第58話 魔王決戦1

 大気を裂くような雄叫びとともに、魔王の全身が物凄い量の魔法力で覆われていくのが見てわかる。


 魔王は飛び上がり、上空から拳がもの凄い勢いで僕に襲いかかって来た。


 紙一重のところで後ろに飛び躱す。

 魔王が撃ち抜いた床が轟音と共に粉々に砕け、擂鉢状の大穴が開いた。


 くっ、やるしかない!

 僕は体勢を立て直して剣を抜き、そのまま魔王へと向かって行く。


 だが、魔王は魔法力を込めた左手で僕の剣を軽々と払いのけ、右の拳を僕の腹に叩き込んできた。


「ぐはあっっ……」


 僕はそのまま吹っ飛ばされて壁へと叩きつけられた。

 全身に痛烈な痛みが走り、その場に倒れる。

 なんてパワーとスピードだ。


 いや、覚悟はしていたけれど、半端な攻撃じゃ魔王には通用しそうにない。

 僕は立ち上がり、もう一度、魔王に向かって剣を構える。


「ユウ! 大丈夫?」


 エリスが僕のそばに駆け寄ってきて、僕の横に並んで剣を構えた。


「男と男の勝負だ! エリス! お前は下がっていろ!」


「そうだよエリス。僕がやらなきゃ意味がないんだ! 下がってて」


 そうなんだ。

 僕が魔王に力を見せなければいけないんだ。

 エリスの力を借りるわけにはいかない。

 それが僕の覚悟だった。


「そんなこと言ったって、もうボロボロじゃない! 二人で戦うって約束したでしょう!」


 エリスの声を聞くも、僕はそのまま一人で魔王へと向かって行く。


「うおおおおおおおおおおおお!!」


 僕は自分の持てる魔法力を全開にして魔王に向かって突進して行った。

 ドラゴンを倒し、ルークさんを追い詰めたあの技だ。


「ふん! 確かになかなかのスピードとパワーだが、そんな一直線の攻撃、いなすのは造作もない」


 僕の攻撃はヒラリと躱され、その勢いのまま魔王の拳が僕の背中を打ち抜く。

 グッ……。

 身体中が痺れるような激痛が走る。


「どうした、これでお終いか? 情け無いヤツめ!」


「ユウ! だから一人じゃ無理だって言ってるじゃない! 意地を張ってないで一緒に戦いましょう!」


「何を言っている! 二人がかりでも話にならんわ! どうだ、エリス。お前がこちらの世界に残ると約束するのであれば、小僧を元の世界に戻してやってもいいんだぞ?」


「それは…………」


 エリスは俯く。


「ダメだエリス! 二人で帰るって約束したじゃないか!」


「ほう、立ち上がってくるか」


「うあああああああああああああ!」


 僕はもう一度、全魔法力を込めて魔王へと突撃をした。


「馬鹿の一つ覚えが! さっきまでの勢いがないぞ!」


 僕の攻撃はまた躱され、横から回し蹴りをまともに喰らって吹っ飛ばされた。

 そのまま石柱を薙ぎ倒して壁に激突し、弾かれて下へと崩れるように倒れ落ちた。


「ユウ! 少しじっとしてて!」


 エリスが僕の元に駆け寄り回復魔法をかける。


「だめ! 私の回復魔法じゃ全然追いつかない!」


「回復を待ってやるほど甘くはないぞ!」


 魔王の声が聞こえてくる。


 その時だった。

 無数の光の矢が五月雨のように魔王へ向かって降り注いだ。


「な!? なんだこの矢は!?」


「私が時間を稼ぎます! 今のうちに回復を!」


「ルーシア!?」


 エリスが声を上げる。


「姫さま! お兄ちゃんを治すのはピロロのお仕事だよ! かわって!」


「ピロロまで!」


 ルーシアさんとピロロが援護に来てくれた……。

 すると、魔王も驚きを隠せない様子でこう叫んだ。


「何故お前らがここにいる! この魔王を裏切るつもりか!?」


「私は勇者パーティのルーシアです! 裏切ってなんかいません!」


「ルーシアどうして……?」


 エリスもルーシアさんに向かってそう問いかけた。


「……楽しかったんです。私は今まで毎日同じことの繰り返しでただ漫然と仕事をこなして、部屋に帰ったら寝て、朝起きたら仕事場に行って……。そんな生活でした。

それが、お二人に出会って、一緒に旅をして、笑ったり泣いたりしたこともありましたけど、この旅は本当に楽しかったんです。お二人の事が大好きになってしまったんです。幸せになって欲しい。お二人の幸せが壊されるのをを黙って見ているなんてできない。仲間だから。魔王軍としてではなく、勇者パーティの一員として、仲間として戦います!」


「愚か者め! 一時の感情に流されて行動するとは。後悔する事になるぞ!」


「たとえクビになっても構いません! ここで戦わなかったら一生後悔しますから!」


「ふん! お前では時間稼ぎにもならんわ!」


「あああああああああああっ」


 魔王がかざした右手から放たれた衝撃波で、ルーシアさんは後方へと弾き飛ばされてしまった。


「やっぱり僕が行くしかない!」


「まだダメだよ! お兄ちゃん!」


 ピロロの静止を振り切って僕が立ち上がろうとしているうちに、魔王が身体に纏っている魔法力がさらに強まっていくのが見えた。


 何かが来る! 

 このままじゃ……。


「覚悟はいいか小僧! 喰らえい!!」


 魔王の右腕から放たれたエネルギー波が向かってくる。


 もうダメだ。そう思った。

 その時だった。

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