Ⅱ第五話 迷いの小路で誰かが迷子
次の日から、女の霊は出なかった。
おれは「迷いの
「迷いの小路」は調査と言っても、歩きまわるだけ。そして最初に起きた現象には出会っていない。
ニーンストンに、あの小路のことも聞こうか。憲兵も何か知っているかもしれない。そう思い始めたところ、ニーンストンのほうから呼び出しがあった。
ダフの防具屋にいた時だ。新しい盾を買おうと、ダフの店に寄るとニーンストンから伝言を預かっているらしい。
「早急に詰所に来てくれとのことだ」
「よく、この店に来るのがわかったな」
「いや、お前がまわりそうな場所に全て頼んだようだ」
寡黙なダフが教えてくれた。そうか、おれは最近、ギルドに毎日行かない。依頼はマクラフ婦人からのロードベルで取っているからだ。
こりゃ、よっぽどだな。大急ぎで駆け付けようと思ったが、盾を買いにきたんだった。
皮の盾と鉄の盾を持ってみる。やっぱり鉄の盾は重いなあ。あまり選んでいる暇もない。いつも通り皮の盾にした。丸い木の板に皮を張りつけた物だ。
剣は鉄製のショートソードにしているが、防具はあいかわらず皮の盾。軽いんだよね。
金を払い、出ようとしたら呼び止められた。
「マント、くたびれてるな。これも持ってけ」
ダフがマントを出した。いつもつけているのは灰色だが、これは黒い。
「黒染めのマントか」
「ああ、試しに作ってみた。試しなので代金はいいぞ」
おっ、そりゃラッキーだ。おれは黒のマントにつけかえ、ダフの防具屋を飛び出した。
港町の詰所に行くと、ニーンストンが待ちかねたかのように声をかけてくる。
「まずいことになりました」
「どうした、ガレンガイルが結婚でもするか?」
ニーンストンは力なく笑った。こりゃほんとに急ぎだな。
「カカカさん、迷いの小路って知ってます?」
もちろんうなずく。憲兵も知ってたのか。まあ、オリーブン城から直々の冒険者募集だった。そりゃ知ってるか。
「依頼は受けたよ」
「やっぱり。数人が依頼を受けたと聞きましたが、カカカさんだと思いました」
おお、あれ、早い者勝ちの案件だったのか。ちゃんと読んでなかった事を反省。ガレンガイルあたりが解決するかな。いや、ガレンガイルは輸送船の護衛に行ってたっけ。そんな話を噂で聞いた。
「カカカさんは何かご存じですか? あの小路について」
「いやあ、おれもまったくでね」
ニーンストンが落胆した顔をする。
「何かあったのか?」
「親子がふたり、あの小路から帰ってきてないようです」
「……行方不明か!」
「はい。母親からの連絡です。主人と娘が朝がたに出て、まだ帰ってきてないと」
おれは外にでて空を見上げた。今はもう昼過ぎだ。今日は秋なのに雲一つない。けっこう暑いぞ。さまよっている二人は疲労困憊だろう。
「早く見つかるといいのですが」
横に来たニーンストンが、紙を持っているのに気づいた。
「あっ、これ、まだ生死が掴めてない若い女性です」
ニーンストンから三枚の紙を受け取る。名前や経歴が書かれていた。
セシリー、ミラベル、オリヴィア。これ、オリヴィアって絶対オリーブからもじったろ。
年齢や経歴はバラバラだった。酒場で働いてた子もいれば、魔法学院を卒業して魔法局に勤めていたエリートもいる。あの女霊がどれかはわからない。この三人ではないかもしれないし。
「しっかし、異変がある地区に、のこのこ行くかね」
三人の経歴を見ながら言った。
「住民は少し残ってますし、ソーセージの配達だそうで、仕方ないですよ」
おれは動きを止めた。
「なんの配達って言った?」
「ソーセージです」
嫌な予感がする。
「娘の名前ってわかるか?」
「ええ。カリラっていう名前です」
くそっ! あのおしゃまめ! アクシデントを引き寄せるスキルでも持ってんのか。
おれは書類をリュックに放り込み、走り出した。
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