撲殺魔女のプレイ日記~魔法使いは攻撃力が命と聞いたのでそれっぽいステータスに全振りしたら、筋力極振りの脳筋魔女になってました~
ジャジャ丸
撲殺魔女とボス戦闘
第1話 シスコン姉と引きこもり妹
チュンチュンと、耳に優しい小鳥の囀りが、私の意識を夢の微睡みからゆっくりと浮上させる。
瞼を開ければ、出迎えてくれるのはいつもと変わらない朝の日差し。
ずっとお休みしていた目には少しばかり刺激的なそれが、寝惚けた頭を揺すり起こしてくれる。
「ふあ~……ん、おはよ~」
欠伸を一つ。枕元に置かれた家族写真を見てそう呟きながら、よし、と気合いを入れてベッドから飛び降りる。
さて、今日も頑張るぞー!
「ふんふふんふふ~んっと」
鼻歌を歌いながら、鏡の前で身嗜みを整える。
しっかりと時間をかけて寝癖を直し、お気に入りのパジャマから服に着替えて……よし、どこもおかしいところはない、完璧!
「いざ、勝負!」
そうしてやって来たのは、家の中のとある部屋の前。
呼吸を整え、今日こそはという不退転の決意と共にドアノブに手をかけ――一気に開く!
「
勢いよく部屋に突入した私を出迎えたのは、ふかふかの枕だった。
顔面を痛打したその一撃によろめきながら、負けるものかとその場に踏ん張り、体勢を整える。
「っつ~……雫ぅ、いつも言ってるけど、朝の挨拶が枕投げっていうのはどうかと思うな! 私としては、『お姉ちゃん、おはよう! 愛してる!』って体ごと胸に飛び込んで来て欲しい!」
「うっさいばか姉、勝手に部屋に入るなって言ってるでしょ。大体何が愛してるよ、姉妹できもい」
涙目で抗議する視線の先には、布団から頭と手だけを出してこちらを睨む、美少女の姿。
日の光を浴びない生活を送っているせいか、その肌は病的なまでに白く、華奢な体格も相まって触れれば消えてしまいそうなほどの儚さを醸し出す。
まるで、絵本から飛び出してきた妖精か天使のように可憐なこの子こそ、私の世界でたった一人の妹にして、生粋の引きこもり。
「大体、今日は土曜だから学校も休みでしょ。こんな朝早くから何」
そんな妹が、今は天敵を前にした子猫のように、ふしゃーっ、と威嚇するような眼光を向けてくる。
とっても可愛いけど、その天敵とみなされてるのが私だと思うと、お姉ちゃんとっても悲しいな!
でも、これくらいの扱いは日常茶飯事。今更めげたりなんかしないんだから!
「今日はバイトで、早めに出ないといけないから。その前に雫と一緒に朝ご飯食べたいなって」
「やだ。まだ寝る」
取りつく島もない返答と共に布団を頭から被り、ベッドに潜り込む。我が妹の誇る秘技、亀さんガードだ。
こうなると、梃子でも動かないことは百も承知。私は今日も敗北を悟り、がっくりと項垂れる。
「うぅ、分かった……朝ご飯、部屋の前に置いておくから、ちゃんと食べてね?」
「分かってる。……それから、ばか姉」
「うん? なぁに?」
とぼとぼと部屋を後にしようとする私に、雫がまた顔だけひょっこりと布団から出し、声をかけてくれた。
そのことが嬉しくて、満面の笑みで振り返った私に……。
「……頭、また寝癖跳ねてる。行く前に直したら」
そんな無情な言葉をかけ、またしても顔が引っ込んでいった。
「えぇ!?」
ちょっ、さっき直したばっかりなのに、また!?
