第35話 すずちゃん。

「この部屋に……お姉様はおられます。スマホの中身を見られた事が相当ショックだったらしく……。」

これまでの経緯(いきさつ)を奏ちゃんが説明してくれる。

目の前には何やら重厚感のあるドアが立ちはだかっていた。


「では、私は下の階にいますね。お姉様の事、宜しくお願いします。」

そう言うと、奏ちゃんは下の階に行ってしまった。

ーーーー?


「す、すずちゃん!海斗だけど、開けてくれるかな……。話がしたいんだ!」

ドア越しに俺はすずちゃんに呼び掛ける。

返事は無しか……。

何度か呼び掛けて見たが、反応は一切無かった……。


ーーごめん、すずちゃん……。


『お姉様の事、宜しくお願いします。』

奏ちゃんの言葉が脳裏に響き渡る。

ドアノブに手を掛け、ノブを回して押してみるが、鍵がかかっている。

……こうなりゃ、やむなし!

 

「どらあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ーードォォォン!!

俺は全力でドアに体当りするが、やはり豪邸のドアは分厚く、そう簡単に開きそうにない。

「らあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ーードォォォン!!

ーードォォォン!!

ーーーー。


「何度やっても開かねぇ……。さすがに……。」

俺はチラッと自分の左肩を見る。

ドアの装飾の凹凸(おうとつ)に何度も全力で肩を打ち付けている為、どうやら出血したらしい。

服の上に血が滲んでくる。


「すずちゃん、頼む……話を聞いてくれ。話さなきゃならない事があるんだ。」

俺は再度ドア越しに、すずちゃんに話し掛ける。


ーーガチャッ。


鍵が開く音がし、ドアが少し開く。

「海斗……先輩。って、血が……!ごめんなさい、私が意地張らずにすぐにドアを開けていたら、こんな事には……!本当にごめんなさい!」

すずちゃんは、ドアを思い切り開けると、すぐに俺の肩を止血しようとする。


「こんなん、大した事ないよ。それよりも、話を聞いて欲しい……。」

「でも、でも、止血しないと……!」

「すずちゃん!大切な話なんだ……!話したら止血するから。」

「…………絶対にですからね!」

珍しくすずちゃんは強気でらっしゃる。

こんな傷、大した事無いのに……。


ーーーー。


「この部屋は……?」

俺は部屋に入るなり、他の部屋の雰囲気と、どこか違和感を感じていた。


暗くて、家具も何も無い……。照明も付いていないし、何より長い間使われていないのか、埃っぽい。

「この部屋は、私しか出入りしないのでこんな感じなんです。」

すずちゃんは、このくらい部屋の中で何を考えていたのだろうか……。


「すずちゃん、ごめんなさい!!」

「ど、どど、どうしたんですか!?いきなり!」

「俺、すずちゃん達の寝室で寝ていた時、スマホがテーブルに置いてあるのに気付いて、中身を見ようとしちゃったんだ……。」

「…………。」

「すぐに浜辺が来て、寝てるフリをしちゃったんだけど、あの時、俺が寝たフリして無ければ……。結果的には見ていないけど、浜辺が来ていなければ、きっと俺も見ていた。」

あの時こうしていれば、こうだったら……なんて、何の意味も持たないのに……。


「すずちゃん、ごめんなさい!!」

「…………。」

すずちゃんは何も言わず、只々立っていた。

「この部屋は……何か嫌な事や悲しい事があった時に、よく閉じこもっていた部屋です。 この部屋で、唯一あるあの天窓に月が映り込むのを見ていると、不思議と嫌な事を忘れてしまうんです……。」

すずちゃんは、部屋に唯一ある窓、天窓を指差しながらそう語る。



「海斗先輩はスマホの中、見たいですか?……嘘を付かずに、正直な気持ちを聞かせて下さい。」

すずちゃんはじっと俺の目を見つめてくる。

僅かな月明かりに照らされたすずちゃんの瞳はスカイブルーに輝き、その真っ直ぐな瞳に吸い込まれそうになる。


ーーーー俺は。

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