第七章 3

   三


 そのたびに馬廻り役の者たちが、敏捷に動きまわった。

伝令に小早船、足船に伝えていった。

 各隊には、半蔵党の、伊賀、甲賀が活躍した。

結局、服部半蔵の力は、本多父子の言う通りに、落ちていた。

それを見抜いた、幸村は、猿飛佐助と、霧隠才蔵を呼んで、甲賀は甲賀徳兵衛に、伊賀は、伊賀隼人に束ねさせて、それを、甲賀を佐助の、伊賀は才蔵の麾下に、くみいれたのであった。

半蔵の子飼いだけは、半蔵の所に残して、要人暗殺隊に改組していた。

 半蔵も、その方が動きよいと、幸村に感謝して、当分は、幸村、秀頼、大助、かねの方、鞠姫、淀の警固に当たらせていた。

こうした時でも、真田忍軍や、真田十人組とは、別に、陰から、警固の任っているのであった。

 各部隊には、そうした、徳川の事情の明るい、伊賀党、甲賀党が、江戸市中の案内役にたった。

 硝石蔵は、伊賀頭の案内で、すぐに発見されて蔵中の、硝石を船に運び、そのまま外海に運びだした。

火気厳禁であった。

 江戸市中の掃討は、捕虜にするか、撃ち殺すかであった。

降伏の合図をして来る者は武器を捨てさせて、捕虜にした。

その武器は、戦利品の車に抛り込まれた。

捕虜は、その場で、民家に入り、鎧、兜から、衣類は褌にいたるまで、脱がされて、肛門の中まで、警棒を突き入れられて、身体検査をされた。

戦争である。

意図的に捕虜になって、大将を斃すなとどいうことは十分にあることであった。

男女の別はない。

女性は、肛門と、性器の両方を調べられた。

事実、女性の肛門から赤い薬包が出てきたことがあった。

女性に服用させると、悶絶して絶命した。

猛毒だったのである。

男性の肛門からは畳針を綿と油紙に巻いたものが出てきたことがあったし、火薬の棒(ダイナマイト)が出てきたこともあった。

現代の各地のテロの戦場でも、捕虜の身体検査としては、日常的に行なわれている方法であった。

 戦艦五隻は、湾の外に出た。

本陣船も、湾の外に出ることにした。

現在の、浦賀水道をでると、相模湾であり、その先は太平洋であった。

戦利品が満載になった、船の順に、三、四隻が艦隊になって、伊勢湾の津まで一気に走った。津には人馬が待っていて、荷車に馬を繋ぐと、大和郡山城に疾走していった。

今までは、九度山が、仕分けの場所になっていたのだが、狭くなってしまったので、大和郡山城にしたのであった。

大和郡山は、数倍の規模に拡張改修させて、外堀を掘り廻して、水を張り十丈の土塁と城壁が結廻されて、その後ろは、十五間の総矢倉になっていた。

 本城の他に、四つの城塞と、四つの隠し砦が出来ていた。

それぞれの城塞や砦との間には迷路のような地下道が走っていた。

幸村の新しい基地の一つであった。

「日本橋、京橋に兵がいるのなら、その隣は、金座、銀座、銭座だろう」

 幸村がいった。

孫一が、

「なるほど・・・特別の隊を出しますか?」

 と訊いた。

「材料、鋳造の金型、完成品に刻す、刻印を、道具、職人ごと、ものも言わず攫って、そのまま船に乗せろ。炉は無理かな。材料、完成品金座で一隻、銀座で一隻、銭座で一隻に分けろ。そのまま、大阪城に連れて行け! 筧十蔵、金座。根津甚八、銀座。海野六郎、銭座。半蔵党から、三人。案内に立て!」

「承知!」

 と言う言葉が、梁の上から落ち出来た。

「三隻に、戦艦小型三隻を付けて、大阪城まで走らせろ。船が出たら戻ってこい。面倒だ、真田忍軍を三隊連れて行け。隣の船にいるよ」

 三組の姿が消えた。

 この采配は、大助には、振れない。

江戸城が、紅蓮の炎を上げて燃えつ続けていた。

奇妙なことに江戸城だけが燃えていた。

周囲の、御三家、御三卿や、老中の家は、濠のせいで燃えてはいないのであった。

 当然、そうした屋敷にも掃討、掃除隊が入って、女性や、子供までも攫ってきていた。ローラー作戦で、江戸中を掃討していった。

「伝令! 後藤又兵衛と薄田隼人に後は、任せると伝えろ。もういいだろう・・・しかし、弾丸六発であれか・・・飛んでもない大砲だというのが判ったよ。目的物だけを、見事に倒すとはな」

「三の丸が残ってますが」

「中は火炎地獄だよ」

 やがて、筧、根津、海野が戻ってきて、

「終わりました。幸い職人も全員いました。全員、三隻に乗せて出航しました。道具も、金型、刻印、材料、完成品までつみこみました」

 と新品の小判、銀の粒、銭を幸村に渡した。

「む。ご苦労だった・・・ところで、蔵前の米蔵は」

「すでに空です。しかし、二十万石もなかったようです」

 才蔵が答えた。

「残りの米はどこだ?・・・江戸城の中か?」


         *


 残りの米十八万石を背中に積み上げて、

「ふん・・・よくも燃やしてくれる。儂の城だと思っての・・・」

 江戸城から、かなり離れだ、武蔵(地名)松山(現・東松山)城の天守閣から、燃える江戸城を見つめている男がいた。

他でもない、徳川家康であった。

「儂の策が当たったな。儂の、主力は、江戸にはおらぬ。大久保忠世、本多正信、正純、鳥居元忠高力清長、悔しくないか?・・・」

「悔しいです」

 松山城の城主、松平家広がいって、涙を流した。

諸将や兵たちも同じ思いであった。

「米はある。一石五両だとよ。黙って買ってきたがな。もう、清津(チョンジン)を、出発しているはずだ。大関船で、百五十隻。さらに幸村は、自分では現地行っていないのだろうよ。択捉島の単冠(ひとかっぷ)湾に三百隻の大関船が、国後島との間を抜けて、オホーツク海に出て、宗谷海峡から日本海に出て、柏崎に入る。清津の一隊は、糸魚川に入って千国街道を・・・柏崎から、三国街道を、厩橋までくる。幸村。今度はお前の、城があのように、紅蓮の炎で燃える番だわ」

 家康の双眸の奥が、江戸城の炎よりも赤く燃え上がっていた。


第一巻 完 第二巻に続く

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