田舎の犬と都会の猫 ー推進室編ー
雪うさこ
推進室一年目
第1章 四月一日
第1話 はじまり
新年度が始まる四月一日。市役所では、この一日は大切な節目の一日になる。重役級は朝から拘束され、市長からのありがたいお言葉を賜るのだ。
各部署では新しく出そろったメンバーで、なんとなくよそよそしい雰囲気で業務が開始されるのだが……窓口によっては三月四月は繁忙期。特に市民課の窓口にはたくさんの人が詰めかけていた。
そんな中、梅沢市役所本庁舎一階 西一号棟の奥に新しい部署が誕生した。
真新しいプレートを見上げながら、
『市制100周年記念事業推進室』
鎖でぶら下がっている
「とうとう始まるんだね」
緩くクセのある髪を栗色に染め、おしゃれなストライプのワイシャツに菖蒲色の鮮やかなネクタイが収まっている男は身長170センチメートル。くりくりとした愛嬌のある瞳は、甘えん坊気質を現しているようだった。
「よし」
市制100周年記念事業推進室は、観光部の一角に設置されていた。他部署との間に壁による仕切りはなく、腰高の書類棚で区切られているだけの簡易なものだ。
設置されている備品は、複合コピー機が一台、天井まであるオフィス用の棚三つ、電話機が三つ、デスクトップパソコン四台、机が五つ。他に、電気ポットがポツンと置かれているだけの殺風景な空間。それを眺めながら、大堀は今日からここで働く自分の姿を思い描いた。
——お誕生席になっている一番奥がきっとここの責任者の席でしょう? 自分はどこの席に座れは良いのかな?
「初日だし早めに出勤しよう」と張り切って来てはみたものの、誰もいないのでは話にならない。
——大事な初日だというのに、誰もこないだなんて。
「どこに座ればいいんだろう?」
そんな独り言を呟いていると、見知った顔の男が自分と同様に段ボールを抱えて入ってきた。
「大堀か」
「あ、
「おはよう」
黒茶色のネクタイは彼を実年齢よりも年上に見せる。よく言えば『落ち着いている』であるが、彼の場合は、『冷徹で神経質でございます』と言わんばかりの容姿だった。
この男と今日から机を並べるなんて、大堀は不安しかない。
彼とは昨年度の研修で知り合った。その時の印象はあまりいいものとは言えない。その彼と、今日からここで毎日のように顔を合わせるのかと思うと、少し憂鬱になるものだが。
新しい生活で気持ちを切り替えたい彼は、そこのところは目を瞑っておきたいというのが正直なところだった。
「今日からよろしく……」
少し控え目に挨拶をすると、安齋は大して気に留める様子もなく、あっさりと挨拶を返した。
「こちらこそ。……だが」
「そうなんだよねえ」
二人は顔を見合わせた。
「責任者が来ないことには、どこに座ったらよいものかわからないな」
「だね」
そこのところだけは意見が一致するらしい。二人は段ボールを抱えたまま、そこに立ちつくしていた。
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