今度こそしっかりと直すべく、ドタドタと洗面所に向かう私の後ろから、雫の小さな溜息が聞こえた気がした。
朝食を食べ終え、身嗜みを再度整えてから家を出た私は、バイト先――近所の喫茶店へとやって来た。
従業員の制服に身を包み、開店時間に間に合うようにせっせと清掃作業を行う。
そんな最中でも頭を過るのは、愛する妹のことだった。
「う~、雫と仲良くし~た~い~」
あの子はもう、ずっと引きこもってる。
元々体が弱くて引っ込み思案ではあったけど、とある事件を切っ掛けにそれが益々酷くなり、今じゃあ学校にも行かず、私とだってほとんど顔を合わせてくれない。
小さい頃は、「お姉ちゃん、一緒に遊んで!」って、四六時中べったり引っ付いて来てくれたのになぁ……うぅ、お姉ちゃん寂しいよぉ。
「相変わらず雫ちゃんは難敵みたいだね、
「あ、
涙ながらに作業を進めていた私に声をかけてきたのは、私の高校の同級生。
この喫茶店のオーナーの娘で、私がここで働いてるのも蘭花の口利きがあったから。小学校からの付き合いだけど、そういう事情もあって内心じゃ頭が上がらない。
とはいえ、それと友達付き合いはまた別。心優しい友人に、私は思い切り不満をぶちまけることにした。
「そうなんだよぉ~! 今朝なんて、起こしに行ったら顔面に枕投げ付けて、私のことバカ姉バカ姉って呼ぶんだよ!? ツンツンしてる雫も可愛いけど、私としてはもっとデレデレした時の顔も見たいのにぃ!!」
「ふ、不満に思うところそこなんだ……いつも思うけど、鈴音ってなんかズレてるよねぇ」
「えー、そうかなぁ。だって雫だよ雫、神がこの世に造り給うた絶世の美少女、私の天使!! 雫を見てるだけでご飯三杯はいけちゃうね!!」
雫の可愛さについて朗々と語る私に、蘭花が向けるのは呆れの表情。
むう、解せぬ。私はこの世の真理を語っているだけなのに。
「見てなくてもそれくらいいつも食べるでしょ、鈴音は。それで、こんなにもしっかりと育っちゃってまあ……」
じい、と、蘭花の視線が下がり、私の胸に注がれる。
その瞳に浮かぶ暗い光に、思わずさっと腕で隠そうとするも、少しばかり遅かった。
素早く後ろに回り込んだ蘭花ちゃんによって、私の胸がわしっ! と掴み取られる。
「全く、食べても食べても太らなくて、栄養が全部胸に行くとかなんて羨ましい体質なの!? その癖、こんな重りをぶら下げながら運動も出来て、頭もめちゃくちゃいいとか、ちょっと色々盛り過ぎ! せめて胸だけでも私に分けなさい!」
「いや、分けたくても分けれないって!? ていうか、こんなところでじゃれないの、仕事出来ないでしょ!」
「やかましー! こんなの引きちぎってくれるわー!」
ぎゃいぎゃいと騒ぎながら、恨み辛みをぶつけるようにしがみつく蘭花。今はお客さんがいない時間とはいえ、外から見えないこともないし、流石にこんなところを他人に見られるのは恥ずかしい。
振りほどくだけなら簡単だけど、こんなしょうもないことで怪我させたくもないし、どうしても抵抗が半端なものになってしまっていつまで経っても抜け出せない。
「何をしとるか、このバカ娘!」
どうしたものかと思っていると、私達の後ろから現れた女性の拳骨が落ち、蘭花が「あぎゃ!?」と乙女にあるまじき悲鳴を上げて蹲った。
「いったぁ……! ちょっとママ、可愛い娘にガチの拳骨とか酷くない!? 余計バカになったらどうするの!?」
「可愛い娘なら、仕事中の同級生に悪戯しない! 第一、既にバカなんだからそれ以上バカになんてなりようがないでしょ!」
「ひっど!? 流石に私だって傷付く時は傷付くんだからね!?」
「そういう台詞は、一度でも赤点回避してから言いなさい!」
ガミガミと怒鳴るこの人は、夏目
