大学生と旅の終わり

 部屋に忘れ物がないか確認し、部屋を出て鍵を閉める。 未来は一足先に荷物をまとめて扉の前で待っている。


「ちゃんと忘れ物ないか確認したか?」

「ばっちりだよー。 それよりつっくん大丈?」


 俺はじゃんけんに負けて未来の持ってきたキャリーバッグを持つことになった。 中には未来が衝動買いした温泉饅頭やらうどんやらが詰まっていてなかなかに重い。


「とりあえず大丈夫だろ、それに最寄りまで行けば雄二を呼び出せばいいし」

「雄二ってば便利屋さんだねー」

「まったくだ」


 力もあって運動もできるのにカフェの店員をやっているなんてなんかもったいないよな。 そういえばメナージュには新しい店員もいるし早くモフモフしに行きたいな。


 そんなことを思いながら部屋の鍵を閉め、旅館のフロントへ向かう。


「この旅館ともお別れかー。 なんか愛着がわいてきちゃったよ」


 本当に色々あったからな。 今まで行った旅行の中でも一番と言えるほど記憶に残りそうだ。


「俺は家が恋しいよ。 早くソファでゴロゴロしながらアイス食べたい」

「それって昨日の夜のつっくんと変わらないよ!? 私がテレビ見てて気づいてないと思ってるだろうけど」


 バレてたのか。 初日に買って冷凍庫に入れっぱなしにしてたやつなんだけどな。


 話していてるうちにフロントに着き、鍵を返した。 入り口では数人の中居さんに送ってもらい箱根駅行きのバスに乗り込む。 


 いよいよ旅も終わりなのかと思い、ここ数日で行った場所を思いだしてみる。 初日に温泉饅頭を大量に食べて二日目に缶詰になり、三日目には温泉卵を食べた。


「昨日はうどんだしな」

「ん? どうかしたのつっくん?」

「いや、今回の旅行は食べてばっかりだなって」


 食べ物以外のことを思い出そうとしたが、ピンク色の空気になりそうなのでやめておこう。 朝から胃もたれになりそうだ。


 *


「うわ、マインが二百件も…… 編集さんから!?」


 箱根駅から東京に戻る電車と新幹線の中間みたいなやつに乗り込みスマホを充電し始めた瞬間、スマホの画面が通知で埋め尽くされていて驚いた。


『紗月:すみません! 電池切れで見れてませんでした!』


 すると一分も経たず、


『森さん:今月の分はどうなってるんですか!? 締め切りは昨日まででしたよ!』


「ええええええええええええ!?」

「どうしたのつっくん!? 突然大声出して!」


 俺は周りを確認するが始発ということもあり車両内には俺たち以外は乗っていなかった。


「悪い未来、東京までは寝ていてくれ」

「まさか締め切り?」

「はい……」


 未来は軽くため息をつくとイヤホンをつけ窓の外を眺め始めた。


 ほんと申し訳ない…… よし、東京までの約二時間書きまくるぞ!


「これが旅の終わりって……」


 まあ、なんというか。 俺ららしいか。

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