第81話 近親なんちゃらは鴨の味(2)
(まあ、
病弱だった俺――というか、主人公は、ママンの研究によって命を取り留めた。しかし、副作用のない薬はなく、代償のない救済はない。ぬばたまの姫の呪いによる身体強化の恩恵だけ被って、穢れを無視できるなんて都合のいい話はないのだ。放っておけば、生命力はビンビンだけど、マジでヤベークリーチャーになっちゃう俺を助けるには、ママンの科学だけではどうにもならなかった。
じゃあ、どうしたかというと、ここで、パパンが一枚噛んでくる。呪いに打ち勝つには、それと同等以上の祝福を得る必要があると考えたパパンは、日本の国生みの神話に頼った。
すなわち、兄妹神たるイザナギイザナミの神話である。まあ、ぶっちゃけると近親相姦パワーによって日本が誕生してるので、日本人の主人公にそれを適用するためには、神話を再現するしかねえなっていう、ママンとは別方向でヤバイ結論に達した。
でも、普通にパパンとママンが第二子を作っただけでは、妹が生まれるかわからないし、そもそも、ママンとパパンは遺伝子的に
だったら人工的に造るしかねーじゃん! っていうことになって、パパンはこっそり
んで、ここからがまたママンのターンで、高貴なるXY遺伝子と、ぬばたまの姫の遺伝子を組み込んだママンの受精卵をミックスして、人工授精させて生まれたのが楓。
ということで、楓ちゃんはママンの腹から産まれた実妹であると同時に、厳密に言えば遺伝子的にはほぼ義妹というよくわからないややこしい存在となっている。
ともかく、これによって、神話との同一化をする儀式の準備が整い、パパンは巫女たる楓を媒介にし、まだ物心つく前の俺と永遠なる結婚の盟約を結ばせた。すなわち、イザナミ・イザナギの二柱に、『この二人はあなたたちそのものであるから祝福してください』というお願いである。
こうしてなんとか儀式は成功し、俺は楓ちゃんのおかげで祝福を得て、ぬばたまの姫の呪いを相克し、今もこうして元気でピンピンフラグを立てたり壊したりできている訳です。
でも、もちろん、それで話は終わっていない。神話の『再現』であるから、ただ建前上の結婚で許されるというものではない。
現世において、俺はイザナギとイザナミの神話を再現せねばならない。
つまり、俺と楓は結婚せねばならず、イザナギとイザナミのようにガンガン子作りをせねばならず、しかも最後は、楓ちゃんは
約束のデッドラインは、楓ちゃんが子どもを産めない年齢になり、神話の再現が不可能になったその時。具体的にいつかはわからないけど、女性の平均閉経年齢から推測すると、50歳前後だろう。
もし、約束を破ったら? そりゃもう、日本のルーツたるメジャー二柱を裏切るんですから、俺にも楓ちゃんにも相応の罰が待っていますよ。
さて、ともかく、ママンはああ見えて実は家族思いだし、俺を助けるために楓ちゃんを作った罪悪感もある。なので、現状、先伸ばしになっている来るべき不幸を何とかするために、倫理をブッ飛ばして科学の発展を強引に加速させて、神様絶対に殺すウーマンとなったのだ。ママンのオカルト嫌いは、神秘への恐怖の裏返しなのである。
一方、パパンもやっぱり楓ちゃんに申し訳ねえなっていう思いはあるので、今も世界各地を転々とし、各地の神話と考古学を研究することによって、誓約を破棄する方法を探している。でも、楓ちゃんを助けるために、他のたくさんの犠牲を生むのは違くね? ってことで、ママンとの方向性の違いで袂を分かった訳。
ということで、ヤンデレがヤンデレになるのには理由があるし、俺の両親だって、ただ無意味に育児放棄している訳ではないというお話でした。
つーか、マジで楓ちゃんルートのさわりを聞いてるだけで鬱になってくるわ。
この因縁を本編通りに正攻法で解き明かすには、とにかく大変なんですよ。
しかも、そんだけ頑張ってハッピーエンドになっても、俺氏は寿命を半分持ってかれた上に、世間体をはばかって駆け落ちからの、海沿いの寒村で、二人で貧しく細々と暮らさなきゃならんオチよ? 本編の主人公くんたちは幸せそうだったけど、やっぱ嫌じゃん。そんなの。
ああ、無駄話が長くなった。閑話休題。
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