第2話
(――なにか……)
いつもと違う様子が村の方からしてきていた。柰雲は早足に村へ戻る。すると、畑の合間を歩いていた村人たち数人に聲をかけられた。
「柰雲
「わかった。ありがとう。急ぐよ」
柰雲は
「柰雲さまは可哀想じゃ…年々、お顔に
老爺達は口々にそう言いながら、仕事に戻っていく。柰雲は村の中を抜けて大王である父の屋敷に帰った。
村の中でも一際大きく、立派な
「柰雲
「さっき聞いたから戻った。ありがとう」
差し出された足を拭く桶と布を受け取り、すぐさま汚れを淸めると屋敷の中心へ歩いた。母屋にはすでに領主である父母、兄妹、親族が集まっている。
入室した柰雲に、中にいた皆が一斉に視線を向けてくる。兄弟たちの迷惑そうな空気を無視して柰雲が一礼すると、上座に坐る大王……父親が頷いた。
「全員揃ったようだ――」
柰雲の父は立派な髭が生えた口元を動かす。
歳を重ねているが、眼光は野生の鷹を思わせる鋭さがあった。父親の隣には村の
「先ほど、我が一族の元に
父親は穏やかな聲で全員を見渡した。上座に坐っている伝聞師は、よく陽に焼けた肌にやや茶色みがかった瞳で、勢ぞろいした一族全員を見つめた。
「ぜひ夜の宴では、この大陸で起こっていることを彼に聞こう。準備を怠るなよ」
長兄の
「お前ももう十七なのだから、早く跡取りの儀を受けろ。本来はお前がやらなくてはならないのに……」
それに柰雲は視線を泳がせてから、頭を下げた。
「わたしには向いておりません。
「できるなら俺だってそうする。村人たちのほとんどが賛成だが、大巫女さまが首を縦に振らぬ。彼女はなにを考えているのやら……こんなぐうたらに、村の長が務まるものか。大巫女さまがいるうちはまだお前は擁護されるが、亡くなれば私が位を譲り受けるからな」
「どうぞ、お好きになさってください」
柰雲はさらに深く頭を下げてから口を開いた。
「鶏を持ってきます」
「ああ。頼んだ」
みんなが困った顔で柰雲の去って行く後ろ姿を見送る中、大巫女だけがゆっくりと穏やかな瞳で彼を見つめていた。
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