ドラゴンに続いて美女剣士が現れた
ぐんぐんとエリカの高度が上がっていく。
彼女とドラゴンの距離が縮まるほどに、イヤな汗が流れていった。
「すげー、変身魔法か!」
「まあ、そんなところです」
「あのお嬢ちゃんはドラゴンと戦って大丈夫なのか?」
「……おそらく、何とかなるかと」
レベル80なら相当無理が利くはずだが、実戦でどうなるかは未知数だった。
「こうしちゃいられねえ。巻き添えを食う前に馬車を移動させる」
「たしかにそうなりますよね」
アランの考えは現実的なものだと思えた。
このまま、立ち往生しているのは危険だ。
「お前さんはどうする?」
「ここで様子を見ます」
「……そうか、気をつけてな」
「……はい」
アランはいたわるような表情を見せた後、馬車と共に離れていった。
――それにしても、よりによってドラゴンとは。
教科書的にはレベル50に満たない者は戦いが成立せず、発見後は即座に逃げるべきだと考えられている(加えて最寄りの領主への目撃報告も推奨される)。
通常の武具では文字通りに強靭な鱗に刃が立たず、半端な魔法ではかすり傷さえ作れない。
天変地異と紙一重の危険な存在――それがドラゴンへの一般的な認識だった。
「とはいえ、エリカはレベルが80だからなー」
レベル50に到達した場合、魔法使いなら大魔法使いと呼ばれる部類に入る。
破壊力の高い魔法を駆使すれば、かろうじてドラゴンとやり合えるそうな。
上空を見守っていると、ついに両者が相まみえた。
ドラゴンはエリカを警戒しているように見えるものの、怯む素振りはなかった。
互いに睨み合ったのはわずかな間で、口火を切ったのはドラゴンだった。
巨大な口を開くと、そこから激しい炎が吹き出される。
エリカも負けじと、杖をかかげて巨大な火柱をぶつけて対抗した。
「……あ、熱い」
戦いの場からは離れていても、この場所まで炎の熱が届いてくる。
両者の力は拮抗しているようで、均衡が破られる様子はない。
相当強いことは分かっていたが、ドラゴンと互角だとは……。
魔法少女とは可愛らしさと実力を兼ね備えた存在なのか。
上空を見上げていると、ドラゴンのブレスが止んだ。
そして、間合いを取るように後ろに下がった。
エリカは反撃のチャンスと見たようで、今度は先に攻撃を仕掛けようとした。
彼女の前方から冷気と思われる凍てつく風が吹き出された。
これなら、たとえ相手がドラゴンでも効き目がありそうだ。
ドラゴンはわずかな間だけ、エリカの攻撃にさらされていたが、翼を強く振って冷たい風をかき消してしまった。
この世界の住人である僕でもドラゴンの出方が読めないのだから、別の世界からやってきたエリカには不可能だろう。
「……一体、どうなるんだ」
張り詰めた空気が辺りを覆いつくすような感覚があった。
両者は互いにけん制し合ったまま、次の一手を出しかねているように思われた。
「――あっ」
とここで、ドラゴンが意外な行動に出た。
プイッと巨体を翻して、この場から去って行った。
追撃を避けるためなのか、とても追いつけそうにない速さだった。
「エリカー! 無事でよかったね!」
「うんー! ちょっと怖かったけどね!」
ドラゴンを退けた魔法少女に呼びかけると、明るい声で返事が飛んできた。
エリカは流れるような動きで着地して、普段の姿に戻った。
「ドラゴンはこの世界では神と紙一重、それぐらいヤバい相手だったんだよ」
「ホント!? けっこうムチャしちゃったな、アハハッ」
一般人なら気絶しかねない状況だったにもかかわらず、エリカは屈託のない様子で笑った。
僕の前で笑顔を見せたのは初めてかもしれない。
「アランは避難したから、追いついて合流しよう」
「うんっ、分かった」
僕たちが歩き出そうとしたところで、ヒューッと涼やかな風が吹き抜けた。
「――君たち、この近くでドラゴンを見なかった?」
鈴の音を鳴らすような澄んだ美しい声が聞こえた。
声の主を確かめようと視線を向けると、思わず目を奪われるような美貌の持ち主が立っていた。
流れるような金色の長い髪、澄み渡る泉のようなエメラルドの瞳。
凛とした佇まいはどこか高貴な空気を感じさせる。
「……驚かせてしまったかな。私はセイラ……旅の剣士」
「こちらこそ、失礼しました。急に人が現れて驚いてしまって」
旅の剣士?
たしかに帯剣しているが、剣士にしては放つオーラに違和感がある。
セイラと名乗る剣士から敵意や殺気は感じない。
しかし、エリカの同行者として最低限の役目を果たさねば。
この程度の状況で先に剣を抜きたくはないが、意識を腰に携えた剣に向ける。
万が一の場合でも、エリカが魔法少女になれば何とかなるはずだ。
「……なぜ、剣を握ろうとする? 私はドラゴンの所在が知りたいだけ」
「ああー、ドラゴンならわたしが追い返したけど」
「なっ、君のような少女が……」
エリカの言葉を聞いて、セイラは何かを見定めるような視線を向けてきた。
「えっ、百合が趣味なの? わたしはそういうの興味ないんだけど」
「何の恨みもないが、その実力確かめさせてもらう」
セイラが剣を抜いた瞬間、力量の差がかけ離れているのを思い知らされた。
彼女の剣の腕はずば抜けているようだ。まともに戦って勝てるように思えない。
「ま、まずい。エリカ、彼女は危険だ」
「えっ、そうなの? 百合的な意味で?」
エリカが口にする百合という言葉の意味が分からない。
彼女は余裕があるのか、セイラを警戒していないように見えた。
「――参る」
セイラは目にも止まらぬ速さで突っこんできた。
「――ちょっと、エリカ!」
彼女が斬られてしまうと慌てかけたが、何も起きなかった。
そして、いつの間にか変身していた。
「……なっ、無傷だと」
エリカから間合いを取ったセイラは呆然としていた。
・ステータス紹介 その6
名前:セイラ・ユークリウッド
年齢:18才
職業:某国第三王女
レベル:60
HP:300 MP:120
筋力:150
耐久:130
俊敏:200
魔力:100
スキル:天賦の才を極限まで高めた剣技
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