烈風真田幸村戦記(9巻・ケリー編)3-3
*
大阪城の大広間でのことである。
「旧武将方は完敗であったな。向後は、若者の意見を素直に聞き入れよ」
「二十一師団対、二十一師団の戦であった。その結果があからさまに出ました」
ケリーが皇帝に続いて言った。
旧武将たちは、誰も顔を上げられなかった。
「なぜ敗北したしたか、理由が判りましたか?」
ケリーが訊いた。
旧武将は誰も答えられなかった。
「理由を言いましょう。情報です。偽の情報を掴まされたり、現状は全て若手武将側に握られていたのですよ。手のひらで踊らされていたのです。これが外国との戦であったら大変なことです。心して今回の敗北を噛みしめることです」
ケリーが諭すように言った。
一切、反論は出来なかった。
「今回の戦は、皇帝が若手と旧武将の差を明確に理解させるために行なったのです。かなり真剣な演習ということです。お陰で、多少の怪我人は出ましたが、戦死は一人もでませんでした。何よりのことです。これを機会に、大幅な人事の刷新があります。一切の苦情も文句も受け付けません」
「・・・」
ケリーの言葉に、誰も言葉を差し挟めなかった。
これが皇帝の狙いだったのである。
「今後の人事は、皇帝陛下のご意向によるものです。どうか承知をしてください。どう言う人事に成るかは、後日発表します」
とケリーが事務的に説明した。
*
助村皇帝は、大阪城に本部を置いて、これまでと同様の政治、軍事、経済を纏めて行っていた。
広間には、先の演習のような戦いは、
「すべて水に流せよ」
という皇帝の言葉で、若手の武将も旧武将も広間に参集させられた。
そこで、ケリーに皇帝が、
「打ち合わせの通りに次第を進行してくれ」
といって、ケリーが威儀を正して平伏して、
「はいっ!」
と答えてから、一同の方に体を向き変えて、
「ただいま、皇帝陛下からのお言葉がありましたように、今後の鳳国の体制について、発表をさせていただきます」
と、厳かに口を開いた。
その場の者たちは粛然として、衣擦れの音も立てなかった。
ケリーは、鳳国の名実ともに宰相であった。
ケリー以上に鳳国の内情に通じている者はいなかったのである。
そのケリーを後見するように、真田信幸が長老として、相談役で列席をしていた。
皇帝の二人の弟も、その場に出席していた。
これから発表されることで、鳳国の命運が決定していくといっても過言ではなかった。
それだけに、緊張するなという方が無理というものであった。
「皇帝陛下のお二人の弟君については、これまで通り副皇帝陛下ということになります。他にもお役がございますが、それは後刻発表させていただきます。まず宰相についてでありますが、陛下のお言葉で、不肖、私、真田ケリーが預かるようにということでありましたので、ふつつかではありますがその任に当たらせていただきます。不都合であると思われる方が居られましたら、この場でその理由等々をお述べ頂きたいと思います」
誰も反対意見を述べる者はなかった。
「賛成の方は挙手をお願いいたします」
全員が挙手をした。
「ありがとうございます。粉骨砕身、鳳国のために尽くしていく所存でございます。今後も、至らぬ点は、皆様からのご指導を頂戴して、なおなお鳳国が発展していくために、尽力いたしたいと思っております。では次に、我鳳国の領地を裁量してゆく総統と最良地の名を発表いたします。数多くある鳳国の領地の中で、尤も多くの火種をえている領地で、ロシア、カザフスタン、中央アジア、ウラル山脈で、真田十兵衞公が総統いたして発展させてきたエリアを宮本ジョニー冬丸にお願いをいたします」
「はっ!・・・身命を賭して努力いたします」
「次に、西シベリア、中央シベリア、東シベリア、モンゴル、アラスカ、南米もあるのですが、今回は、南米は外して考えたいと思います。ここの総統は、宮本アダム武吉にお願いします」
「謹んで・・・」
と、頭を下げた。
「次に、カナダ全域を宮本マッシー村智に総統をお任せします」
「はっ!」
と緊張して答えた。
「次に、北アメリカ全土を、今迄通り大道寺孫三郎に総統をお願いします」
「はっ!・・・謹んで」
「次は、メキシコと中南米全域を綿貫数馬に総統をお願いします」
「はいっ!」
「次に南米ですが、シベリア十人衆筆頭の高橋是高に総統を委ねます。武蔵公、存命のときに代官をやっていた事を買いました」
「ありがとうございます」
「次は、豪州全域を長宗我部盛親に総統を頼みます」
「え?・・・せ、拙者に・・・あ、ありがとうございます」
「くれぐれも先の経験を忘れないように。それと、情報の仕事も兼務して貰います」
「はっ!」
と、頭を畳みに擦りつけた。
「次に、南洋方面ですが、ここは鳳国発祥の地であり、鳳凰城のあるところです。したがって、副皇帝の真田幸大様に総統を兼任して頂きます」
「相判った」
「次が、これも至って難しいところです。武龍全域です。ここは、シベリア十二神将筆頭の服部和正に総統をお願いします。表にでるのが嫌いなのは承知しておりますが」
「承知仕った」
「後はアフリカ全土ですが、これは私が兼務いたします。開発すべき地が沢山残っています。私と言うよりも、本部直轄ということです。さらに日本、台湾、琉球も本部直轄ということにいたします」
と、総統の任地を振り分けた。
「なお、鳳国にとって大変に重要なシベリアを始めとする、鳳国、研究学園都市の園長は副皇帝の助幸様にお願いをしたいと思っております」
