葬送 ③’
時間はだらだらと過ぎ、二時半になった。
葬儀は三時から始まるということだったので、僕とクウは家を出ることにした。クウの母親は一足先に家を出ていたので、二人で出発することになる。
道の先に、ワタルとツバサの姿を見つけた。二人の背中は寂しげで、手を繋ぎ合って歩いていた。
それを見て、僕もクウの手を握る。
「……ありがと……」
照れ臭そうに、クウは僕に感謝の言葉を述べた。
見てからしか気付けないなんて、ありがとうといわれるほどじゃないのだけれど。
僕らは静かに式場に入った。葬儀の際には、神社の本堂が式場になるのだ。既に殆どの人が集まっていて、席はあと三つ、四つほどしか空いていなかった。二つ並んで空いている席が偶然あったので、僕はクウとその席に座る。
辺りを見回してみる。前方にはジロウくんの両親がいた。父親は参列者にあいさつし、母親は静かに座っている。参列者側の席には、クラスメイトの姿がちらほら見えた。ワタルとツバサも真剣な表情で座っている。
……ふと、気付く。タロウの姿がなかった。
「……タロウ、まだ来てないのか」
「ひょっとしたら……来ないつもりなのかもしれないね」
クウが呟く。
「こないって、そんな……」
「だって。……一番近かったんだもん。認められない気持ちは、きっと……誰よりも強いと思う」
「……」
「だから来なくても、誰も……責められないよ」
「……そうだね」
クウの言う通りだ。これが最後の、別れの機会だとしても。そんなにすぐ、死というものは受け入れられるものではない。
薄情などではない。……いつか受け入れられれば、それでもいいだろう。
やがて、堂内が静まり返る。後ろをちらりと見やると、法衣を身にまとったワタルの父親が入ってくるところだった。ゲンキさんは、葬儀全般を任されているため、こうして死者に経を唱える役目も担っているのだ。
心なしか、ゲンキさんも緊張しているように見えた。あまりにも早すぎる死だ。いつもとは違う感覚があるのかもしれない。
ゲンキさんは用意された座布団の上に正座すると、読経を始めた。
静かに、内側から響いてくるような声。それが、涙腺を刺激する。
誰もが静かに、ゲンキさんの口から紡がれていく言葉の羅列を聞いている。
祈りのような言葉を聞きながら、自分たちもまた、ジロウくんのために祈っている。
そうして、長い読経が終わると、家族たちから別れの言葉が読み上げられた。それを聞きながら、僕はまだジロウくんに祈りを捧げていた。
どうか、安らかに。
鳥のように、空へ羽ばたいていってほしい。
それも黒きカラスとしてではなく、
白きトキとして――。
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