第二章 5
五
「だめじゃ。豊臣の不満分子を集めた、徳川高康が、甲斐の韮崎で、これと言った痛手も与えられずに、討たれた。糸魚川に集合して、高康の軍と合流し、関東から、譜代が、相模から。甲斐を侵略して、別の組は、北関東で武力抗争を起す。これには、柏崎から、択捉にいた戦力を使って、北関東で挟撃と多面作戦で、兵を一気に動かした。次のヌルハチからの後詰の兵も、儂の三百の大関船で、清津(チョンジン)出発した。しかし、これを、幸村の海軍に発見されて、三百隻すべてを沈められた。駄目なのは、譜代の兵たちだ、集まるだけ集まっても、四十万石の米の分配が来ないとか、そんな話ばかりだ。譜代を当てにした、儂が甘かった。誰もだれも腰を上げようとしない。米が先だというばかり、もう、武士でも何でもないわ・・・」
「これだけのことをやった以上豊臣も黙っているとは思えません」
松山城の広間で、本多正純がいった。
「その報復が恐ろしい・・・」
家康が本気で震えた。
「儂は、一度は天下を取った男ぞ。それだけに、いま、天下を取ろうとしている男、幸村の考えている、報復が恐ろしいのだ」
「いま、幸村は、日本統一の上で、日本の近代国家への変革を考えています。幸村の軍事力は恐らく、世界一でしょう。軍事の基本構想が違うのです。陸軍。海軍。海兵隊を戦闘三軍と考えているのでしょう。陸軍の中には、陸軍内海軍と海軍には、海軍内陸軍があってその境界線は曖昧にしています。三軍であって一軍であると言う考え方なのだと思います。この三軍を支援するのが、日常的な情報部隊と、臨戦時における特殊部隊なのです。これは、岐阜城の時に遺憾なく発揮されました。旧稲葉山城の峻嶮な、切り立った崖は、天然の要塞で登ることは、不可能と思われてきました。しかし、彼らはたった一人が、ロープと言っておりますが、崖に楔を打ち込みながら、それに、ロープを絡みつけて、上り切ってしまいます。上ったものは、鉤を大木や、岩などに打ち付けて、崖の下に漁師が使う網のようなもの投げ降ろします。鎖と、ロープで出来ています。これを勾配を緩く張っていきます。こうすると、多くの者が一度に大勢登っていけます。しかも、匍匐前進の形で、銃剣を手に登っていけるのです。網を切ろうとした者は狙撃されて崖下に転落します。この方法で、さらに、多くの網を崖の全面に張られて、占拠されたのです。これは、水軍の方法で、小舟から、大きな船に乗り移る方法です」
本多正純が説明した。
「忍者か?」
家康が、訊いた。
「違います。一般兵士が、特殊部隊の訓練を受けているのです。特殊部隊の資格を取得すると月給が倍以上になります。たとえば、こたびの韮崎での戦いでは、何百頭という犬が使われました。一本道で、両側山の斜面で樹木が繁茂しています。ここに兵が廻り込んで隊の側面を衝いてくるだろうと考えるのは、平凡な発想です。しかし、ここに、獰猛な秋田犬、土佐犬、あるいは、南蛮の軍用犬のシェパード、ドーベルマンを上らせるのです、これは犬の方が有利です。木の蔭に隠れていたものは犬に追い立てられます。木蔭が飛び出ると下で銃を構えている狙撃隊に確実に撃たれます。これで、両側の斜面は安心で、逆に敵兵が占拠して撃ち下ろし出来ます。そこに、移動用の大砲、迫撃砲、ガトリング砲、ガトリング銃と多彩な火器で、大量に爆撃されます。本陣も爆撃されます。富士川を遡った海兵隊の大砲、迫撃砲、ガトリング砲、ガトリング銃も砲撃してきます。河川を渡河するのは、実に簡単で、足船と言う小船を横に並べていくのです、舷側に繋げられる金具がついているのです。この上に板を三枚並べていきます。勿論、ガタガタしないように、雄雌の金具が付いているので、渡河橋が出来てしまいまいます。複数の渡河橋が見る間に出来てしまいます。施設部隊の仕事で、日常的に訓練しているのです。地味な後方支援や、兵站がしっかりしているのです。各母船のなかには、炊事部隊がいて、時間になると、温かい握り飯に、零れない容器に味噌汁や、果物までついて、兵士に配られます。お握りを食べながら、狙撃してくるのです。散々、砲撃した後で、先陣を切ってくるのは、何だと思いますか、大御所様」
「な、なんだ?・・・」
「鎧を来た虎が二十頭・・・」
「予想出来ますか?」
「そんな莫迦な!」
「当然、先陣は総崩れです。虎が呼び返されて、戦車、戦闘装甲車、装甲車の群れです。間に騎馬隊がいて、鉄砲を撃ちかけてきます。総崩れで、逃げ出す兵が続出です。元々が、豊臣に蹴散らされた、大名の残党の不満分子を徴募した、寄せ集めの軍です。崩れたら、崩壊は、早いです。しかし、街道から、間道まで、下諏訪城、小諸城、佐久城、高遠城の兵が待ちかまえています。総取りでしょうでな」
「・・・」
「高康様も捕えられた」
「どうなった?」
「斬れ! の一言だそうです」
「う・・・可哀想に」
「と言うようにしたのは、大御所様です」
「・・・」
「高台院も泣いておられるでしょうな」
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