大学生と灯篭

「はあー、暑いねー」

「ラーメンも食べたから余計に暑いな……」


 ラーメンを食べ終えた後、特に行きたいところもなくブラブラとしている。 母さんも辛さにやられたのかおとなしくなっている。


 とりあえず行く場所を決めようと手ごろな日陰を見つけて話し合うことにした。


「父さんはどこか行きたい場所はないの?」

「そうだなー。 明日には出発しなきゃいけないしあまり動かない場所がいいかな」

「そうなると…… 灯篭でも見に行く?」


 以前に未来の両親の命日に行ったことがありとても綺麗だったのを覚えている。 ここからならそこまで距離はないし時間的にも夕方には着くだろう。


 未来と母さんも賛成し、まだ日が昇っている間に向かうことにした。


「あ、このお饅頭!」

「懐かしいな。 買って行くか」


 見覚えのある和菓子屋があると思っていたら前に来た時に饅頭を買って行った和菓子屋だった。 俺は店先に置いてあった饅頭を六つ持って会計を済ます。


 なぜ六つかと言うと未来の両親の大好物でもあるからだ。 お盆はまだ先とは言えお世話になった人だからお供えの一つや二つはさせてくれ。


「紗月も大人になったのね。 母さんちょっと感動かも」

「前からこのくらいはできるっつーの」


 それに当たり前のことだろう。


 少し日が傾き始め、お目当ての灯篭が並ぶ階段までやってきた。 まだ暑いがこの階段を上り切れば絶景が待っている。


「父さん頑張っ……らなくても大丈夫そうだね」


 昔の癖で父さんの心配をしてしまったが今の父さんは筋肉モリモリだ。 こんな階段なんか朝飯前だろう。


 まあ今は夕食前なんだが。


「やっぱりここの階段はきついねー」

「俺も…… 運動不足にはキツすぎるって……」


 数十段上っただけで息が上がって汗があふれ出てくる。 多分海人の文字も汗で濡れているだろう。 父さんと未来は俺の十段近く先に上っており俺と母さんを手招きしてくる。


「ちょっと紗月、おんぶしていって」

「見ればわかるでしょ…… 無理だって」


 二人して息を荒げながらようやく上り切った。 顔を上げると沈みかけの太陽とそれを反射する茜色に染まった海が見え、疲れがいい気に吹っ飛んだ。


「ここが紗月が見せたかった場所か。 これはいい思い出になりそうだ」

「だろ? ただ俺も夕焼けは見たことなかったから今すっごい驚いてる」


 今までに見たことがないほどきれいな夕焼けに四人で横に並んで見入ってしまう。 やがて完全に日が沈むと今度は灯篭に火が付き始め暗くなった石畳を照らす。


 近くにあったベンチに座り饅頭を食べながら静かに景色を見ていたら気づけば一時間経っていた。


「そろそろ帰ろうか」


 そう父さんが言うと俺は立ち上がりそれに続いて母さんと未来も立ち上がった。

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