「朝食の準備の準備をしておきました」
むくり
「ふあぁぁぁ、もう朝か。女神様は起きてるかな?」
トテトテトテ
「おはようございます、吉田さん」
「おはようございます。おやそれは」
「はい、これからお世話になるので朝食の準備」
「おや女神様の手作りですか」
「の準備をしておきました」
「ワンモアプリーズ」
「朝食の準備の準備をしておきました」
「つまり何もしてないと?」
「いえ、朝食の準備の....」
「分かりました。何が食べたいのですか?」
「居候の身なので我儘は言えませんがキッシュの準備をしておきました」
「なるほどキッシュが食べたいのですね」
「お肉と野菜とベーコンとほうれん草で作ってくれると嬉しいです」
「ベーコンとほうれん草のキッシュですね」
「言っといてなんですが材料とかあるのですか?」
「まぁ一応。一人暮らしが長いと料理は趣味みたいになってきますから」
「そういうものですか」
「ところで食材が一つも出ていないのですが」
「フライパンとボウルとホットケーキメーカーとまな板が出ているでしょう?」
「なるほど道具のみ準備したわけですね。そしてなぜホットケーキメーカー」
「ギリギリまで悩んでいたので」
「でもキッシュのみでいいんですよね?」
「あなたの負担を増やすわけにはいきませんから」
「その気遣いを別の所でも発揮してほしかった」
「ホットケーキは明日でいいです」
「結局作ることに。そしてさらっと明日って」
「私が作った方がいいですか?」
「......止めておきましょう。今度は脳が耐えられない気がするので」
「......賢明な判断です」
「と言いつつ近づいてくる。その手に持ったコンセントは一体」
◇◆◇
「お
「訂正しなさい、私がいけない事でもしたみたいじゃないですか」
「あれは人としていけない事だと思いますが」
「女神なのでセーフです」
「前に人を導くとか言ってませんでしたか?」
「ですから反面教師を」
「その理屈だとなんでもありです」
「神様ですから。そうこうしている間にキッシュができましたか」
「えぇベーコンとほうれん草とキノコのキッシュです。はいどうぞ」
「何か増えてる。もぐもぐ....でもおいしいのでよしとします」
「ご飯食べてるときはホントおいしそうな顔しますよね」
「そうでないと食材に失礼ですから」
「あれ俺は?」
「ところで今日の予定は空いてますよね?」
「今日は毎月第一日曜開催のお掃除大会がありまして」
「ふむ、地域清掃か何かでしょうか?なんにせよ感心ですね」
「いえ、ご近所さん参加者希望型のバトルロワイヤルです」
「なんですかその血に飢えてそうな大会は」
「ほら、ご近所だと気が合う場合もありますがその分トラブルも多いでしょう?」
「そうなんですか」
「でも平和な"ニッポン"ですからそういう時も波風立てず穏便に解決しなければならないのですよ」
「まぁ妥当ですね。争いは何も生まないですし」
「でもそれだとみんなのストレスは溜まるばかり、常にギスギスした雰囲気のある暗い地域になってしまいます」
「たしかに人と人が共存する以上そう言った面があるのは否定できません」
「そこで町内会会長が言ったのです。"これじゃ次の区内野球大会で優勝なんて夢のまた夢、それならいっそストレスが爆発する前に爆発させてしまおう"と」
「頭沸いてませんかね、その会長」
「それを聞いたご近所さん方も諸手を挙げて賛成しました。"それは素晴らしい考えだ"と」
「頭沸いてませんかね、ご近所さん方も」
「そうして夜通し三日三晩みんなの知恵を集めて考えられたのがこのお掃除大会です」
「なるほど、ここまで何一つ理解できない」
「コンセプトは"ご近所さんをお掃除だ"」
「反対する方はいなかったのですか?」
「みんな笑顔で納得していましたね。よほどストレスが溜まってたのでしょう」
「でもそれだと余計にギスギスしませんかね」
「いえそれからは仲の悪かったご近所さんもいなくなりました」
「謎すぎる」
「ストレスを爆発する快感を知った人たち同士がよりストレスの溜まる付き合いを求めたのです」