「そこは、今や儂以外の者にはできんぞ。相判った」
ということで、今回は、領地と総統の任命だけで、会議を閉じた。
人事面で驚くことはなかったが、服部和正と長宗我部盛親は驚く人事であった。
あとは予想通り、若手が大幅に起用された。
その中で、大道寺孫三郎の存在は、一際光彩を放った。
古いだけが取り柄の者は一切起用されなかった。
このことは、先の戦で証明されているので、一切不平はでなかった。
助村皇帝の戦略が功を奏していた。
新生鳳国は、助村皇帝の思った通りの形になった。
それはケリーの望んでいる形でもあったのである。
助村皇帝とケリー宰相のコンビは、絶妙に息が合っていた。
それを長老の信幸が暖かく見守っていた。
(この国をどのように運転していくのか、冥土の土産に、確りと見て置くか。もう儂には、何も出来んがな。床の間の置物ぐらいにはなれるだろう・・・)
と、思っていた。
この先、二人が喫緊に決めなければならない事があった。
信幸にも這入って貰って、決定したければ成らないのは、「軍事面の人事」と、国内の「内閣面」があった。
さらに重要なのは、「経済閣僚」と「外務閣僚」であった。
「何れも、総統と兼任ということになるでしょう」
ケリーの言葉に、
「各総統は、あくまでも領土の冠である。現地には、副総統以下を入れて、確りと統治をして貰い、総統は本部詰めとなる。副総統以下を育てて行くことで、若手が確りと育って行くことになる」
と助村皇帝が、岩よりも重い言葉で、呟くように漏らした。
ケリーは無言で頷いた。
これも軽い頷きとは言えなかった。
が、いきなり本題に斬り込んだ。
「皇帝・・・」
「む・・・」
場所は、広間から小さな、書院に移っていた。
やがて夏も終わろうかと言う季節であった。
蚊の羽音が微かに唸った。
皇帝は廊下に控えている小姓に、
「この蚊を何とかしてくれぬか」
「はっ」
と蚊取り線香を用意した。
「もう大戦があるとは考えられませんが、鳳国の圧倒的な軍事力の前では、他国が敢えて、手を出してくるとは考えられません。国力を他国に見せつけるのには、軍事以外にはありません。それ故に、軍事の手を緩める訳にはまいりません。軍事は、その国の世界に於ける地位なのです。その象徴なのです」
「充分に承知をしている」
「恐れ入ります。いわでものことでございました」
「構わぬ。ケリーとは、何度も共に戦場(にわ)立っている仲ではないか」
「はい。それで、空母打撃群、十群。強襲揚陸艦打撃群。これに戦艦打撃群を入れまして、今後は、この打撃群単位、軍編成をいていくことではないでしょうか」
「内陸の国もあるぞ」
「はい。それには私も悩みましたが、航空機打撃群単位考えてはと愚考いたしました」
「なるほど。シベリアには海がない。あっても北極海だ」
「したがって、空軍基地を沢山作らせました。空軍基地に不可欠なものは、先ず滑走路、次には整備工場です。更に、格納庫、兵舎、倉庫群、燃料庫で、これはガソリンですから、巨大なタンクを造りそれを地下に埋設します。ガソリンは引火しやすく、火災に最も注意を払うべき所ですので。その様にします。そして、滑走路が見渡せる場所に離発着のできる司令塔が必要です。そして、基地を守る師団級の兵です。それの宿舎」
「ケリーよ。良く研究したの」
「いえ、これらはすべて、助幸様の受け売りです。空軍、総司令官は、助幸様にお頼みしてください」
「判った。して編成は?」
「はい。基準になる編成は、爆撃十機。戦闘機三十機です。爆撃機は巨大で、敵の地上に爆弾を雨か霰の勢いで爆撃します。対して戦闘機は小型ですから。敵基地の地上舞い降りて、ガトリング銃で襲い、爆弾を投下してゆきます。これの組合わせで、殆どの敵は白旗を揚げるでしょう。そこに地上軍、陸軍ですが、機械化部隊を投入します。さらに、歩兵で機関銃、小銃で、相当してゆきます。これが、航空打撃群です。これが内陸の国への攻撃です。爆撃機十機。戦闘機三十機に、陸軍の機械化部隊、騎馬、歩兵などで、三師団から五師団で一航空打撃群です。これを二十航空打撃群を早急に造ります。この四打撃群が鳳国の主力になります。すでに、航空兵学校を卒業にている者が打撃群の二倍はいます」
「手回しの良いことだな」
「恐れ入ります」
「空母打撃群が十人。強襲揚陸艦群十群。戦艦打撃群が十人。航空打撃群が二十人。都合五十人の群長が必要になる」
「群長は冠です。旧武将を割り当てて、副長二人を若手にして、実質的には副長が指揮を執ることになるでしょう。これに参謀総長をつけます。副長二人と参謀総長と、三人で回してゆきますが、作戦参謀室を造り、ここに若手を五人入れます。それと、情報将校と通信将校です。情報本部長は長宗我部盛親です。情報も暗殺も、彼の指揮下に這入ります。盛親には豪州の総統職を与えました。安心して仕事に励むでしょう。豪州は大陸という島です。秘密を保持するのには格好です」
「軍事の目鼻は着いた。後は任命者の顔触れだけだな」
「はい」
「それも予定をつけていることだろう」
「それは陛下とご相談の上でございます」
「儂は良い宰相を得た」
「恐れ入ります。あと、内閣の顔触れでございますが」
「武吉には、経済方面と外交方面の両方をやってもらう。すでに実績がある。それに、文官の才能は、彼を置いて他にない」
「承知いたしました」
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