大学生と豪邸

「夏コミってあの夏コミか……?」

「その夏コミ以外ないだろ。 まあ売り子の一人としてゲストで来ねえかってことだ」


 こんなタイミングで行けるとは思ってもいなかったので俺は嬉しさのあまり日向の手を握ってしまっていた。


「ほんとにいいのか? 俺も売り子としていてもいいんだな?」

「おうおうおう、わかったから一旦離れろ。 未来ちゃんがものすごい形相で睨ンでるから」


 ハッとして隣を見ると未来がジト目で俺の太ももに手をかけていた。 そしてそのままーー


「いたたたたっ! 未来さんそこは神経が一番痛いところだからっ!」

「つっくんってもしかして浮気性なの?」


 そんなわけないだろう。 俺は未来一筋だ! と言いたいのだが太ももをつねられて声が出せないほどに痛い。


 そんな俺たちを控えめに笑いながら日向は見ていた。 って助けてよ。


「なんか海竜先生たちを見てると心があったかくなるな」

「「え?」」


 俺と未来は普段なら絶対に言わないであろう言葉が聞こえてきたので声の主の方を向いた。 日向は自分が行ったことに気づいたのか顔を赤らめている。


「待って、今のって日向ちゃん?」

「ううう…… 恥ずかしいから忘れてくれよ」


 恥ずかしそうにそっぽを向く日向。 だから可愛すぎかよ、ヤンキーモードだとこんなに感情豊かになんの?


 そんなことを話していると車は高速道路から外れ、木が茂る私道に入っていった。 俺はここがどこなのか分からず標識がないかと車のフロントガラスを見る。


 すると目の前には横幅だけで戸建てほどある門が現れた。 あり得ないほどの大きさに言葉を失い固まってしまった。


「おい、海竜先生どうしたンだ? なんか変なとこでもあるか?」

「変も何もこの大きな門自体が異世界の代物なんだけど。 現実にこんなに大きな門ってあるんだ……」


 車が近づくと勝手に扉が開き、中に入っていく。 門を通ると一面が見渡せるほどの広い庭があり、噴水まである。


 日向って本物のお嬢様なんじゃ…… というか迎えの車の時点でうすうす気づいてはいたが……


「うわー、広いねー」

「なんか来てはいけないところに来た気分だな」


 何というか俺がこんなところにいていいのかという気持ちになる。 だって一市民がこんな大豪邸にお邪魔しちゃっていいのか?


 ドレスコードとかないよね? 今、バリバリスニーカーなんだけど。


「そんなに固くなるなって。 広いけどなンもないぞ?」

「いやいやいや、噴水だってあるし大きな花壇だってあるじゃん。 一日かけても庭を見きれるか分からないんだけど」


 車が止まり外に出る。 目の前には名前も分からないような床が石でできた玄関があった。


 ほんとに締め出されりとかしないよね?

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