「理解できないことが増えた」
「それから表面上は活気あふれる町になって会長も喜んでいました」
「まぁその会長もこの町を想っての行動だったのですかね」
「でもその後なぜか別の町の会長とコソコソ話してましたが」
「それ会長寝返ってませんかね」
「それは無いですよ。誰も野球のルールを覚えず1回も勝ったことはありませんが熱意では誰にも負けない俺たちが付いてますから」
「寝返る要素しかない」
「なぜか最近、町長がミーティングを開かなかったり隣町の不動産に行く姿が目撃されてますが大丈夫です」
「寝返ってる要素しかない」
「というわけで今日はお掃除大会があるのですが」
「では買い物に行きますよ」
「おっと暇だった事になってる」
「最初はちょっと別の日にしようか迷いましたが今の話を聞いて考え直しました」
「大事なご近所付き合いなのですが」
「どこらへんが」
「まぁでも女神様とのデートという事であればそちらを優先しますとも」
「手伝ってくれるのはありがたいですがデートではありません」
「でも男女で買い物ですよ?」
ポワワン
「なにか空中に手をつなぐ男女の映像が。私とあなたですね」
「よくあるイメージを伝えるやつです」
「普通の人は出来ませんが。でもイメージするならこんな感じです」
ポワワン
「身の丈の何倍もある荷物の山を抱える俺とその前を優雅に歩く女神様が」
「このようにデートではなく付き添いです。あなたの事はセバスチャンとでも呼びましょうか」
「付き添いというか執事では?でもこのイメージ女神様もできるんですね」
「女神ですからね。さてそれでは行きますよ」
「準備とかは?女性は時間がかかりますが」
「女神パワーでこの通り」
「一瞬で着替えと化粧まで完璧に。ならそれを使えばいいんじゃ」
「せっかくの"ニッポン"ですから私も楽しみたいのです。たまに遊びに来てましたが堪能はできませんから」
「来てたんですね。では僭越ながらエスコートを」
「よきにはからえ、です」
◇◆◇
「さて、まずはどこに行きましょうか」
「そうですね。では家具や生活用品を揃えたいので案内をお願いします」
「それならうってつけの場所が」
「ではそちらへ。ちなみにどんな店ですか?」
「家具や生活用品を置いているお店で色々なところに支店を置いている大企業です」
「良さそうな感じですね」
「値段は少々高く感じる人もいますが品質は保証できます」
「なるほど、長く使いたい私にはうってつけです」
「そんなに長く住むのですか?」
「嫌なのですか?」
「いえもちろん嬉しいですよ。それでそんな安心と品質のお店ですが」
「はい」
「名を"ヒトリ"といいます」
「急にパチモン臭くなりました」
「基本的には先ほど言ったとおりのお店なのですがターゲット層が独り暮らしの方でして」
「ちょっとそれっぽい理由」
「常に独身の男性と女性がライバルを
「趣旨変わってませんかねそれ」
「そこへ現れる冷やかしのカップル」
「性格悪そう」
「巻き起こる怒号と始まる祭り」
「家具店の話ですよね?」
「後に残るは無残なメイクとダサいファッションに変えられた彼女のほうのみ」
「彼氏のほうは一体」
「彼氏のほうは独身女性同士の戦いで勝利した者にお持ち帰りされるルールになっています」
「肉食過ぎませんかね」
「でも少子高齢化への多少の歯止めとはなっているのですよ?」
「考え方が完全にアマゾネスですが」
「そんなこんなと話をしている間に着きましたね」
「ここですか。でもそんなところへ私たち二人で行っても大丈夫でしょうか」
「そこはご安心を。冷やかしでなければ問題ありませんから」
「そんな事が分かるのでしょうか?既に理性を失くした者たちのようですが」
「そのために.....はい、このバッチを付けてください」
「どれどれ...."私たちに冷やかしの意思はありません"とありますね。何ですかこれは?」
「たびたび起こる祭りの影で何の関係もないカップルが被害に遭うのを見過ごせなかった店側の配慮です」
「なるほど、巻き込まれる店側は苦労しているのですね」
「集客は上がってウハウハだそうですが」
