第77話 人形の遊び方


 王都シュテートを出てから七日が経った。


 特に急ぐ旅ではないので、オーストセレス王国とミッテミルガン共和国の間にある山岳地帯を抜けた。


 途中タール村に寄った。

 フィンフに頼んで食料などの生活必需品を送っていた。


 自殺した人は三人でそいつら以外は俺の言葉をちゃんと守って生き抜いていた。

 女性ばかりだと中々に不便で志願者を募った結果十数人の男とある法衣貴族の男が名乗りをあげた。


 村長も殺されて村をまとめる人材がいなかった。

 貴族の男は自分の領地が欲しいと思っていたので丁度よかった。


 貴族の男はフィンフからの信頼もあり、貴族主義社会に賛成派で第四騎士団のようなことには絶対にならないと保証してくれた。


 完全に復興するには時間がかかるが、貴族の男と話したら、30代だが見た目よりも若く見えて好青年ぽかった。


 自分の代での完全なる統治は難しくとも息子か孫の代までには以前の村よりも暮らしやすい領地にしてみせると意気込んでいた。


 男と戯れ合う趣味はないので、早々に立ち去った。

 夢見る爽やか系男子とは相入れなかった。


 俺は綺麗な奴隷に膝枕をしてもらいながらゆっくりする方がいい。


 魔物や盗賊が襲って来たりもしたが、アインス達だけで対応できるようになった。

 俺が戦うときはアインス達よりも高レベルな敵が出てきた時だ。

 それも片方の指で数えられる程で俺の出番は全くなかった。


 アインスとフィーアは躊躇いなく殺人できるようになった。

 ツヴァイは攻撃出来るようにはなったが、人を殺すとなると躊躇いが出ていた。


 ドライはというと……


「おい、何やってんだ?」


 俺は思わず目を背けたくなる映像を目にしている。

 ドライは倒した魔物に齧り付いていた。


「たべてます」


 忘れていたが、ドライはカーバンクルだった。

 前魔王の幹部のカーバンクルは人や食べ物だけでなく建物まで食っていたらしいからな。


 レベルが上がったせいなのか?

 子孫のドライにもその影響が出始めている。


「生で食いたい程、衝動が抑えられないのか?」


「お腹すいて、がまんできませんでした」


「俺の前でそんな汚い食べ方をするな。ツヴァイにちゃんと調理してもらってから綺麗に食べろ。出来ないなら強制的に飯抜きだ」


 ドライの顔が青ざめていき絶望の色に変わった。

 魔物の死体から離れて、土下座した。


「ごめんなさい。ちゃんときれいに食べます。ご飯ください」


 泣きながら一生懸命に謝っていた。

 

 飯抜きがこいつにとってどれだけのことか改めて思い知らされたな。


「丁度昼飯の時間だからな。ツヴァイとフィーアは飯の支度をしろ。アインスとドライは馬達の手入れをしろ」


「ドライも料理してみたいです」


 さっきのことにならないように覚えようというところか。


「好きにしろ」


「ありがとうございます」


 しょうがないから、俺がアインスと一緒にアウディとポルシェの手入れをするか。


「ご主人様はお休みになっていて下さい。馬の手入れでしたら私一人でも問題ありません」


「そうだろうが、俺がアウディ達と触れ合いたいんだよ」


「そういうことでしたら」


 俺がアウディの栗毛をブラッシングや蹄を磨いてやると嬉しそうだ。


 隣のポルシェは青鹿毛をアインスにブラッシングしてもらっているが、なんだか不満そうだ。


 試しに手を伸ばしてみたら顔を擦り寄せて来た。

 そんなに俺の何処がいいんだ?

 アインスの方が手慣れていて上手そうなのにな。

 馬のことはよく分からん。


「こらポルシェ、それでは上手くブラッシングができません。大人しくしなさい」


 ポルシェはアインスの方に顔を向けるが、すぐに俺の方を向いた。

 俺の方がいいといった態度だ。


「アインス、馬に嫉妬なんかするなよ」


「そんなことはありません」


 冗談を言っても場が和むことはなく、アインスは不機嫌だった。

 アウディとポルシェに愛着が湧いてはいるが、アインスの方が大切に思っていることを知ってもらうために、その日の夜はアインスを相手に二人で楽しんだ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 ミッテミルガン共和国に入った。

 国との境界線に特に検問とかはなく、地図上で決めてあるだけで、実際は曖昧だ。


 ただ、ミッテミルガン共和国の現在は治安が悪く盗賊とかがいるのが当たり前だそうだ。

 境界線あたりに三十人規模の盗賊団に襲われたが、皆殺しにしてやった。


 よく「もうしません。命だけは助けてください」という言葉通り命を助ける馬鹿がいるが、こういう奴等はまたやるに決まっている。


 反省しない盗賊も悪いが、命を取らなかったそいつの方が悪い。

 盗賊団を皆殺しにしていれば、それ以上被害が出なかったんだ。

 だから、盗賊に会う度に皆殺しにしている俺達はなんて世界に優しいんだろう。

 こんな世界のために貢献している魔王は中々いないぞ。




「ご主人様。また盗賊です。前の馬車が襲われています」

 

