転生魔法少女と辺境役人の異世界放浪記〜町長に職場を追い出されたので二人で旅に出ます〜
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
現れた転生者
「――転生者だ! うちの麦畑に出たぞ!」
昼下がりのイーストウッド町役場に大きな声が響いた。
事務作業を中断して顔を上げると、同じ町の農場主であるレイモンドさんが興奮した様子で立っていた。
すぐに対応すべきか迷っていると、近くの席にいる町長と目が合った。
「トーマス君、これで何人目かね?」
「四人目になると思います」
町長の問いに手短に答えた後、これまでの三人のことを思い返した。
一人目――レベル10。なぜ転生してきたのか分からないほど小粒だった。
二人目――レベル20。剣士で腕は立つらしいが、町に溶けこんでしまった。
三人目――レベル30。わりと期待したのに、気づくと木こりになっていた。
退屈な日常を変えてくれる何か。
それを転生者に期待していたものの、三人が三人とも平凡だった。
順調にいけば、四人目はレベル40かもしれないが、今度は町はずれの牧場で羊飼いになるとでも言い出しそうで複雑な心境だった。
「それじゃあ、私たちが仕事を片付けておくから、様子を見てきてくれるかい」
「……は、はい。行ってきます」
町長は丁寧な物言いだったが、いちいち確認に向かうのが面倒なのだろう。
他の職員たちも年齢がそこそこいっているので、疲れることはしたくないと考えているに違いなかった。
僕は机の上を簡単に整理すると、報告に来たレイモンドさんへ近づいた。
彼は短く頷いてから、先導するように足早に部屋を出た。
小走りのレイモンドさんに遅れないよう後に続く。
地面を蹴り上げながら、転生者に関することについて意識が向いた。
同じ大陸で他にも転生者が現れる地域がある。
場所によっては優れた人材が現れて、魔物の討伐などを行っている。
そのため、転生者とは世界を良くするために出現するものだと考えていた。
しかし、イーストウッドに現れる転生者は意欲が乏しく、野心的ではなかった。
そして、今回も同じような人物なら無駄足になるのでは?
そうならないことを祈りながら、町の中を足早に進んだ。
三回中三回とも転生者が出現した町外れの麦畑にたどり着いた。
荒くなった息を整えていると、レイモンドさんが声を上げて前方を指さした。
「ほら、あそこだ!」
黄金色の麦の穂に囲まれるようにして、見知らぬ少女が佇んでいた。
転生直後らしく、戸惑いの色が見て取れる表情で辺りを見回している。
「トーマス、女の転生者は初めてだろう」
「ええ、これまでの三人は全て男でした」
レイモンドさんの呼びかけに応じながら、少女の様子をじっと注視する。
派手な色の肌着のような服には、見たことのない文字が綴られている。
下半身には丈の短い衣服を履いていた。
僕が身につけているズボンに似ているが、あんなに丈の短いものを目にするは初めてだった。服装だけでなく、外見も特徴的に感じられた。
艶のある髪を後ろで束にまとめており、その色は初めて見る茶色だった。
きめ細かい白い肌、つぶらで大きな瞳に目を惹かれる。
「さっさと、うちの畑から出てくれ!」
少女の外見に意識を傾けていると、レイモンドさんが彼女に声をかけた。
ここは彼の畑なのだから、正当な主張だろう。
レイモンドさんの声は届いているはずだが、少女の反応は鈍かった。
ああっ、なんか言ってるわという感じで、あまり響いていないように見える。
純朴そうな外見とは裏腹に、ふてぶてしさを感じさせる態度だった。
役場の事務官という立場上、僕がこの場を収めなければならない。
どうすべきか決めあぐねていると、隣りから物言いたげな視線を感じた。
……レイモンドさんから無言の圧力が発せられているような。
何とかしてくれと言われても、僕にできることなど限られている。
ただ、ここへ放置するわけにもいかないのだから、話しかけてみるしかない。
その場から一歩踏み出して、正体不明の少女へと歩を進める。
彼女までの距離がある程度縮まったところで、慎重に足を止めた。
念のため、相手が丸腰なのかを再確認した。
よしっ、大丈夫だ。
彼女は何も持っていない。
「――あれっ、いつの間に」
ふと、彼女が杖のようなものを手にしていることに気づいた。
背筋が凍るような感覚がした直後、少女がまばゆい光に包まれた。
「おっ!? 何が起こったんだ」
その直後、彼女の容貌は一変していた。
束ねていたはずの髪は下ろされて、肩まで真っ直ぐ伸びた髪形になっていた。
驚くべきことに、彼女の髪は茶色から薄桃色に変化している。
髪の毛だけでなく、身につけていたものも変わっていた。
異国の水兵が纏っていそうな上着と襟元の大きな赤いリボン。
短めのズボンは丈の短いスカートに変化していた。
全体的に純白で、ところどころにアクセントのようにピンクの線が入っている。
――この少女はこれまでの転生者とは比べものにならない。
そう感じた直後、少女が杖を小さく掲げたように見えた。
イヤな予感がしたのも束の間、彼女の正面から僕の真横を火柱が通過した。
「あっ、熱い!?」
あまりの速度に身をよじることすらままならなかった。
火柱が通った跡には黒焦げの轍ができている。
まずい、レイモンドさんが……。
心配な気持ちで畑の主を確かめると、虚空を見つめたまま固まっていた。
――このままじゃ埒があかない。
レベル20程度の身で説得できるか分からないが、武装解除してもらわなければならない。
震える足を引きずりながら、会話のできる範囲まで近づく。
盗賊に話しかけるような心境で、恐る恐る口を開いた。
「僕たちはあなたに危害を加えるつもりはない。武器を収めて」
「……ここはどこ?」
不幸中の幸いなのか、その声には敵意が感じられなかった。
「ここは……」
彼女の質問にどう答えるべきか逡巡しかけたが、今まで通り簡潔に答えることにした。
「――ベルリンド公国の小都市イーストウッド」
「……えっ、どこそれ?」
もはやそれは、転生者たちの定番となりつつある反応だった。
・ステータス紹介 その1
名前:トーマス(平民のため家名なし)
年齢:22才
職業:イーストウッド町役場の事務官
レベル:20
HP:150 MP:20
筋力:70
耐久:40
俊敏:50
魔力:20
スキル:剣聖仕込みの剣技
※一年前に測定のため、多少の誤差あり
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