Ⅱ第九話 下町の治療院
目が覚めた。
知らない天井だ。となりに誰もいないベッドがあった。これは病室だ。でもベッドが二つだけの小さな病室だった。アドラダワーのとこじゃない。どこだ?
雨が降っている音に気づいた。窓のほうを見る。
窓ぎわで外を見ている女学生がいた。赤毛の髪をうしろで三つ編みにして、一本にまとめている。
「髪、伸びたな」
おれは声をかけた。ティアだ。
「雨、やんだらアドラダワーさんが来るって」
ティアは外を向いたまま言った。
「元気だったか? ティアは」
「うん」
ティアは少しだけ、こっちを向いて答えた。
身体をおこそうとしたが、動かなかった。強烈なマヒ呪文の後遺症だ。またやっちゃった。自分の成長のなさに呆れる。
「しかし、なんでティアがここにいるんだ。いや、そもそも、ここどこだ?」
ティアは少し間を置いて答えた。
「ガレンガイルさんから連絡があって。カカカの数値が異常だって」
ああ、ガレンガイルとパーティーを切るのを忘れている。あっちが新たにパーティーを組むときに切るだろう。そう思ってたら仕事は一匹狼でやってる。おれもオリーブン城に行く用事がないので、そのまま放っておいた。
「すぐにマクラフさんに連絡した。それでカカカが受けてる今の依頼を聞いたの」
なるほどな。おれはちょうど、ほかの依頼は済ませている。継続中は「迷いの小路」しかない。
悪かったな、そう言おうとしたら、扉が開いて医師のような白いケープの男が入ってきた。
白いケープの男は、おれのベッド脇にきた。持っていたトレイをベッド脇のテーブルに置く。
「具合はどうかね」
やっぱり医者か。いや、こっちの世界で言うと治療師か。
「あー、先生ここは?」
「エドソン治療院。君が倒れていたところから、一番近くだったのでね。私が呼ばれ、みなでここに運んだ」
なるほど。街の小さな治療院、そんなところだろうか。
「先生は、避難してなかったんですか?」
聞いてみた。迷いの小路ができて避難している住民は多い。
「近所で残ってる人もいるのでね。さきに治療師が逃げ出すわけにも行かないだろう」
先生はそう言って笑った。四角張った顔だが、優しそうな人だ。歳は50ぐらいだろうか。元の世界なら、こういう町医者はもう少ない。
「さあ、少し苦いけど薬草を煎じてきた。これを飲んで、もう少し休もう」
先生はそう言って、おれを起こしてくれた。トレイに載せて持ってきたのは薬草らしい。陶器のカップに入った薬草の汁を飲ませてもらい、また横になった。
「ここに入院設備はないのでね。あとで国立治療院に転院することになる。いいね」
先生の言葉にうなずいた。
ティアともう少し話をしたかったけど、眠気がきた。眠気に勝てず、おれはまた瞼を閉じた。外の雨音がうるさい。どしゃぶりのようだ。ティアはどうやって帰るんだろう? そんな事を気にかけながら、おれは眠りに落ちた。
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