家が近いこともあって、私達姉妹もよくお世話になっている人なんだけど、この通り怒ると凄く怖い。旦那さんも見事に尻に敷かれていて、かかあ天下をこれでもかと体現した人だ。
それでも優しい人には違いなく、一通り娘への説教を終えると表情を和らげ、申し訳なさそうに私に向き直った。
「ごめんね鈴音ちゃん、うちのバカ娘がいつも迷惑かけて」
「いえいえ、こうやってバイトさせて貰ったり、私も十分お世話になってますから、お互い様ですよ」
「あれ? 鈴音、気のせいかな? その言い方だと私に迷惑かけられてるって点は否定してない気がするんだけど」
無駄に察しがいい友人の言葉はスルーしつつ、美森さんにはなんでもないと笑いかける。
そんな私達の様子が可笑しかったのか、ひとしきり笑った美森さんは、改めて少し困った表情を浮かべた。
「それにしても、雫ちゃんは元気? 少し聞こえた感じだと、相変わらずみたいだけど」
「あはは……そうですね、相変わらず、私ともほとんど顔を合わせてくれなくて……」
話題が元に戻ったことで、私の纏う空気が自分でも分かるほどにどよーんと落ち込む。
そんな私を慰めるように、美森さんが肩をポンポンと優しく叩いてくれるけど、気分は晴れない。
「今朝も一緒にご飯食べようかと思ったんですけど、まだ寝るから嫌だって……はあ……」
「まあ、雫ちゃんも昨夜、随分遅くまで起きてたからねー。早起きは辛いんでしょ」
「そうそう、いつも夜更かしばっかり……って……」
説教のダメージから復帰するなり、さらりと会話に混ざる蘭花の言葉に、私は思わずぎょっと目を剥き振り返った。
私の反応が意外だったのか、蘭花は目をぱちくりと瞬かせている。
「ねえ蘭花、雫がいつ寝てるかなんてなんで知ってるの? 私、その話したっけ?」
「え? そりゃあ私、半年くらい前から同じVRゲームに嵌まってて、時間が合う時は一緒にプレイしてるから。昨夜もちょっとクエストが長引いて、二人してかなり遅くまで……ってあだだだだ!? ママ、アイアンクローはやめて、頭割れちゃう!?」
「蘭花、あんたね、雫ちゃんはまだ中学二年生なのよ!? あんたと同じ不健康な生活サイクルさせちゃダメでしょうが! あんたも高校生なんだから、年長者としてちゃんと注意しなさい!!」
「わ、分かった分かった、だからそろそろ離してぇ!!」
いつもの親子漫才を繰り広げる二人だったけど、私はそれどころじゃない。
えっ、雫がゲーム好きなのは知ってたけど……蘭花と一緒に遊んでたの? 私も知らない内に?
「はあ、はあ、やっと解放された。全くもう、ママはすぐ手を上げるんだから……って、鈴音?」
息も絶え絶えの蘭花ちゃんの両肩に、私はそっと手を置く。そして……
「……なんでそのことを早く教えてくれなかったの!? 雫と一緒に遊べるなら、私だってゲームしたのにぃ!!」
全力で、前後に揺さぶった。
「な、なんでって、むしろ鈴音、知らなかったの? てっきり、知ってて忙しいからやってないものだとばかり……!」
「別にそういうんじゃないよ! ただ、いや、確かにバイトに勉強に家事にって色々と忙しかったけども、雫と一緒に遊べるなら時間くらい意地でも捻出する! だから私もやる、絶対やる!! だから教えて、なんてタイトル!? どうやったら私も遊べるの!?」
「分かった、教える、教えるから止めて~~!!」
必死に叫ぶ蘭花の声を聞いて、ようやく自分のやっていることに気付いた私は、パッと手を離し。
すっかり目を回した蘭花がパタリと倒れるのを見て、美森さんと二人、若干気まずい空気を味わうことになるのだった。
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