第2話:乳房と魅了
吟遊詩人に身をやつした私は、村々を唄い歩いて王太子夫婦の噂を集めた。
いや、この国に入り込んでいる女達の様子を確かめていた。
どう考えてもこの国を堕落させているとしか思えない、下劣なモノどもだ。
確かに仕方ない面がある事は認める。
私だって王配となるべく帝王学を学んでいたのだ、馬鹿ではないし公平に物事を判断できるだけの理性もある。
仕事が安定して豊かな者が、自国を出て他国に渡るわけがないのだ。
手に職があるものは、自国の中で仕事を得ることができる。
頭がよくて臨機応変に対応できる者は、なにがしかの仕事を得ることができる。
気立てがよく愛想もいい者は、人に可愛がってもらえるから仕事を得られる。
美しい女も、男達にチヤホヤされるから自国で生きていける。
そう考えれば、女に解放されたこの国に来る他国の女は、最低の女になる。
何の技術も持たず、頭が悪く、性格も悪く、年老いた醜い女になる。
確かに寒村の場末の酒場にいるのは、そんな女ばかりだ。
だが、耳に入ってくる噂の中には、そうでない女の噂もある。
美しく若い女が、貴族や豪農の家に入り込んだという噂だ。
どう考えても、身分や財産目当てだろうに、何故それが分からない。
何故誰もがセインのように易々と誑かされる!
「オンギャア、オンギャア、オンギャア」
赤子の鳴き声に思わず視線を向けてしまった。
今さらの事だが、あのままセインと結ばれていたら、今頃は子供の一人もいた。
そう思うとついつい視線が向いてしまうのだ。
だが、そこにあるのは私が思描いていた幸せな親子の姿はなかった。
父親と配偶者に抱かれる幸せな赤子ではなく、父親と雌豚に抱かれる赤子だった。
思わず罵り声をあげてしまいそうになったが、父親は騎士のようだ。
負けるとは思わないが、騒動を起こして正体を知られるわけにはいかない。
「まあ、まあ、まあ、まあ、お腹がすいたのね」
雌豚はそう口にすると、事もあろうに胸をはだけて乳をやりだした!
配偶者の美しい胸ではなく、化け物のようにでかい乳房だ。
あまりのおぞましさに眼を背け早足でその場を離れるが、吐き気を我慢することができず、化け物の姿が見えなくなったとたん、その場で嘔吐してしまった。
なんと恐ろしく醜い姿なんだ!
確かに獣の雌の胸は大きいが、人間の胸が大きくなる必要などない!
だが、噂では、あのような醜い胸に魅せられる男もいるという。
いや、女に誑かされてしまう男の多くが、大きな胸に魅了されてしまうという。
魅了、そうだ、魅了なのだ!
女には何か魔術的な力があって、男を魅了して誑かすのだ。
それを討ち破る魔術を創り出せば、この国を救えるかもしれない!
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