第74話 気付けなかった。
「ごめんねいきなり、失礼するよ!」
俺は引きずっていた方のすずちゃんの足を持ち上げる。
「ひゃっ……………!?か、かかか海斗さん!?何を!?」
「ごめん。こうでもしなきゃ、すずちゃんは止まってくれなかったから。」
俺はコンビニの袋から氷を取り出すと、自分のパーカーを脱ぎ、氷の上に乗せる。
「な、な何してるんですか!?海斗さんの大切なパーカーが!?」
俺はすずちゃんの言葉に耳を傾ける事もせず、俺の膝に氷を乗せ、更にその氷の上にすずちゃんのふくらはぎ辺りが乗るようにした。
「サンダル脱がすよ?……よっと……。」
やっぱり……。どこかで捻挫した上に靴擦れまで起きてる。
履きなれていない靴、そして捻挫を庇いながら歩いた結果、こうなってしまったわけだ。
「消毒薬あるから、消毒するよ!あとは、絆創膏をしっかり貼るからね!」
俺は消毒と絆創膏で手際よく処置していく。
昔は喧嘩に明け暮れていた自分にしていた事なのに……。
「捻挫はあまり良くないな。この足、いつどうやって捻ったの?」
「か、海斗さんと水族館の中を歩いている時に、はしゃいでたら……。」
「何で言ってくれなかったの!?」
俺はついつい口調が荒くなってしまう。言ってくれなかったすずちゃんにもだが、中々気付けなかった自分に苛立ってしまっていた。
「ご、ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……。」
すずちゃんは泣きじゃくりながら、ひたすらに謝っていた。
「ごめんなさい、すずちゃん。怒鳴ったりして……。伊崎さん、近くにいますよね。」
俺の言葉とほぼ同時に伊崎さんは何処からともなく現れる。
「ここに。」
「俺よりも伊崎さんの方が多分、ずっとか早いはず。すずちゃんの捻挫を診てもらって下さい。以前も足を痛めています。何かあってからでは遅い。」
「か、海斗……さん?わ、私は、私は大丈夫です!あ、歩けます!」
必死に俺にすがってくるすずちゃんに目を合わせる事は出来なかった。
「すずお嬢様、お車までお運び致します!」
嫌がるすずちゃんを背負うと、伊崎さんはあっという間に、すずちゃんと共に消えてしまった。
ーー俺の前から。
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