Ⅱ第二十三話 久しぶりのギルド

 おれは、黒いひもをぐるぐる回しながら街を歩いた。


 なんだか「新しい武器」というのは、心がウキウキする。


 ウキウキついでにギルドに行って、山脈の調査を依頼で出そう。このままでは、らちが明かない。冒険者が何人かいれば、どうにかなるだろう。


 すれ違う婦人から白い目で見られた。物を振り回して歩くのは、小学生の登校みたいだ。やめよう。投げ紐は腰のベルトにかけた。


 ダンは投げ紐をかける留め金と、それをつけるベルトも作ってくれた。輪っかにしてかけてもいいし、戦闘中なら半分にして垂れ下げておく。それだとすぐに投げれるからだ。


 おれは右利きだ。右の腰に投げ紐、左に剣だ。右の太ももに密着するようにあったナイフは、腰のうしろに収納できるようになっていた。なかなかの高性能ベルト。


 しかしダンめ。計ることもなく、おれのウエストにピッタリなベルトを作った。見ただけで身体のサイズがわかるスキルだ。おそらくティアのウエストも把握してる。そうに違いない。


 ダンの変態ぶりを考えていると、ギルドに着いた。重い扉を押して入る。


「カカカ様!」


 おれの姿を見て若い男が飛んできた。新米の交渉官だ。名前はええと・・・・・・


「このサムデュー、何か落ち度がございましたでしょうか!」


 そうそう、サムデュー。えっ、今なんて言った?


 あわてふためく交渉官を落ち着かせるためにも、応接室に入った。イスを勧める。なんだか立場があべこべだ。


「カカカ様、おしゃって下さい。何がいけないのかを!」

「交渉官、落ち着いて下さい」


 話を聞いて理由がわかった。おれが急にギルドに来なくなったからだ。


 それに依頼も受けてない。新しい交渉官が、おれを怒らしたんじゃないか? というのがギルド社内の噂らしい。


「交渉官、誤解だ。おれは別件で忙しかっただけだ」

「ですが!」


 まいったな。こりゃ蛇を竜と間違えてる。おれを大物扱いしても何の得にもならない。


「グレンギースはいないのか? やつなら、おれはそういうタイプじゃないと知ってるはずだ」

「所長からは、カカカ様については、すべて任せると言われております!」


 冷たいな、グレンギース。新所長になって変わったか。いや、それこそ、彼はそういうタイプじゃないと思ったんだが。


「まあ、とにかく誤解です。今日は依頼を受けて帰りますよ」


 腰を上げそうになり、本来の目的を思い出した。


「そうそう、依頼を出すんだった」


 新米交渉官は、おれの言葉に首をひねった。


  依頼内容:山脈の調査

  報酬:100G

  依頼主:勇者カカカ

  難易度:☆☆☆


 サムデューに説明して、依頼書を作ってもらった。


「C級が組めるのは8人まででしたっけ?」

「いえ、10人です」


 覚え間違いしてた。なんか昔のゲームと混同してるな。昔のゲームはパーティーが8人というのが多かった。


「自分も人数に数えるんでしたっけ?」

「いえ、加入できる人数です」

「では、依頼の募集は10人で」

「あの・・・・・・」


 新米交渉官は、おれの足下にいるハウンドを見つめた。えっ、従魔もカウントされるの? そうなると、あっ、ガレンガイルも切ってない。


 ハウンド

 チック

 オリヴィア

 ガレンガイル


 おれの10人席は、すでに4つも席が埋まっているのか。おれは胸ポケットからチックを出し、手のひらに乗せた。


「お前、幼児席で換算して欲しいよな」


 チックは、いっちょ前にハサミを振り上げた。


「では、6名の募集でお願いします」


 おれはそう言って今度こそ腰を上げた。


 さて、ちょっと簡単な依頼をこなしとくか。行動で見せとかないと「カカカはサムデューが嫌い」という噂は消えないかもしれない。


 応接室を出て、依頼書の貼られた壁に向かう。ちょっと懐かしい。毎朝、ここでどの依頼を受けるか考えていた。


  依頼内容:妖獣の駆逐

  報酬:100G

  敵:大鼠ほか

  依頼主:エドソン治療院

  難易度:☆☆


 あら? あの治療院だ。


 地縛霊を倒し終わったと思っていた。細かいのが残ってたか。


 よくよく見ると、あの「迷いの小路」あたりの住人から、同じような依頼が数件あった。


 あれから、もうずいぶん経った。まだ残っているのが不思議だ。まとめて依頼書を外し、マクラフ婦人の窓口に持っていく。


「助かるわ」

「これ、誰も受けないんですか」

「誰かさんが、入院したから」


 おっと、またやった。ほかの冒険者がケガした依頼は、誰も行きたがらない。以前に死霊と戦って入院した時は、そのあと誰もやらなかった。


「言ってくれればいいのに」

「言ったわ。そして断られた」


 まあ、そうだけど、他人行儀すぎる。


「これ、明日でもいいです?」


 そろそろ日が傾く時間だ。まとめて明日にしたい。


「どうせ、誰も取らないわ」


 マクラフ婦人はそう言って、依頼書にハンコをついていった。


「気をつけて」


 去り際に彼女が言った。無愛想なんだか優しいんだか。


 ギルドを出ると夕方になっていた。


 急いでアドラダワーの治療院に帰ろう。治療院の夕飯は早い。これやっぱり入院患者だよ。おれは一時帰宅した患者の気持ちで、馬車亭に急いだ。


 


 

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