「先ほどの同情を返してください」
◇◆◇
「いらっしゃいませー」「ませー」「ませー」
「見てあの女、男連れてるわ」
「おいなんだあの可愛い子は」
「かわいいけどガキっぽいな、趣味じゃないわ」
「いやー相変わらず異性連れた客には過剰に反応しますね」
「....最後の人あれ私の事を言っていたのでしょうかね」
「でもこのバッチがあれば渋々引き下がっていくので問題ないですが」
「........どうなんでしょう吉田さん。私ガキっぽいですか?」
「それでは何から見ますか女神様」
「さっきから聞こえていますよね吉田さん、私はガキっぽいのですか?」
「ただの嫉妬ですよ。可愛いと褒めていたのでいいじゃないですか」
「私が可愛いのは当たり前です。まぁでもそうですね細かいことは忘れておいてあげましょうか」
「さすが女神様、それでこそ大人の女性ですよ」
「えぇもちろん大人の女性ですから。あの人の次の転生先を男しかいない部族にするくらいで許します」
「全然許してない」
「それで生活用品はどのあたりでしょうか」
「あのあたりに風呂、トイレ、キッチンなどとコーナーが分けられてます」
「あれですか。では私は必要な物を揃えてくるので適当に時間を潰していてくれればと」
「俺に手伝えそうな事ってありますか?」
「そうですね。リビングに置くベットも買うのでその時は傍にいていただければと」
「うちのリビングが魔改造されそうな件」
「あと財布の担当をお願いします」
「そして当然のように支払いを任される」
「私はお金を持っていませんので。ですが無理そうなら教えてもらえれば」
「自分で作ったりするのですか?」
「いえ先ほど私を鼻で笑った人から奪うだけです」
「まだ怒りは継続中だった」
「欲しい物は奪えばいいと教わり育ちましたから」
「地上から信仰が消えそうなくらい蛮族ですね」
「それでお金の方は大丈夫でしょうか?」
「その辺りはご心配なく」
「おや、すごい甲斐性ですね」
「この転生前に創造神様からそれなりの金額を貰ったのです」
「人の金、いえ神の金でしたか」
「"頼むからこれで何とかおとなしく過ごしてはくれまいか"と」
「全力で警戒してますね」
「ですが何もせずに生きる事に果たして意味はあるのかと思いまして」
「哲学ですね。それと忠告が届いてない」
「その金を元手に秘密結社を創立しました」
「あなたと創造神の間に翻訳バグがありそうです」
「いえね、おとなしく過ごすためにまずは資金を増やさないと、と」
「それでなぜ秘密結社に」
「ちょうどその場にいた人に尋ねたら"へへっ、それならいい仕事があるよ"と」
「それ危ない人なのでは」
「
「ヤバいですね。そして悪党みたいな名前」
「そういうこと言っちゃいけませんよ女神様」
「そうですね。名前や見た目だけで人を判断するのはいけませんでした」
「
「それ嗅いではダメな粉なのでは」
「よく裏路地で配ったりもしていました」
「それ嗅いではダメな粉なのでは」
「本人曰くただの砂糖だそうです」
「本当でしょうか」
「炙ってもいいとも言ってました」
「やっぱり嗅いではダメな粉では」
「それと
「砂糖でした」
「それから
「なるほど、何をしている会社なのでしょう?」
「それは秘密です」
「怪しいですね」
「言えるのは社員がみんな黒ずくめということくらいでしょうか」
「ブラックそうな秘密結社ですね」
「週休3日で有給の取得は自由です」
「ホワイトでした」
「それと在宅ワークにも対応しています」
「今風ですね」
「なので平日も女神さまと一緒にいられます」
「あなたが使ってましたか」
「
「ちょっと違う気がしますが」
「というわけでお金については心配ご無用、経営も軌道に乗っているので猫耳でもフリルでもどんとこいです」
「そんなもの買いませんし、よしんば買ってもあなたには見せません。がそういうことであれば遠慮なく」
「では俺はそこら辺で時間を潰してきますね」
「はい、買うものが決まったら合流ということで」
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