第68話 冬(1)

 雪が積もった休日。




 俺たちは、近所の空き地にきていた。




 空き地には、屈めば身を隠せる程度の規模の雪の壁が林立し、二つの陣地に分けられている。それぞれの、後ろの方のスペースには、きっちり90個分の雪玉が用意してあった。




 3vs3の雪合戦。俺・シエル・ぷひ子連合対翼・香・渚チームの対決だ。




「おっしゃ! これで準備できたな! さっさと始めようぜ!」




 休日を利用してこちらに遊びに来ている翼が、待ちかねたように言う。




「おねえちゃん。お手々真っ赤だよ。大丈夫?」




 バックス(雪玉補給係)の渚ちゃんが、翼を心配げに見遣る。




「余裕だ! 気合いだよ、気合い!」




 今の翼は、冬なのに半ズボンで素手という、絵師が差分CGを描くのをサボったかのような格好をしていた。別に貧乏キャラじゃないのにな。




 つーか、前世でも小学生の頃、クラスに一人はいたな、こういう奴。




「今更だけど、随分本格的だね」




 香が、ゲレンデが似合いそうなイケメンスマイルを浮かべて言った。




「遊びも仕事も、本気でやらなきゃおもしろくないだろ!」




 俺は主人公のキャラに合わせてそう答えた。




 嘘です。本当はどっちも適当にほどほどが一番だと思ってます。あー、スマホポチポチやりながらコーラとポテチでうたげりてえ!




 なお、今の俺はみかちゃんからもらった手編みのセーターと、ぷひ子が編んだ、出来損ないの王冠みたいなニット帽をかぶっている。くそダサい身なりだけど、ヒロインたちから貰った服は『それを外すなんてとんでもない』な呪いの装備だからしゃーない。




「ちょうどいい運動になりそうですわね。冬場は身体がなまりがちですから」




 お嬢様キャラらしく、高そうなブランド物のウェアを着たシエルが、すまし顔で言う。




 もうツンツンしちゃってー。本当は友達と普通に遊べることがすごく嬉しいくせにー。




「わかるー! 私もね。納豆お餅食べすぎちゃったね。そしたら、ゆーくんが、『お前餅よりふくれてね?』とか言うの。『でりかしー』がないよね!」




 ぷひ子がぷくぷく頬を膨らませて言う。




「お前を思ってのことだ。ただでさえ豚っぽいのに、体型まで豚化とんかしたらもはやぶひ子だろ」




 俺は辛辣に答える。




 普通はヒロインに対する体型いじりはNGだが、幼馴染に対する軽口は親愛の証なので、好感度マイナスとはならない。




「ふふふ。仲がよろしくて結構なことですわね」




 シエルが微笑ましげに言った。




「マジ? じゃあ、正月に神社で餅つきするから、シエルも来いよ。つきたての餅は最高だぞ!」




「あら、それは楽しみですわね」




「おいしいよ! 私もシエルちゃんのために、わらでつくったとっておきの納豆を持っていくね!」




「……美汐さん。お気持ちは大変ありがたいんですけれど、ワタクシ、納豆アレルギーですの」




 シエルは社交辞令的な笑顔を浮かべて言う。




 嘘をつくな嘘を。




「はーい、どうやら二チームとも、準備ができたみたいね。それじゃあ、今から三分間、作戦会議の時間を取るわ。試合はその後スタートよ。陣地の奥にある棒を奪取するか、相手チームを全員退場させた方のチームの勝ちね」




 近くのかまくらから出て来た、審判兼タイムキーパーのみかちゃんが、ストップウォッチ片手に説明する。




「それで、作戦はどうしますの?」




 後ろの方の雪の壁の陰で、俺たちは密談をする。




「あのチームで主導権を握っているのは翼だ。彼女の性格的に、じらせば、確実に攻勢に出てくる。雪玉を浪費させてから反撃に出よう」




 この雪合戦では、雪玉は補充できない。使えるのは、あらかじめ作っておいた90個だけだ。




「妥当ですわね。ワタクシはそれでよろしいかと思いますわ」




「私はどういう風に雪玉を配ればいいのー?」




 俺たちの配球係は、ぷひ子だ。ぷひ子は遠投力がクソ雑魚ナメクジなので、自然とこういう配役になった。




 呪いで覚醒したぷひ子なら、石をアンダースローで頭をパン! できるくらいの能力があるんだけどなー。




「俺がメインで、シエルには牽制をしてもらう形だから、そうだな。配球は、2:1くらいの割合で頼む」




「わかったー!」




「役目はきっちりと果たしますわ」




 俺たち三人はそう言って頷き合う。




「はい。3分経ったわ! それじゃあ、試合開始―!」




 みかちゃんが高らかに宣言し、俺たちの勝負が始まった。


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