第29話 ブリーフィング①

「――つまり、本艦1隻が奇襲をかけて、リザードの妨害電波をダウンさせるという事ですか?」


 『アンデッド小隊』隊長のマリクは信じられないという表情で、作戦内容を聞き返していた。それもそのはず、資源衛星リザードは遠距離からの攻撃に備えてターミナスレイヤーによる防御機能を有している。

 そのため、長距離からの攻撃は防がれてしまい、かといって接近すれば強力な妨害電波のえじきになるのだ。

 ユウが挙手をしてこの作戦への疑問をぶつけた。


「その場合、<エンフィールド>の主砲である2連装ハイパーターミナスキャノンでも、リザードに届くころにはターミナス粒子が拡散して威力が半減しているはずです。それでは敵基地のターミナスレイヤーを貫通する事は出来ずに終わります。実際今まで展開された作戦では、そういう結果に終わっています」


 ユウの質問に対し、艦長のアリアが答える。


「アルマ少尉、それは当然の疑問であると思います。少尉の言う通りに通常の遠距離兵装によるリザード攻略は失敗に終わっています。それを打開する手段として本艦はヴェルブラストを使用します」


「ヴェルブラスト? なんですかそれは?」


 聞いた事のない単語にユウは怪訝けげんな表情を見せる。それは彼だけでなく、説明を聞いている大多数の人間にとって初めて聞く名前であった。


「ヴェルブラストはヴェル現象を利用した特殊砲です」


 アリアの言う〝ヴェル現象〟という言葉に何人かが反応する。ルカとケインの2人はその言葉を聞いて驚きの表情を見せている。

 『アンデッド小隊』隊長のマリクは、この時焦っていた。〝ヴェル現象〟という言葉を聞いてもチンプンカンプンであったのだ。部下2人はそれを理解しているようだったので、なおさら焦ってしまう。

 隊長として自らの無知を露呈するのはできれば避けたい事案であった。ふと隣にいるユウを見ると、彼は少し考え込むような表情をしていた。


「……おい、ユウ。……ヴェル現象って何?」


 思い切ってユウにヴェル現象について尋ねるマリクであったが、青年から返ってきたのは意外な答えであった。


「……知りません。あんな単語初めて聞きました」


「……よくそれで涼しい顔していられるな」


「だって知らないものは仕方がないじゃないですか。それに多分今から説明してくれるでしょうし、説明がなければ後でケインあたりに聞けばいいことです」


「うっ! それは……確かにそうだな」


 あまりにも当たり前な意見にうなだれるマリク。その様子を見ていたアリアは、ルーシーに説明を頼むのであった。


「それでは〝ヴェル現象〟について説明しますが、その前にターミナス粒子関連についてお話します。その方が理解しやすいと思うので。まずはターミナスリアクターについてお話します……ターミナスリアクターは莫大なエネルギーを生み出す動力炉として、主にオービタルトルーパーや戦艦を始め様々な機動兵器に搭載されています。その動力炉で生まれたエネルギーはジェネレーターでターミナスエナジーに変換され、これによって機動兵器が動きます。また、ターミナスエナジーはターミナス粒子の集合体でもあり、その出力を上昇させることでビーム兵器や防御兵装として利用されています。さらにターミナス粒子は重力場に影響を与える力場を形成し、物質に浮遊や加重効果を付与する事ができます。この性質を利用して艦内では1Gの重力が保たれていますし、オービタルトルーパーコックピット部の耐Gシステムに応用されています。……ここまではよろしいでしょうか?」


 説明の途中でルーシーが説明を一区切りさせる。ざっと見た感じでは、どうやら皆それなりに理解できているようである。


「……分かり易い説明だな。ジュニアハイスクールの授業じゃチンプンカンプンだったが、これはすんなり理解できたぞ」


 マリクはジュニアハイスクールで、ターミナス粒子関係の授業をした老齢の男性教師を思い出していた。授業中、一方的な早口で説明していくため授業内容が全然わからずテストでは赤点を取っていた。

 もし、当時こんな若くてきれいで説明が丁寧で生徒達の理解度を考えながら授業をしてくれる女性教師がいたら自分はもっと勉強を頑張っていただろうと、マリクは1人思うのであった。

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