第104話 手作りご飯は善人の象徴

(はあ……。何とか話がまとまってよかった)




 俺は目の前でなにやら沈思黙考しているヘルメスちゃんを見つめながら、ほっと胸を撫でおろす。




「ゆうくん。もうお話は終わった? 朝ごはん持って行っても大丈夫?」




「ああ、うん。みか姉、お願い」




 俺はキッチンからひょっこり顔を出したみかちゃんに、俺は頷いてみせる。




「はーい。じゃあ、どうぞー」




 みかちゃんが冷蔵庫から銀のトレイに載ったサンドイッチと、ピッチャーに入ったオレンジジュースを取り出した。




 俺も、牛乳やスープなどの配膳を手伝う。




 魔女の子どもたちグレーテル――めんどくさいから魔女っ子たちがそわそわし始める。




 魔女っ子はみんなガッリガリだし、相当お腹空いてるっぽい。




「食べて――いいのよね?」




「もちろん。君たちのために作ったんだから。――じゃあ、俺たちは学校に行くけど、後はお風呂にでも入って、別宅にベッドも用意してあるからゆっくり休んで。何か分からないことがあったら、アイ――以外の娘に聞くといいよ」




 俺はそう言って、兵士ちゃんズを見渡す。




 俺の戦闘員の子たちは、今日一日、クソ映画撮影の名目で休みを取ってある。




「あなたは、食べないの?」




「幼馴染が俺のために朝食を用意してくれてるんだ。そっちは、多分、君たちの口には合わないから」




 俺はそう言いつつ、サンドイッチを一切れ摘まんで、安全な食糧であることを示す。




 あー、卵サンドうまっ。さすがみかちゃん。ほっとする優しい味だ。既製品のラン〇パックとかじゃだめなんだよ。ここでみかちゃん+給仕娘たちの手作りの家庭の味が炸裂することで、非人間的な研究所との対比が生まれ、俺たちが人間の心をもった善キャラであるという事実を、彼女たちの脳裏に刻み込めるのだから。




(あー、俺もたまには、パンとコーヒーの洋風朝飯にしたいなー。元の世界ではほぼそれだったし)




 和食は和食で腹持ちいいから好きなんだけどね。




 ま、ともかく、この子たちにいきなりにおいのクセが強い、納豆満載ぷひ子飯を出したら、それだけで敵対判定されかねないってことで。




「おいしい。おいしいねっ!」




「お肉、入ってる! お肉入ってる! お肉入ってる!」




「このスープ、しょっぱいよ! 味がする!」




 魔女っ子ちゃんたちが大号泣してる。




「そんなに急いで食べなくても、サンドイッチもスープも逃げませんから」




 兵士娘ちゃんたちが、コップにオレンジジュースを注いでやりながら言った。




 彼女たちもちょっとうるっときてる。かつての自分たちの境遇と重ね合わせているのだろう。こういう現場に立ち会うことで、彼女たちも身体を張ったやりがいを感じられるという訳だ。




「逃げるよー!」




「人食いビスケットは叩くと増えるんだよ!」




「だから直接攻撃しちゃだめなの!」




 魔女っ子たちはそう言い張った。




 全くどこの研究所もろくなもんじゃないね。




 洋風悪夢ナイトメアも中々大変そうだ。きっとイヌカレーでまみっちゃう感じだね。




「それで、アイはどうする? ぷひ子ん家で一緒に食べてく? それとも、久々にお姉さんと食卓を囲む?」




「いらなーい。あんな腐った豆食べるくらいなら、そこらのカエルでも食べた方がマシだし、辛気臭いガキ共と食べるのもごめんだわぁ」




 アイちゃんはそう言い残すと、ぷいっと気まぐれな猫みたいに窓から外に出て行った。




 本当に牛ガエルとか狩りに行ったのかも。




「……ユウキはお金持ちなんでしょ。だったら、学校なんて行く必要あるの?」




「ある。いくら強くなろうが、いくら稼ごうが、こういう当たり前が大切なんだよ。――そのうちヘルメスさんも分かるさ」




 俺は主人公っぽくキメ顔でそう言った。




 特に考えて言っている訳ではない。俺のギャルゲー脳が脊髄反射的にセリフを導き出しているだけだ。




「そう、かもね……」




 ヘルメスちゃんは神妙な顔で小さく頷く。




 そして、他の子たちにサンドイッチがいきわたるのを確認してから、彼女自身も控えめにそれに手を伸ばすのだった。

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