 フィーアに膝枕してもらいながら、ドライで遊んでいるとまた盗賊団に出会した。

 せっかくドライの耳や尻尾をいじって遊んでいたのに、この楽しみを邪魔する奴等は殺してやろうか。


 アインスが言う襲われている馬車というのが気になったので見てみることにした。


 盗賊の数は17人だ。

 周りの森に隠れている奴も数人いるな。


 馬車の周りには護衛の死体が転がっていた。


 盗賊達は護衛の一人だった女を囲んでいて、お楽しみをはじめる最中だった。

 武器や防具はすでに剥ぎ取られていて、所々破れた服の間から肌が見えていた。

 

 遠くからでも特に美人ではなく、ただの人間だ。

 スタイルを見ても普通な感じだ。

 助けるメリットが見つからないので、アインスに馬車を進ませた。


 盗賊達がこっちに気付いて武器を構えた。


 俺がアインスの隣で「邪魔だ。どけ!」と言うと、盗賊達は素直に道を開けてくれた。

 『俺に手を出すなら全員死ぬ』と分かったらしい。

 いくら盗賊でも手を出してはいけない相手がいるという判断は出来るようだ。

 アインス達は何か言いたそうだが、気にかけなかった。


「助けてください!」


 女護衛の叫ぶ声が聞こえたが、俺は振り返りもせずに無視した。

 盗賊達が黙れと言って、口を塞ごうとした。

 その間もイヤーとかヤメテーとか叫んでうるさかった。


 隣にいるアインスは何も言わないが、俺と女護衛を交互にチラチラと見る。

 お人好しがいると一々面倒ごとに首を突っ込まなくちゃならないのか?

 だからといって捨てる気には全くならないがな。


 アインスに馬車を止めさせて、俺は馬車から降りた。

 奴隷達も続いて降りた。


「お前を助けて俺にメリットがあるのか?助けられたお前は俺に何をしてくれるんだ?」


 盗賊が「あんたは黙ってろ」と声を上げようとしたが、声出せたのは最初の「あん」までだ。


「俺の話を遮るな」


 盗賊は後退り、圧倒的強者の前には見つめることしか出来なかった。

 

「何をすれば良いですか?」

「身の心もお前の持つ全てのものを差し出せ。命を助けてやるんだ、そのぐらい当然だろ。なあ?」


 俺はアインスに顔を向けた。


「はい。ご主人様のお言葉に一切の間違いはありません」

「私もそう思います」

「それが当然のことです」

「うんうん」


 奴隷達全員が頷いた。

 ツヴァイまでそういう風に思うようになって来て俺は嬉しかった。


「ということだが、どうするんだ?俺はお前が望むなら見捨ててもいいんだぞ?」


「分かり……ました。貴方のものになるので助けてください」


「いいだろ。やれ!」


 奴隷達それぞれがいつも通りの動きをし始めた。


 ドライが自分の身長ぐらいある大楯を持ち、左手にはレイピアに似た突きに特化した剣を構えた。


 その後ろでアインスが槍を、ツヴァイが杖を構える。


 フィーアは周辺に隠れている敵の排除だ。

 元暗殺者だけあって、どういうところに隠れているかを見つけるのは得意だ。

 相手は盗賊でそういう戦い方に慣れているだろうが、問題はなかった。


  ツヴァイが使っている杖は王都シュテートで手に入れた長杖だ。

 タール村近くで手に入れた杖を一度使ってみたが暴発してしまった。

 術者のツヴァイ自体も怪我をしてしまった。

 骨董品なんか使うもんじゃあないと思った。


 単にツヴァイのレベル不足かと思って俺が使ってみたが、同じように暴発した。

 一応フィンフに言って調べさせたが、よく分からなかった。

 アイテムボックスにしまってはいるが、二度と使うことはないだろう。


 俺はフリーなので、適当に気が向いた時に魔法を打ったりしている。

 勿論、奴隷達がピンチそうならカバーに入るが、そういう場面はそうそう無い。


 10分もかからず、盗賊達はほぼ全滅した。


 

「そっちの方は終わったか?」


 俺はツヴァイが治療している女護衛に目を向けた。

 ツヴァイの光魔法で傷がみるみる回復していった。

 

 女護衛は青緑っぽい短髪に丸い目、胸も一応あると分かる程度で小さい。

 身長は160もなく、子供っぽい見た目だ。

 可愛くもなく、不細工でなく、普通だ。

 全く欲しいと思わない。


 治療が終わると女護衛は土下座をした。

 

