第137話 大胆な告白は女の子の特権(1)

(いやいやいやいや! 君とそんなフラグを立てた覚えはないんですけど!? そもそもまだ会ってから一ヶ月も経ってねえぞ!)




「……」




 俺は呆気にとられて、ぽかんと虎鉄ちゃんを見つめる。




 傍から見ればさぞ間抜けな表情に見えていることだろう。




「うわー! お姉ちゃん、だいたーん!」




 渚ちゃんだけが黄色い声を上げる。




 しかし、他のメンバーの間には何とも言えない沈黙が漂い始めた。




 アイちゃんは俺をからかうようなニヤニヤ笑いを浮かべているが、他は真顔である。




「――コテツ。あなた、本気でおっしゃってますの? 場を盛り上げるための戯言ざれごとではなく」




 やがて、シエルちゃんがいたたまれない場の空気を見かねたように口を開いた。




「もちろん、本気っす! あれ、小生、なにかまずいこと言ったっすか? マスターは、前、イロ恋人はいないって言ってたっすから、小生とマスターが結婚しても、問題ないと思ったんっすけど」




 虎鉄ちゃんが畳に額を擦り付けたまま即答する。




「えっと、虎鉄ちゃんは、最近、ゆうくんと出会ったばかりよね? もちろん、恋に時間は関係ないという考え方もあると思うけれど、いくらなんでも早すぎるんじゃないかしら」




 みかちゃんが、珍しく早口で言う。




「確かに、マスターと小生は出会ってから間もないっす。それでも、お側でそのお仕事を見させてもらって、よくわかったっす! 小生には、マスターみたいな金勘定や人の使い方――経営って言えばいいんすかね。そういうのはとても無理だって」




「話がよく見えないが……。つまり、お前はユウキという人材をリクルートするために、婿養子に取りたいということか? だから、結婚して欲しいと」




 ソフィアちゃんが困惑顔で言う。




 これ以上シエルちゃんに手間をとらせまいとしての発言だろう。




「そうっす! 虎血組を残すにはこれしかないっす! 本当は小生が継ぎたかったっすけど、親父は到底認めてくれそうにないっす……。その点、マスターには親父も一目置いてるみたいっすから」




 虎鉄ちゃんが悔しそうな声で呟いた。




(そうきたか……。これだから脳筋はっ!)




 確かに虎鉄ちゃんの立場から考えれば、一応、筋は通っている。実際、主人公はみかちゃんルートでは虎血組の組長になってるし、素質は間違いなくあるのだろう。




 問題は、今の俺にとって、彼女の提案には一ミリもメリットがないということだ。




 ゲームのフラグ云々を無視して、ビジネスの面だけで考えても、あらゆる法律で目の敵にされている反社会的勢力の跡目なんて経営難易度がルナティックモードになるだけで、何もいいことはない。




 こんなのちょっと考えれば猿でも分かることだが、虎鉄ちゃんは元々脳筋キャラの上、ヨドうみ本編よりかなり幼いからなあ。これぐらいのぶっ飛んだ考えに至っても不思議じゃない。




「クスクス。みじめねぇ。虎子ぉ。あんた、今まで、組を継ぐために、頑張ってきたんでしょぉ。それが結局、男に頼るしかないなんて、今までの人生、全てドブに捨てるようなものじゃなぁい」




 死体蹴りが大好きなアイちゃんが全力で煽っていく。




「そう言われると、何も言い返せないっす。小生は、組長になるために必要なこと、何も分かってなかったっす。……でも、親父と喧嘩する前から、小生も、本当は心のどこかでは分かってたっす。どこまでいってもヤクザは男社会っすから、いくら小生が強くなっても組長になれないって」




 虎鉄ちゃんはゆっくり顔をあげる。




 その表情はとても悲しげだった。



==========あとがきとお知らせ===========

 本話は虎鉄ちゃん回--と見せかけて、焦るみかちゃんが見られる貴重な回でもあります。

 そんなみかちゃんの魅力が楽しめるPVができました。

 2月19日発売の本作の販促用です!

 CVは、な、なんと 田村ゆかり 様です! 

 さすがに説明は不要ですよね。

 王国民の方もそうでない方も、世界一かわいいので一度は見て頂けると嬉しいです。みかちゃんも田村ゆかり様も神↓


https://www.youtube.com/watch?v=s1x-TVvL79E


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