンドルに向け、勢いよく跳び上がる。

 これまでだったら届かない程度に高さがあるけど……今なら!


「《空歩》!!」


 何もない空中でもう一度跳び上がり、エアコンドルの背中に着地する。

 そして、手にした杖を大きく振り上げた。


「おりゃっ、《魔法撃》!!」


「キュアア!?」


 背中側から脳天を叩き潰されて、エアコンドルが霧散する。

 足場が消えるけど、今ならそれでも問題ない。《空歩》スキルを再び使用し、今度はエレインとドタバタしているエアコンドルの方へ。

 手頃な位置にいる個体へ手斧をぶん投げて怯ませ、その隙に杖を叩きつける。


「とりゃああああ!!」


「キュオォ!?」


「うわっ、なんか飛んで来た!」


 さらりとエレインに変な物体か何かみたいな扱いされた。ひどい。

 ともあれ、今はまず最後の一体を……って、随分高い位置にいるね、ちょっと遠いよ?


「んー、よし、せっかく飛んで来たなら、ベルも協力して。前からやってみたかったことあるんだよね!」


「やってみたかったこと?」


「そう、行くよ!」


 行くよ、と言われても、何の説明もなしじゃ無理があるんだけど。

 そんな私の思いを余所に、跳び上がったエレインが空中にいる私の傍……具体的には、杖の上へと足をかける。

 それを見て、私はエレインが何をしたがっているのかピンと来た。


「頼んだよベル」


「任せて!! うおりゃああああ!!」


 細かいタイミング合わせもなく、全力で杖をぶん回す。

 私の無駄に高いATK補正を存分に活かしたその一振りによって、エレインは勢いよく空へと打ち上げられていった。


「《ツインスライサー》!!」


「キュア!?」


 エアコンドルが安全だと確信していたであろう高空へと、あっさりと到達したエレイン。そのままスキルを叩き込み、エアコンドルが失速して墜ちて来た。

 それを見るや、私は再び《空歩》で跳躍。自然落下してくるエレインとタイミングを合わせる。


「てりゃああああ!!」


「《紫電一閃》!!」


 上と下から、それぞれの攻撃が炸裂し、エアコンドルが霧散する。

 くるりと二人揃って空中で身をひるがえして着地すると、パンっとハイタッチを交わした。


「いやー、今の良い感じだったね! 今度は動画で残したいくらい!」


「あはは、そうだね。何より、慣れたら飛行型の処理速度がぐっと上がりそうだよ」


 楽しそうなエレインに、私は実利の方で益を説く。

 最初に考えていたのとは少し違うけど、エレインがいれば私、飛行型も敵じゃないかもしれない。


「じゃあ、もうしばらくあの連携練習しようか?」


「うん、やろうやろう」


 二人で頷き合い、その日はそのままエアコンドルを相手に、何度もエレインを空へと打ち上げるのだった。

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