「命を救っていただきありがとうございます。私の名前はアマルと申します。もう一つお願い事があります。盗賊のアジトに囚われた我が主と仲間を助けては貰いませんか?」


「断る」


「え⁉︎」


「お前を助けることはお前の全てを貰うことで了承したが、主と仲間のことは知ったことではない。それに俺のモノになったばかりだというのに厚かましいにも程があるぞ」


「その通りです。ご主人様に助けていただいただけでも、その後の生を全て掛けて恩義に報いなければなりません」


「アインスの言う通り、その上にお願いごとをするなど恥を知りなさい」


 アインスとフィーアがアマルを見下した目で見る。


「私も貴方様の奴隷になるのでしょう。仲間達も私が説得して必ず貴方様の奴隷になるようにします。ですのでどうか主だけでも助けて下さい」


「調子に乗るな。お前如きが俺の奴隷になれると思うなよ」


「奴隷にしないのですか?」


「奴隷になれる価値もないと言っているんだよ馬鹿が」


「それでしたら……私は何になるのでしょうか?」


「そうだな……退屈しのぎの玩具、人形にでもなってもらおうか」


「人形……ですか?」


「あぁ、俺を楽しませろよ。そうしたらお前の願いを叶えてやらないこともない」


「本当ですか?」


「俺は約束を必ず守る男だ」


「分かりました。それで、えっと……何をすればいいのでしょうか?」


「取り敢えず裸になって踊ってもらおうか。歌も歌えるならやれ」


「⁉︎」


 アマルは自分を身を抱きしめるようにして数歩後ろに下がり、周りに目を向けた。


「貴方達も同じようなことをしているんですか?」


「ゼント様に命令されたことであれば、私はどんなことでも出来ますし、恥ずかしいことなどないわ」


「ご主人様に命令されたこと自体が名誉なことであって否定することなどありえません」


「私も……もしご主人様が望むのであれば……」


「ドライもできるー」


 アマルに味方など一人もいなかった。

 二度と動かないかつて仲間だった男の死体を見つめるが、死体が助けてくれるなんてことは無かった。


「やめてもいいぞ。その代わり、お前の望みは一生叶わないし、叶えさせない」


 アマルは俯くと服を脱ぎ始めた。

 やけになって何かする可能性もあったが、そんなことはなくて安心した。

 もしそうなったら、俺は初めて自分のモノを捨てることになる。


 元々服は破れかけていたので、すぐに裸になった。

 地面が血だらけなので靴だけは許した。


 アマルは両手で胸と股を隠した状態で動こうとしなかった。


「どうした?俺は踊れと命令したんだ。人形なんだから言う通りに動け」


 アマルは涙を流すと、両手を広げて踊り始めた。 

 恥ずかしさやら色んな気持ちがごちゃ混ぜになって変な踊りだった。

 胸は小さいながらに揺れても、小さなお尻が揺らされても特に感じなかった。

 表情も泣きながらでそういう気分にならなかった。


「泣いてないで笑えよ。手も足ももっと広げて体全体で表現しろよ。俺を楽しませないとお前の願いは叶わないぞ」


 アマルは涙を拭って無理矢理笑顔を作った。

 全力でやらないと主とかいう人物の命が救えないと分かったようで、さっきのような変な踊りではなくなった。


 両手を揃えて上下左右に振ったり、片足を上げたりして、隠す部分など何もなくなって全てさらけ出していた。


 ストリップショーというのは初めて見たが、中々に楽しめたな。

 次はフィーアかツヴァイにでもやってもらおう。

 絶対そっちの方が楽しめるからな。


「私の故郷の村で祭の時に踊るものです。楽しめましたでしょうか?」


 アマルは裸まま両手を合わせて聞いてきた。

 小さい胸だが、寄せればちゃんと谷間が出来るんだな。

 今のポーズは結構良かった。


「あぁ、楽しめたぞ。お前の願いを叶えてやる」


「ありがとうございます」


 アマルは頭を下げると、脱いだ服を拾った。

 着衣シーンなど見飽きているので興味はなかった。


「フィーア、拷問の準備は出来ているな」


「お任せください。ゼント様」


 盗賊を一人だけ生存させていた。

 これもいつも通りだ。

 盗賊団を皆殺しにするということは盗賊団が持っていたものは所有者不明になるということだ。

 つまり、盗賊を殺した俺達が貰っても何も問題はない。

 襲って来た盗賊を全員殺したら、アジトが分からないからな。

 フィーアには一人か二人生き残らせて拷問してでも聞き出せと命令してある。


 アマルがどうしようが、元々盗賊団のアジトに行く予定だった。

 それがストリップショーを見せてくれるというのだから見てから行くに決まっている。


 いい玩具が手に入った。

 馬車の旅の間は楽しませてもらおう。

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